表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
63/73

057 女子無双

土曜日更新がちょっと無理でした。ご免なさい。

お待たせしました。

 ジーナロッテが上空に張り巡らしたのは6本の鋼線ワイヤーだ。戦場に駆けつけながら、ベルトに固定していた鋼線箱ワイヤーボックスを、庇の上を走りながら建物の外壁に押しつけ、勢いよく射出された鋼線ワイヤーが向こう側とこちらの建物の間に張り渡されるように、周辺に展開したのだ。


 罠師トラッパーであるジーナロッテの手持ち道具は、6種類。

 鋼線箱ワイヤーボックスは、冒険者ギルドで販売している素材箱の内部に、波泡花の花弁を仕込んだものだ。強く衝撃を与えると、花弁が爆発し射出された鋼線ワイヤーを二点間に張る仕掛けだ。


 火吹札フレイムフォンテは、罠札と呼ばれる素材紙に鳳仙花の種を砕いて乗せて、重曹をスライムオイルで溶いた保護液を塗って硬化させたもの。床に置いて踏みつけた際に硬化膜を割ると、火炎が吹き上がる。

 

 槍札スピアフロアは、罠札に樹霜の欠片を乗せて保護液を塗ったもので、火吹札フレイムフォンテと同様に踏みつけると、槍のように鋭利な木質の植物が一気に伸びる仕様である。


 手弾丸ハンドガンは、親指程の太さの、触れると丸くなる弾虫の干物を用い、内部に鳳仙花の種と苦土、炭粉を詰め込んだ丸薬だ。衝撃を与えるとそこから火を噴いて飛び、対象を貫く。手に握り込むように持ち、親指で弾くと最小限の動きで攻撃することも可能だ。


 その他、ダムフレスが4本と、ダムフレスをワザと出来損ないにして作成した強炎油がある。強炎油は火蜥蜴サラマンダーの皮を少なくしてミント水とスライムオイルの配合を変えた物で、粘着性と可燃性が強く、火吹札フレイムフォンテとの組み合わせを想定している。



 突然のジーナロッテの登場に街路で戦っていた冒険者達は驚いたが、なんであれ、少しでも援軍が来たのはありがたいものだ。しかし彼らは、罠師トラッパーの援護力に予想以上に驚く事になる。


 ジーナロッテの仕掛けた鋼線ワイヤーは迂闊に触れると対象を切るだけの力で張られており、しかも夜間と言うこともありかなり見えにくい。首が傷ついた巨人は何事が起こったか判らず、明らかに戸惑ってリエールへの敵意どころではなかった。また、シグマの前に現れた巨人も冒険者達の前で隙を晒す事になる。何も知らずに棍棒を振り上げたところ、振り上げた腕がその勢いのままさくりと、腕半ばまで切れてしまったのだ。


 シグマ達がこの隙を逃しては冒険者失格だ。敵の注意が他へ逸れれば、それだけこちらは回避を考えずに攻撃に専念できる。こうして冒険者達は次々と巨人達を打ち倒せるようになり、巨人との戦いが俄然、楽になってきたことをシグマ達は実感し始める。


「驚いたぜ。罠師トラッパーなんて迷宮向けの職業だと思っていたが」

「適度にダメージを与え、間引いたり進軍速度を調整してくれているんだ。おかげでこちらは目の前に集中できる」


 シグマと冒険者の重騎士-この頃には名乗りを終えていた-ディーガは肩を並べて戦いながら会話するだけの余裕が生まれていた。ジーナロッテによって、気がつけば彼らの元には適度に間隔を開けてその都度、敵が供給されるような戦域操作(コントロール)がされていたのだ。


 遠方から血の臭いに誘われるかのようにやってくる巨人達。しかし、進撃経路にはジーナロッテの罠が用意されている。


 通路に並べられた罠札。槍札スピアフロアを踏んでしまえば足下から急激に槍が伸びて巨人の足を串刺しにして動きを封じてしまう。火吹札フレイムフォンテを踏めば吹き上がる炎が巨人の下半身をあぶり始めるため、思わず後ずさる巨人。そこに強炎油を振りかければ粘着性の液体が飛び散り、引火した炎は簡単には消えずに巨人ですら焼き焦がし始める。

 熱さに巨人が暴れ始めたところでその周囲の巨人にさらに強炎油を振りかけて飛び火させ、被害を拡大させる。 


 街路の物陰や路地、周囲の屋根上など、空間と夜の闇を活用して瞬時に近づき、事を終えると離脱するジーナロッテは、罠以外にも、遠方から手弾丸ハンドガンで狙撃し、敵が密集した状態にあればダムフレスを投擲する。全て自分で倒しきらず、手負いの巨人を適度に冒険者達の待ち構える方向へ流せば自分が無理せずとも敵は減るし、さらにその間に罠の仕掛け直しも出来る。


 ジーナロッテの活躍により、その一帯は順調に巨人を倒し続けて早や2時間が過ぎた。


 そろそろ巨人の死体を寄せるにも場所が無くなり始め、さらには冒険者達も疲労が蓄積し、いい加減、市内に入り込んだ巨人も倒しきるのではないかと皆が思い始めた頃である。ジーナロッテにしても手持ちの道具はほぼ使い切りそうで、これ以上の継続戦闘は厳しいと思い始めていた矢先に、東方から野太い雄叫びが聞こえてきた。市内の冒険者達は知る由も無かったが、東門守備が劣勢に回り、再び巨人達が入り始めたのだ。



 ハギスフォート東門では重騎士達により防衛が続けられていた。頑丈だった門扉はこじ開けられた際に金具が痛んだらしく、再び閉じ直す事は無理であった。そのため、魔法による柱状の石の壁と、重騎士による防護で凌いでいたのだが、魔法の壁は時間が過ぎると消えてしまう為に、魔法を掛け直す必要がある。その何度目かの壁の消失するタイミングに合わせて、防衛陣地に眠りの魔法が掛けられたのだ。


 眠りの魔法に抵抗するにしても、柱の消失と合わせたタイミングでさらに、巨人が立派な木槍を初めて使い出した。意識が朦朧としかけ、守備範囲が急に広くなり、さらには重騎士達の攻撃範囲外からの槍による攻撃。

 クロッゼが直接指揮をしていればまだ良かったが、折しもクロッゼが状況確認や直接の指揮、戦闘の為に城壁各地を見て回っている最中の事である。


 最も、クロッゼの留守と壁魔法の消失と言った絶妙なタイミングを計り、木槍を巨人に提供したのはオレアナである。元々魔法使いであったオレアナの奸智はハギスフォート側をじわじわと苦しめていたのであった。



「どうする?またあれだけ入って来やがった!」

「とは言え、退路も無い。街中に隠れてやり過ごす手段もあるが、あちこち壊されるだろうし、市内に残ったままの一般人もいるぞ」


 新たな巨人集団を見て、シグマとディーガが相談している。それを見つつタワリンがジーナロッテに問いかけた。


「ジーナロッテ!あんたの罠は後どれくらい残っている!?新手に対抗出来そうか!?」

「無理よ!もうほとんど残っていないわ!ダムフレスが後2本!」


 ジーナロッテは庇から飛び降りるとシグマ達のそばへ行き、脳裏で検討した案を幾つか伝え始めた。建物をどうにかして壊し、その圧壊に巻き込んで行動を封じてダメージを与えるとか、魔法使いに地面に穴を開けてもらって敵を落とし込むとか。

 しかし、そもそも魔法使いがこの場ではタワリンだけであり、魔力ももう切れる寸前だという。まもなく、このままでは正面衝突による持久戦を強いられて終いには負けてしまうだろう。こうなると戦術的には撤退が最善だ。しかしジーナロッテには引くことが出来ない理由があるし、それに彼らをつき合わせる訳にはいかない。


「みんなはもう撤退して。私は建物の高低差を利用して奴らの牽制を続けるわ。知人が宿で寝込んでいるし、それに時間稼ぎすれば騎士団からの増援も来ると思うしね」


 ジーナロッテのその言葉に、1人だけ戦わせる訳にはいかないと言うディーガとシグマ。


「ここまで一緒に戦ったんだ。冒険者仲間としてあんたを置いていく訳にはいかねぇよ」

「君の戦況操作(コントロール)にどれだけ助けられた事か。その恩も果たさずに逃げるわけにはいくまいよ」

「ありがとう・・・・・・もう少し戦わせてね」


 一斉に頷くシグマ達に、自然と浮かぶ涙を隠すように深々と頭を下げるジーナロッテ。

 結局、もう少し粘って戦いながら騎士団からの応援が来る事を待つ持久戦に彼らは方針を決めたのであるが、この時彼らは知らなかった。

 実は騎士団は冒険者達の戦績が良い事に甘えて、その分の戦力を城壁側に割いていたのだ。この事を後に知ったクロッゼは彼らに謝罪し、報奨金をかなり上乗せすることで彼らに報いたのだが、彼らの苦労が多かったのはそれだけではない。

 巨人達も仲間が大勢倒されている事からこの戦域に増援を呼び込んでおり、結果、冒険者達の戦場は、ハギスフォート内部最大の激戦地となっていたのである。



 再び襲いかかってきた巨人達に対し、街路脇をこれまでの戦闘で発生した瓦礫を重ねて障害物とし、前衛1人が巨人と一対一になるようにする。これをシグマとディーガが交代しつつ死守する作戦だ。怪我の回復は僧侶のリエールと神官のハンスマンが居るし、魔法使いタワリンは魔力回復に休息しつつ、弓使いエリクが援護する。ジーナロッテは周囲の屋根上から、鞭で巨人の顔面を引っぱたいて注意を逸らす事にした。


 そうしてどれくらい戦っていた事だろう。誰かが何かを叫んだ。石状の何かが降ってくる。


 ジーナロッテがとっさに周囲を見渡すと、なんと後方の巨人が瓦礫を投げつけてきたではないか。慌てて回避し直撃は避けられたが、続く瓦礫の投擲は、巨人と対峙していたディーガに降りかかった。少しは知恵の回る巨人であったのだろう。これを続けられては敵との一対一の状況が崩れて流石に不利であり、このままではジーナロッテ達は窮地に追い込まれてしまう。


 さらに続けて何度か瓦礫が投げつけられ、不覚にもジーナロッテにとって直撃コースの瓦礫が投じられた。足下に散らばった瓦礫などにより、屋根上の回避空間が失われていたのだ。身をかがめて防御姿勢を取るジーナロッテ。


 思わず目を閉じたが、予想していた衝撃が来ない。


 おそるおそる目を開けると、そこには呆然としたシグマ達と、空中に止まったままの瓦礫。

 そして、宙に浮く女性の姿。


「寝込んじゃっててごめんなさい、ジーナロッテ。私も戦うわ」


 それは、ジーナロッテと同様に軽戦士の格好をした白磁の髪と肌の女性-死君主ディゾナーク―サーシャであった。



「飛んでる、だと!?」

「魔法使いには見えんがあれは“念導”!?」

「か、可憐だ!・・・・・・」


 エリク、タワリン、ハンスマンがそれぞれサーシャを見て呟く。若干、変な言葉が混ざっていることにディーガは気づいたが敢えて放置した。屋根から降りてきたジーナロッテにサーシャの事を問う。


「何者なんだ、彼女は?」

「私もこの街で知り合ったのだけどね。一緒に悪い魔法使いに捕まって、色々あったのよ。2人で脱出出来たけど、サーシャは色々な力を無理矢理持たせられちゃったの」


 見上げるジーナロッテ達の前で、サーシャは武器を探していた。本当であれば槍を使いたいのだが、そもそも何も持って居らず手ぶらであったのだ。とりあえずは念導力で瓦礫を投げ返し、向こうからの投擲は全て空中で停止させる。

 ジーナロッテに、宙に張り渡した鋼線ワイヤーに気をつけるように言われると、サーシャはそれを壁から切り離し、左右に張ったまま巨人達の首の高さで前方へ一気に走らせた。


 空飛ぶ断頭鋼線(ワイヤー)は3体目まで巨人の首を切り落としたが、それ以降は鋼線ワイヤーが耐えきれず切れてしまう。その後も残り5本の鋼線ワイヤーで同じように繰り返すサーシャ。今や巨人達の敵意は激しくサーシャに注がれていた。


『レギオンカースは使いたくないし、魔法使おうにも触媒が殆ど無いし、どうしようかな?』


 死君主ディゾナークになった際に様々な技能を習得したサーシャである。

 戦闘技術としては槍と剣、Lv5までの魔法とオレアナが持っていた魔法薬学の知識を習得していた。全てが借り物のようなものではあるが、それでも使うのであればせめて、魂の宝石(ソウルジェム)で吸収した名も無き女性戦士の槍技を使いたいと思うのだ。


『どこかに槍として使えそうな物がないかしら』


 そう思いつつ、取りあえずは念導力で巨人殴り始めるサーシャであった。



 ハギスフォート西方5ケリー。王都ラナエストから夜通し駆けてきたコーム・ノフィアス率いる増援部隊には既にハギスフォートの騒乱の音が聞こえ始めていた。たった今も激戦が続いていると思うと部隊全員に緊張と高揚が高まってくる。


「全員そのまま聞け!我々はこのまま西門から突入する。市街を東門まで直進しつつ、もし敵が入り込んでいる場合は立ちふさがる者のみ打ち倒せ。まずは東門へたどり着き城壁で我らの到着を知らせることを優先する!エベラードは東門付近で武器の据え付けだ。ロイとフラウスを付ける。ゴード殿はどうしますか?」

「ワシは市内に敵がおった場合はそちらを優先する。その後は外へ出て好きに暴れさせて貰うぞ!」


 コームにはゴードの言わんとすることが理解出来た。騎士団はどうしても外へ戦力を集中させている。避難勧告は出ているとは言え、市内にはおそらく一般人もまだまだ居るのだろう。国という大きな組織の目が届かない部分を、個人の目の届く範囲で救うべく仕官しない志を持つ戦士もいるのだ。ましてやその代表格が、この剣聖ゴードなのである。


「それで構いません。市内はお任せします。ただし、敵本陣への突撃までには東門へお願いしますよ!遅れたら巨人は私が全部倒します!」

「ハッハッハ!それならそれで構わんがな!そら、もうすぐだ!」


 話している間にもハギスフォート西門はどんどん近づいてきたが、その時、異変が起こった。コームの騎馬の鞍に留められていた魔槍ピアシーレが、小刻みに鳴動を始めたのだ。


『なんだ!?こんな事は初めてだ!ピアシーレが何か感じている!?』


 魔槍の鳴動は次第に激しくなり、コームは思わず手に取ってみた。握っても鳴動は止まない。しかし、コームには、魔槍が何故か先行したがっているように感じたのである。


『よく判らんが呼んだらちゃんと戻って来いよ!』


 元々、自動で戻ってくる魔法の込められた槍である。

突進する馬上でコームは自分の感じるままに、瞬時に騎士魔法ナイトルーンを発動し、そのまま前方上空へ魔槍を投擲したのであった。



 空をつんざく音に何事かとサーシャ達が見ると、紫色の燐光に包まれた物体がサーシャ目掛けて飛んでくる。サーシャが警戒すると、その物体は速度を落としてサーシャの周りを遠巻きにぐるぐると回り始めた。まるで犬がじゃれつくかのようなその動きにサーシャが目を丸くすると、動きがさらにゆっくりになり、サーシャの右手付近にスウッと止まる。


「あなた、どこから来たの?使えって言うの?」


 サーシャが恐る恐る手を伸ばすと、槍は右手の中に飛び込んできた。握った瞬間に、電撃が走るかのように幾つかの情報がサーシャの脳裏に駆け抜ける。


 槍の名は、魔槍ピアシーレ。宙にあると自己加速しその動きが許す範囲で敵を自動追尾する。自動で使い手の元に瞬間移動するため、何度でも投擲可能。


 ああ、そう言えばこの槍は知っている気がする。


 着地したサーシャは騎士魔法ナイトルーンを発動させながら目の前で魔槍を風車のように回転させると、そのまま後ろへ引くように構えてから前方目掛けて思いっきり投擲した。


 投げた感覚も何故か懐かしい。


 サーシャはそんな感慨を抱いたが、現実は、特に巨人達にとってはそれどころでは無い。

 魔槍ピアシーレが前方に群がる巨人達をまとめて貫き、手元に戻ってくる。なまじ敵が群がっている分だけその被害は甚大で、2投目、3投目と続けるだけで巨人の屍は累々と築かれ、瞬く間に巨人の生き残りは数体だけになってしまったのであった。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてあります。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ