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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
62/73

056 戦火のハギスフォート

日曜日はバレン・タイン伯爵の記念日だということをすっかり忘れていたではないか。

おかげで朝からザッハトルテ作成に時間を食ってしまい、更新が遅れました。すみません。

ザッハトルテ、初挑戦ながら美味かったです(半分嘘です)。

 ハギスフォートのその夜の戦いは、物量に任せた巨人族の突撃が引き続き繰り広げられていたが、数だけは多いものの、巨人の力任せの襲撃は城壁とそこを守る騎士、兵士達によって防がれていた。


 ハギスフォートの城壁は4マトルの高さがある。ヒューム族の大人の身長が大体1マトル弱で、身長の4倍以上の壁高は城塞建築の基本となっている。しかし、森巨人フォレスト・ジャイアントの身長はおおむね2マトル強。襲撃頻度とこれまでの防衛経験、そして現実的に高すぎる壁は建築費用や市内の日照に問題があることから、ハギスフォート城壁は4マトルの高さのままであった。


 巨人達は昔からハギスフォートの城壁に攻撃する手法は決まっている。それは。

 直接殴りつける。巨大な棍棒で叩きつける。粗末な作りの丸太で組んだ梯子を城壁に掛けて直接乗り入れようとしたり、蔓草で編んだ太いロープに結わえた岩塊を振り回した遠心力で城壁上に叩き付け、引っかけたロープを登ろうとする。


 対する守備側は、城壁下に近づく巨人達に弓矢、魔法、槍の投擲などで攻撃し、城壁に掛けられた梯子を壊したり掛けられたロープや巨人の指を斬る事によって、防衛をしている。今回は、これにジーナロッテの調合したダムフレスが加わることによって、眼下に密集する巨人達に効果的な痛手を負わせることが出来ていた。


 しかし、順調な作業は次第に慣れと共に油断を誘い始めるものだ。


「そうらよっと!」


 気の抜けたかけ声と共に城壁上の兵士がダムフレスを投擲する。弧を描くそれは、特に密集していない巨人達の集団に投げ込まれ、爆発を起こして三体の巨人を吹き飛ばした。


「おい、ダムフレスはもう残り少ないって言ってたじゃないか!もっと大事にしろよ!」

「大丈夫だって!どうせこいつら、芸が無い攻撃しかしてこないし、明日になりゃあ援軍も来るんだろ。余裕だって!」


 気の緩んだ同僚にもう一人の兵士は厳しく指摘するが、相手は全然聞く耳を持たない。

 今晩の戦いは、最初のうちは肌が黒く変わる謎の奇病が発生し、一時、陣営に混乱が発生した。黒ずくめの悪魔が影から襲ってきたとか、黒い蛇皮の皮膚は触ればうつるとか、しかし何故かそれも収まり、敵の呪いを義勇兵の魔法使いが祓ったとか、集団で幻覚を見たのではないかとか憶測が広がる程度で、その後は淡々と防衛戦が繰り広げられていた。


 巨人達の攻撃は単調で、城壁に手を掛ける者も減ってくると、飛び道具を持たない兵士はその出番が少なくなってくる。ダムフレスが有効な事も相まって、前線の兵士達からは緊張感が薄れ、結果、ダムフレスを投擲するくらいしかやることが無くなってくるし、明日には王都から増援が来るとも聞かされている。自然と、防衛戦も惰性に流されるものへと変わりつつあるのであった。


 そんな折である。東から真っ直ぐに東門目掛けて疾駆する巨人の一団を、兵士達は発見した。


「おい!あれはなんだ!?」


 兵士の一人が声を上げると、釣られて周囲の兵士・騎士達が外を見る。騎士の一人が騎士魔法ナイトルーンで視力を強化して遠方を見ると、そこには遠近感を無視したかのような巨大な方形盾ヒーターシールドが2枚、並んで駆けてくる。

 それは、巨大な盾に身を隠して突進してくる巨人達であった。


「馬鹿な!巨人がなぜあんな装備をしている!?」

 

 騎士が驚くのも無理はない。巨人達は粗末な道具を作成して使用するのが精々で、木材を湾曲させて整形し、金属の縁固めをした方形盾ヒーターシールドを使用するなど考えられない事なのだ。

騎士が驚いているうちに、巨人達は近づいてくる。やがて、城壁による高低差と巨人達との距離が、ようやく観察中の騎士に事の全容を理解させた。


「破城槌だ!巨人が、破城槌を持って突進してくる!」


 盾を持つ巨人2人を先頭に、後ろに6人の巨人達が巨大な杭を運んでいるのだ。

 丸太の皮を剥いで真っ直ぐに整形したように見える白木の杭に、持ち手の様な物を取り付けて駆け込んでくる。


 既に迎撃の弓矢や槍の投擲、魔法による攻撃が飛んでいるが、戦闘の巨大な盾に防がれて巨人達の進みは全く衰えない。見る間に接近する巨人達。

先頭の盾持ち巨人二人が左右に散開し、その影から飛び出す破城槌は、ハギスフォート東門に轟音を上げて激突した。


 巨大な質量と運動力の衝突に、大気を振るわす衝撃音と振動が起こり、戦域上の全ての者達の注意が東門へ向く。それは、太守府内に居た上級千人隊長クロッゼも何事かと飛び出さざるを得ないものであった。



「まだ、無事だ!」


 破城槌の激突に耐えきった東門を見て安堵する兵士達。しかし、そこへ、巨人達が猛攻を仕掛けてきた。一斉に大波のように巨人集団が突進し、これまでとは違って先頭にいる者達が身体毎、城壁に突進してくる。城壁にぶつかった巨人は両手を壁について足を開き立つ。その股下に、次の巨人が頭を入れて片膝を地に付ける。


 これまで見た事もない巨人達の行動に、思わず騎士兵士達も眺めてしまうが、次の瞬間には彼らの思考は停止した。


 巨人が跳躍し、城壁上に登り切ったのだ。


 後続の巨人が、前2人の背中と肩を踏み台にして跳躍することにより、腹ばいになりながらも城壁上に届いてしまったのである。同様の光景が各地で発生し、さらには、先程の東門への攻撃と同様に、再び盾を持ち突進してくる巨人集団が発見された。


「また来るぞ!」


 破城槌を構えた第二陣が突進してくる。迎撃をしようにも、城壁に登り切った巨人の相手もやらねばならず第一陣の時程の迎撃も出来ない。折しもオルフェル達が壁上に到着する。


 ミーナが氷弾銃スフィル・ネイルで巨人の目を狙い撃つと、貫かれた眼球の痛みと凍り付いたまぶたで視界を失った巨人は、2マトルしか幅がない城壁上で闇雲に動いて外へ落下する。


 オルフェルは騎士魔法ナイトルーンを使用して、自分の左籠手に騎士魔力ナイトマナを喰らわせる。矢尻が赤熱し炎が点る矢―“爆発の矢(プロジェット)”―は、腹ばいになって城壁に取りついている巨人の横腹で爆発し、壁外へと吹き飛ばした。


 シフォンは弓技、五流星ファイブスターを壁上の巨人目掛けて放ったが、巨人の身体に刺さった矢は、あまりダメージを与えていないようだ。一呼吸入れたシフォンは、騎士魔法ナイトルーンを発動させ始める。

 郷里エルダーウッドではあまり実戦経験が無く、シフォンにとって竜殺し(ドラゴンキラー)のオルフェルは直近の世代で最後に実戦を経験した存在であり、頼れる兄貴的存在であった。いつか追いつき、共に世界を回りたいと思って修行してきたその成果。


 全身はおろか、弓矢にまで纏った青白い燐光の中で、シフォンは修行の成果を発射する。


『秘弓術、光縛矢ライバイト!』


 矢と共に放たれた、弓の弦の形をした光。それは、空中で巨大化し、敵に刺さると同時に反りを逆にするかのように巨人の身体を拘束する光の帯へと変わる。

 元々は空飛ぶ大型動物を行動不能にする技であるが、巨人の巨体をも直立不動の拘束状態にしたために、バランスを崩した巨人は4マトル下に頭から落ちていくのであった。


 ミーナ達3人の参加は、城壁上の士気を鼓舞するものであったが、残念ながら、到着したばかりの彼らには破城槌で突進してくる一団の動きまでは把握出来ていない。そのため、東門の防衛に回る動きまでは出来ず・・・・・・


 ガッゴォォォォンッツ!!!


 再び大気を振るわす轟音と振動が響くと、東門が遂に押し開かれてしまったのであった。


 クロッゼが東門上に辿り着いた時に見たものは、第二陣の破城槌が最初の破城槌の後部に激突し、そのまま東門を押し開いた瞬間である。


「なんたる失態かっ!魔法使い!東門に魔法で壁を作れっ!控え部隊には市中に入り込んだ敵の殲滅を伝えろっ!」


 クロッゼが激を飛ばすが、動揺した味方は浮き足立っている。魔法使い達も、破城槌が残っていて魔法による壁が作れないと言ってきた。


「石でも岩でも良い。柱状ならば避けて壁を作れるだろうっ!」


 クロッゼの眼下で巨人達が嬉々として東門から侵入を始めており事態は一国の猶予もない。

 騎士魔法ナイトルーンを発言させ、青白い燐光を纏ったクロッゼは、眼下に飛び降りると同時に長剣を両手持ちにして、一体の巨人を脳天から股下まで真っ二つに切り裂いた。

 その凄まじい技のキレに、熱に浮かされたかのように市内へ突入しようとしていた巨人達の足が止まる。すかさず身体を右回転させるクロッゼ。


青薔薇の陣(ロザシアンエッジ)!』


 剣身にも騎士魔力ナイトマナを纏わせ、青白い燐光オーラの刃を伸ばして回転する剣技は、東門に近づく周囲の巨人や残っていた破城槌を切り刻んだ。続いて、これ以上の巨人達の侵入を防ぐべく、周囲に柱状に形を整えた魔法による石柱が立ち並び始める。


「重騎士は前へ出ろ!石柱を盾にして、隙間から攻撃を通せ!」


 クロッゼの命により、大型の盾と槍を構えた重騎士達が前へ出る。巨人の身体では柱間の隙間を利用した縦の振り下ろし攻撃しか出来ず、対してこちらは槍により迎撃が可能である。門が破られるという重大事故アクシデントがあったが、これで東門は再びなんとかなりそうだ。城壁上の巨人も、オルフェル達が一撃必殺の強弓で仕留めていくに連れ、兵士達も落ち着いたのか対処し始めている。槍よりもむしろ長柄斧ハルバードに持ち替え、城壁に腹ばいに登る巨人の顔や手に振り下ろして再び落とし始めたのだ。さらに、城壁内の狭間からは槍持つ兵士が、壁に手を付く巨人達を優先して攻撃し始めていた。

 残る問題は、市内へ入り込んでしまった巨人の掃討である。冒険者主体とはなるであろうが、騎士団として待機中の者も全て駆り出さなければならないであろう。


 クロッゼは市内へ戻ろうとして、自らが切り刻んだ破城槌の残骸を見た。

 第一陣の巨人達が残した破城槌には、脚のような支えの架台が付いており、木杭の表面は皮が剥かれただけではなく、綺麗に整えられてえた円柱状に整形されている。扉をこじ開けた先端部は鉄製の縁取りで強度を上げており、これらはどう見ても巨人の作には見えなかった。大盾を持っていたことも含め、巨人の背後には何者かが存在しているのだ。それは、オルフェル達の報告にあったナギス村へ現れた悪魔だけではないように、クロッゼには思えるのであった。



 ハギスフォート城壁より東へ1ケリー、森巨人フォレスト・ジャイアント本陣。

 魔人ディアブラントとなったオレアナと悪魔フォーリナムは、部族長ヘカリッサの右肩上に腰を降ろし、遠見の能力で城壁戦を観察していた。


「思ったより上手くいったな。お前の作った大盾と破城槌、効いたじゃないか」

「一撃目で油断を誘い、二撃目は城壁から離れるだけ攻撃を受けづらくなる。よもや巨人が人間以上の戦術を使うなんて思ってもいないでしょうからねぇ。でも、フォーリナム様の城壁超えの作戦もタイミングがバッチリ!」

「本来あれくらいは出来る筈なんだ。むしろ、教え込むのが大変だったからな。巨木に手を付いてあの姿勢を教え込むのに、数日かかった。何しろ、こいつらはあの格好になると別の事に夢中になるからな」

「えっ!?それってまさか・・・・・・」


 魔人ディアブラントとなってもオレアナは元々博識な女性である。嫌な想像に冷や汗をかくオレアナに、フォーリナムがニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「巨人共は卵で増えるって知ってたか?しかもこいつらに雌は居ない。両方の性質を持っているんだ」

 

 あらまぁ、と感心するオレアナに、巨人族の生態や生け贄を利用した暗黒魔法等の講釈を始めるフォーリナム。オレアナは巨人が切りだしてきた丸太に物質変化系統Lv1の「整形」やLv3「元素加工」で巨人用の槍を造り出しつつ、魔人ディアブラントとして覚えるべき知識に耳を傾ける。

 クロッゼが懸念した、対巨人戦を困難なものとしている要因が魔人ディアブラントオレアナであることを、ラナエスト王国側では誰も知る由もないのであった。



 ハギスフォート市内、冒険者ギルド付近では、冒険者達と巨人達との市街戦が繰り広げられていた。


 その戦乱の喧噪は、冒険者ギルド2階の宿泊室にも聞こえており、ジーナロッテは手早く荷物をまとめ始めた。元々は、オルフェル達が防衛戦に向かう間、運び込んだナクトとサーシャの付き添いがてら、昼間に購入した材料を用いて色々と道具を作成していたのだが、しかし。


 よもや巨人達が市内に入り込むとは。このままでは市内に安全圏はない。


 ジーナロッテは身支度を終えると、ベッドに眠るサーシャの顔を覗き込んだ。レギオンカースによってあれほど醜く変貌していた顔は、一転して白磁のような白さの整った顔になっている。

 死君主ディゾナーク―望まずとも、巻き込まれるように人外へと転生してしまった彼女、サーシャにはこれからどんな運命が待ち受けるのだろうか。思いも掛けず自動人形オートマータから人間へと変化したジーナロッテにとって、他人事のようには思えないのだ。目覚めた時用に手配した着替えをナクトとサーシャの寝ている脇机に置いて、ジーナロッテは2人に向かって小声で宣言した。


「行ってくるね。貴方達は私が守るから」


 ジーナロッテは部屋の窓を開け、冒険者達に合流すべく、庇に降り立って駆けだした。



 振り下ろされる巨人の棍棒を両手剣で必死に受け流したのは戦士のシグマ。その隙を仲間のタワリンが風刃の魔法で攻撃するが、顔に浅い傷を負わせるのみだ。巨人の右後方には茨に捕らえられているもう一体がおり、僧侶のリエールは茨の維持に集中している為、神魔法の補助は期待出来ない。

 巨人の左後方から、新たな巨人がぬうっと姿を現す。流石に二体同時は相手出来んっ、とシグマが冷や汗をかいた次の瞬間、大型盾に全身金属鎧の重騎士が、戦士の右手側で新手の攻撃を受け止めた。


「スマン、恩に着るっ!」

「お互い様だっ!気にするな!」


 てっきりラナエストの騎士かとシグマが思いきや、良く見ると色々と調整カスタマイズされたその鎧姿は冒険者なのだろうか。さらに目を引くのは、重騎士の右手に持つ得物が、巨大な鎌であったことだ。

 後ろには重騎士の仲間らしき弓使いと神官が居る。これでなんとかこの場は凌げるかと思いつつ、隙を見てシグマは巨人の腹部に両手剣を突き入れた。リエールによる「茨の拘束」が解かれ、続いて次の巨人と相対しようとしたのだがその時、別の巨人がシグマの前に割り込んで来る。


『まずい、このままではリエールに敵対心が向いたままだ!』


 焦るシグマの前で、巨人が接近しようと大きく足を踏み出すが。

 次の瞬間、巨人が首元を押さえて痛がり始めた。


「上空に鋼線ワイヤーを張ったわ。貴方達には問題無いけど、武器を振り上げるときだけ注意してね!」


 声の主を捜すシグマが見つけたのは、建物の2階の窓の下、屋根上に居る軽装の戦士、ジーナロッテだった。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてありますが、特に今回の話とは関連が深い内容となっています。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

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