045 王城会議2
いつもより若干早く更新できました。
気力が上がるって良いね。
2015/12/27
修正を行っています。
ラナエスト王城の会議室ではアキネル戦線の議題は終わり、続いてハギスフォート戦線の議題へと出席者のほとんどが思いきや、モルヴィス王が予定を覆す。
「ブルフォス村のジオスナーから連絡が届いた。ブルフォス村は本日の午前中、一匹の悪魔に率いられた飛竜と魔竜兵、そして魔黒竜トシュレペなる竜の襲撃を受けたらしい」
モルヴィス王とノキアを除く皆が驚愕する中、ウィルフリード王子が問いかけた。
「魔黒竜トシュレペとは一体?」
モルヴィスも知らないため父子そろってノキアを見ると。
「邪竜神ロドンの配下の竜の一頭で、魔界に住まう黒竜です。ロドンの眷属の中でも下位の存在ですが、地上に出れば通常の成竜並には強いでしょう。おそらくその悪魔が召喚したと思われます。元々、魔竜兵も生け贄を与えて魔界から竜の乗り手として呼び出される存在なのです。魔竜兵が倒されてから、その命を代償にトシュレペを召喚したのでしょうね」
「それで、ブルフォス村の状況はどうなったのですか?」
コームが尋ねる。
「冒険者達によって敵襲は退けられたようだ。流石は“冒険者の育成場”よな。黒幕は一匹の悪魔のようだが、しかし、その名前も目的も聞き出す前に倒されてしまったらしい。問題は・・・・・・ソルスレート帝国の地竜騎士団とやらが、ウルスラント山脈の地中に隧道を掘り抜き、ブルフォス村近郊に出現したらしい。彼らはそのままブルフォス村の防衛戦に参加してトシュレペを屠り、悪魔に止めを刺してしまったようだ」
「なんと!ソルスレートが!?」
「さては奴らが黒幕ですか!」
コームが驚き、シヴァースは地竜騎士団が証拠隠滅を計ったのでは?と疑うが。
「それはないでしょう。彼らは数年掛かりで隧道を掘って来たとの事。隧道を利用した北方交易路の管理権、使用料、また、隧道建設費用の対価としてブルフォス村の移管を求めています。トシュレペを使って村を攻撃するのは彼らに益はありません。こちらと全面戦争を行うつもりもないでしょうし」
ノキアの言葉にモルヴィス王が驚く。
「驚いたな。お主もう情報を仕入れているのか!?」
「いえ。実は陛下への手紙と一緒に、早馬が私宛にも手紙を寄越したのです。私の教え子が丁度現場に居合わせ、ソルスレート騎士団とブルフォス村の仲裁に立って私に手紙をくれたのです」
お主の教え子とな?との王の問いに、吟遊詩人ラサヤの事を答えるノキア。
「アキネルに妹でブルフォスに教え子かよ。こりゃあハギスフォートにもなんか伝手がありそうだな」
ガロウドが茶化すが、全部偶然で流石にハギスフォートに伝手はないというノキア。
「全面戦争を行うつもりが帝国にはないという理由は?南進はソルスレートの国是では?」
シヴァース財務大臣の問いには、ユーノス騎士団長が応えた。
「シヴァース大臣、地竜騎士団はせいぜい数十名。彼らとの戦闘は勝負にならんよ。そして、ソルスレート本国からの増援は隧道を潜ってくるとすれば、我らは出口で待ち構えるだけでなんとでもなる。狭く避けられない密閉空間に、長くなる派兵距離。それに対して我らはブルフォス村を補給基地とするため兵站に優れているからな」
「後続の派兵がすぐ来て電撃作戦を行うならまだ可能性もあるのですが、それもなさそうですし。向こうのサレイアという騎士が交渉に出向いたようですが、内容は、我が国との折衝をしたく、地竜騎士団は外交団としての扱いを希望しているようです。彼らは軍事よりも経済と物流で勝負を仕掛けてきているのです」
ノキアの補足情報にううむと唸るシヴァース。
「問題は、隧道・・・・・・トンネルと言ったか。それの今後の扱いとソルスレート帝国と我が国がどうつき合っていくか、だが」
「実はトンネルそのものが帝国を圧倒的に有利にさせています。あれの価値は商人や旅人にとって非常に重要であり、例えば、ラナエスト王国がトンネルの利用を禁じればそれだけでこの国の評判は落ちるでしょう。トルネスタン王国から十二公国領を経由する現状の北上交易路が、ラナート平原を北上するだけで短縮できるのです。おそらく4ヶ月の道のりが2日で通過出来る。この価値は全人類にとってのものと言っても良いです。地竜騎士団の行動は国家間の思惑はともかく、認められるべきものでしょう」
「つまり、トンネルの通行は認めざるを得ないと?」
シヴァースの問いにノキアは頷く。
「ルモンズからソルスレートまでの南北街道が機能することにより、大陸の物流は変わるでしょうね。オウカヤーシュとロンク―もほぼ国交が無かったソルスレート帝国と物流を結ぶ事が出来ますし、この王都の経済も活性化するでしょう」
ノキアの分析にシヴァースは笑みを浮かべるが。
「しかし、北方交易のためにこれまで隊商が通過していたトルネスタンや十二公国領にとっては今回のトンネルは忌まわしい存在となります。また、シュナイエン帝国もこれまでの交易品がソルスレート経由になると、シュナイエン帝国まで回っていかない可能性もあります。そうなると、これらの国々はトンネル利用者の妨害もしくは、破壊を企てるかも知れない。また、ラナエストがソルスレートと同盟を組んで西方諸国と敵対しようとしていると責め立てる可能性もあります」
シヴァースの表情が一変して青くなる。
「また、ソルスレート帝国がルモンズの船乗りと契約し、南洋に出るためにラナート平原を縦断させろと言ってきた場合、我が国はどうすべきか。少数ならまだしも他国の大部隊に悠然と通過されるのは困りものです」
「なんてこった!経済はともかく、政治的にはすげえ厄介な代物じゃねえか!」
「他国の軍が普段から大部隊で歩き回られてはラナエストの治安上良いものではありませんな」
ガロウドが頭を抱えて叫び、コームが溜息をつく。
一同の難しい表情を見渡し、モルヴィスはノキアを見据えた。
「状況はこれで皆も判ったであろう。さて、ノキアよ。お主にはもう解決策はあるのではないか?」
「一応はございますが皆様にご理解いただけるかどうか」
それからノキアが語った、これからとるべき解決策に一同は唖然とする。
「そんな馬鹿な事が・・・・・・」
「しかし軍略上は理に適っている」
シヴァースが呟くが、ユーノスはその意義を認めていた。
「ハッハッハ!新しい時代なのかもしれぬなぁ!」
「そんな事が出来ると思うのか?ノキア!?」
ゴードは無遠慮に面白がり、ウィルフリード王子は興奮して卓を叩くが、ノキアは涼しい顔をして言った。
「出来ると思うのか?では無くて、やるしかないと考えています。そして、やるのは殿下ですよ。外交特使として、この戦時下に地竜騎士団と交渉する役目は殿下しかおりません」
「俺がぁ!?」
ウィルフリード王子は呆然として父王と顔を見合わせる。
ニヤリと笑うモルヴィス王。
「まぁ、良い機会だろう。ブルフォスにはお前が行ってこい」
こうして、ブルフォス村への外交特使はウィルフリード王子が務めることになり、ソルスレート帝国との交渉の全権は王子に任されることとなった。
議題は続いてハギスフォート戦線に移り、ユーノスから現況報告が行われる。
「クロッゼからの報告では、ハギスフォート東方10ケリーに巨人達が陣取っているようです。その数はおよそ8千。昨日時点では1万2千程居たようですが、初戦でかなり減らしたようです。また、それとは別に5千の別働隊が南方、シナギー領へ向かいましたが、そちらはシナギー族が撃退した模様です」
「シナギー領まで狙われたか・・・・・・あそこを遅う者は居ないと思っておったが、油断した。被害がそれほど無ければ良いのだが・・・・・・」
モルヴィスが沈痛を顔に浮かべる。シナギー領は自治を与えているとはいえ、ラナエスト王国に属しているのだ。戦略的価値がない場所にあり、これまでは外敵の心配をする必要がないと考えていたところに今回の襲撃である。
「シナギー族は小柄ながらも好奇心旺盛で若い世代は冒険を好みます。本気になれば中々の戦力になるのかと。報告では詳細は不明ですが、『田んぼの肥やしにしてやった』とクロッゼが報告を受けているようです」
その報告に思わず笑みを浮かべてしまう一同。
「ハギスフォートですが、エルフの冒険者からもたらされた“ダムフレス”という火薬を用いたおかげで防衛戦では非常に役立ったとのことです。このエルフの冒険者が仲間のシナギーと共にシナギー領に危機を伝え、先ほどのシナギー領の攻防戦の結果を携えて再びハギスフォートに戻ったとのことです」
「中々の功労者よの。その者は何者だ?」
「狩人にして鍛冶師のオルフェルという者で王都から来たと。同行しているシナギーはミーナ、その他にもエルフのシフォン、ヒュームのジーナロッテと4人組のようです」
その報告にモルヴィスは何か心に引っかかったが、その答を出したのはゴードである。
「ミーナとはテオストラの報告時に一度面会しておるじゃろう。シャティルの仲間達じゃよ。オルフェルにはワシからシャティル用の防具を頼んでいてな、なかなかの腕前の鍛冶師でもある」
「シャティルは西で仲間は東か。銀の剣匠とその仲間でまた名声を上げそうだな」
ウィルフリードがニヤリと笑った。
「さて、ハギスフォートへの増援はどうしますか?」
コームが話を戻そうとするが、そこには別の意図もある事に、この場の誰もが気づいていた。
「アキネルは強者が集っているようだが、ハギスフォートは、士気向上も兼ねて増援を送らんとな。どうせお前が行きたいのだろう」
モルヴィスの指摘にコームが恐れ入る。
コーム・ノフィアス。若くして冒険者をしていた彼は、冒険者時代に魔槍ビアシーレを入手した槍使いだ。
15年前の巨人襲来の際、22歳の彼はハギスフォート攻防戦に参加し、その投擲術で以て巨人達の頭をことごとく貫き、“巨人殺し”と周囲から呼ばれるようになった。その功績により騎士に抜擢され現在に到るのだが、そのような経緯を持つからこそ、巨人相手に自分が行かずして誰が行くという思いが強かったのだ。
「コームが行くのは決定として、現状であまり王都から騎士団は動かしたくはないな。この戦争の黒幕が何を企んでいるか気になるところもある」
「かといってあまり兵力が少なくては前線の指揮に関わります」
「とはいえ、騎士団長を動かしては諸外国の笑いものにもなろうよ。ウィルはブルフォスに行くしな・・・・・・」
モルヴィスとユーノスの会話に、コームは自分の配下で10人も居れば充分と具申したところでゴードから思わぬ提案が上がる。
「ふむ。なんならワシが同行しよう。ワシだけ遊んでいる訳にもいくまいよ」
「剣聖殿が!?」
「確かに、お主なら問題はないが、良いのか?」
モルヴィスの確認に、ゴードは不敵に笑う。
「孫も頑張っておるし、武闘祭に先駆けて剣聖の強さを改めて知らしめるにも良いじゃろう。前回の武闘祭では剣聖は誕生して居らぬしな。それにそもそもはこの国に仕える予定であった息子の分も働かないとなるまいよ」
ゴードの息子、シャティルの父のエクスダイ・ヴァンフォートもまた剣聖であるが、ずっと行方不明なのである。
「全く、どこで何をしておるのだか、あの馬鹿は」
溜息をつくユーノス。武闘祭決勝でエクスダイに惜敗したユーノスにしてみれば、エクスダイは親友にしてライバルだったのだ。その男が長年行方不明となれば、心配を通り越して文句も言いたくなるところであった。
ハギスフォート戦線の議題は以上で終わり、夜のうちにコーム以下10名の騎士と、剣聖ゴードがハギスフォートへの増援として出発する事となったのである。
王都ラナエストの深夜、東門―
時刻は深夜近くである。騎馬で走り通せば翌朝にはハギスフォートに到着できる行程のため、王城会議後に支度を終えたコーム達10名の騎士は、ゴードの分も含めて11頭の騎馬を用意して東門に集まった。待ち合わせ場所を東門にして、まもなくゴードも来る予定であるのだが。
コームは東門の前の喧噪に気がついた。見ると、東門の前に2頭立ての1台の荷馬車が止まっており、何者かが衛兵とやりとりしている。
一足先に着いていた部下に話を聞くと、どうやら禁止されているのに夜間に門を開けるよう粘っているのだとか。ハギスフォートを目指すらしい。
王都の門は20時以降は基本閉めており、早朝4時までは開かない取り決めだ。そのため、ハギスフォートから避難してきた難民も夜は壁の外側で野営している。そんな中で一般市民のために開門したらどうなるかを考えれば、それは認められない行為だ。
流石に王都のすぐそばまで敵が攻めてきたら人々を取り込んで守らねばならないが、幸いにしてこれまでそのような状態に陥ったことは無く、王城の公務関係でなければ夜間に門は開かない。
コームが東門に近づくと、どうやら衛兵に食い下がっているのは細面で細目だが体つきの締まった感の男性で、鍛冶師でエベラードという名であることが判った。ハギスフォート戦線に武器を持っていく為に衛兵と交渉しているようだが。少し興味が出たコームが話しかけようとした時である。
「エベラードではないか。どうしたんじゃ?」
到着したばかりのゴードが後ろからやってきて件の鍛冶師に話しかけた事から、剣聖の知り合いである事にコームは驚いた。
「ゴードさん!?なぜここに?」
「ワシらはこれからハギスフォートへの増援にな。お主はどうしたんじゃ?」
エベラードはハギスフォート防衛戦の噂を聞きつけ、自分が新開発した武器を持っていこうとしているのだった。対巨人向けに作られており、間違いなく防衛戦の役に立てるという。
コームが試しに、その武器を見せてもらおうと積み荷に掛けられた麻布を剥いでもらうと。
そこにあったのは、3丁の巨大なクロスボウであった。ただし、通常と違うのは、無数の円盤状の部品が組み込まれ、その間を弦が複雑に通り抜けている。縁板は太く、1マトル弱の長さがあり、矢を据える中心部も矢ではなく槍が乗せられるほど太く作られている。その他には無数の円盤や弦などの組み立て前の部材と思えるもの、それから木の槍の束が3組だ。
「これは一体?どう使うんだ?」
コームの問いにエベラードは答えた。
「機械式投擲と名付けました。城壁に取り付ければ、槍をクロスボウの様に飛ばすことが出来ます。弦を引くのも機械仕掛けにして腕力はさほど入りません。対巨人用として作成したので今回の戦いには役立つと思います」
「なぜ、わざわざ対巨人用の武器を作ったんだ?用意が良いと言うか何というか・・・・・・?」
「武具品評会に向けて研究中でした。元はシナギー用のクロスボウとして開発したのですが、その大きさでは他に代わりとなる武器はあります。しかし、この大きさにもなると、他に代わるものはありません」
正確に言えば代わりとなるものはあるのだが、それは武器では無くてコームの技である。一般兵がコーム並の投槍が出来るようになるのであれば、確かにこれは有用であった。
「これは3丁だけか?」
「組み上がったものは3丁ですが、部品はさらに5丁分あります」
ふむ、と頷き、コームは決断した。荷馬車も2頭引きであるし、行軍にはついてこれるであろう。
「よし、エベラードと言ったな。君は剣聖殿の知り合いでもあるし身元についても問題ないようだ。義勇兵として我が隊に組み込もう。我々とこれからハギスフォートに向かう事で良いか?」
「是非お願いします!」
こうして、 “巨人殺し”コームと9人の配下の騎士、剣聖ゴード、鍛冶師エベラード達はハギスフォートへの増援として、夜を徹して街道を走るのであった。
宜しければ応援、感想、レビュー、ブクマ登録等、よろしくお願いします!




