041 イアン激闘
モグラがピンチです。
2015/12/27
修正を行っています。
時刻はスフィがイアンを馬鹿呼ばわりした時よりいくらか遡る。
飛竜の編隊を山林から見上げて驚いたイアンであったが、運の悪い事に魔竜兵が一人、地表にいるイアンに気づいた。一頭だけ向きを変えて自分目掛けて急降下して来たので舌打ちするイアン。ブルフォス村に駆けつけたいのに邪魔が入ったからだ。
『せめて、この1匹だけでも倒して村の負担を減らせればいいが』
イアンは左腰から新調した湾刀を右手で抜き放ち構える。
イアンが愛用している武器は1アルムス半程、大人の膝から足下位の刃渡りの武器である。短めの幅広な片手剣を途中で折り曲げたかのような湾刀は、地球であればククリナイフと呼ばれた部類の武器だ。イアン自身はブーメランのようだと思っている。これを左右の腰に1本ずつ装備し、二刀流で使用するのがイアンの戦闘スタイル。学生時代にバスケットボールをしていたイアンにとって、左右の手を均等に使いこなすのは慣れたものであった。
向かってくる飛竜に対し右手の湾刀“フレイムタン”を振りかぶったイアンは飛竜目掛けて投擲する。
本物のブーメランのように揚力を作り出す断面形状ではないが、ラナエストでレドによって新調された湾刀は、回転力と自動追尾性によって標的に襲いかかる。それどころか。
名称の元となった、シャティル用の剣“フレイム・タングス”を元にした2本目の試作でもあり、イアンの知識にもあった「炎の舌」に準えて付けられたこの武器は、空中で発火し、飛竜の左翼膜に突き刺さって周囲を火傷させ、しかも。
次の瞬間にはイアンの右手に湾刀が戻っていた。
右手の腕輪とセットのこの武器は、回転、自動追尾、発火、引き寄せの4種の魔法が込められているのだ。
片翼の揚力を失った飛竜がイアンに突っ込み気味に墜落してくるが、避けるのはたやすい。異世界に来てまだ半年でありながらも、イアンの持ち前の運動能力が冒険者としての力を支えていたからだ。
地上に飛竜の巨体が激突し、地響きと共に周囲の蝉達がぴたりと鳴き止む。
イアンは落下の衝撃を受けてふらつく魔竜兵に斬りかかった。フレイムタンをかろうじて槍で受け止めた魔竜兵に対し、湾刀の曲がりを利用して槍越しに剣を前にずらすと、切っ先が魔竜兵に軽く刺さり、次いで発火する。
すかさず右腰の“アイスフィル”を左手で水平に抜き放てば、魔竜兵は腰半ばまで切断されると共に凍結によるダメージを受けて崩れ落ちた。
ミーナが使う氷弾銃と同様に、氷帝竜スフィルの鱗を組み込んだこの剣は氷とスフィルの名にちなんで銘々されたのだが・・・・・・
『日本人には“愛スフィル”なんて読めてしまうからスフィの前では言いたくないわ・・・・・・』
若干、顔を赤くするイアンだが。
「冷酷具合は流石はスフィルの力だぜっ」
皮肉で誤魔化すが、顔はにやけている。新しい二本の武器は実戦投入が初だったため、その威力には満足がいくものであったからだ。
イアンはそのまま、横倒しでもがいている飛竜の首に向かい、フレイムタンを一気に振り下ろした。湾曲している分、通常の剣のように断ち切る事には向いていないが、代わりに高められた切れ味が飛竜の首を切り落として絶命させ、ようやく辺りに静寂が訪れる。
「はぎ取りしたいところだが、後回しだ。村へ急がなきゃ」
イアンは腰のポーチからマジックカードを1枚取り出す。
空間系Lv4「見えざる鞄」を劣化限定し1種類だけアイテムを札に閉じ込めた召喚カードだ。
「カモン!」
イアンの声に反応し、マジックカードから瞬時に板状の大きな物体が現れる。“スカイボード”だ。
スカイボードは大きな長方形の板状の物で、それはイアンが地球に居た時に愛用していた雪面滑り用の板、スノーボードを改造したものだ。異世界転移の際に自身と一緒に巻き込まれ、自分が別世界出身であることを思い出す事の出来る貴重な物である。想念系Lv1「引き寄せ」で足に板を吸着させ、重力系Lv5「浮遊移動」で板を浮かせ、風系Lv3「気流操作」で推進力とする仕組みで、イアンはこれをラナエストでレドの手を借り改修し、召喚カードに収納していたのだ。
イアンは地面に倒したスカイボードを踏みつけ、半分色あせたマジックカードをポーチに戻しながら、スカイボードを発進させた。
『持ちこたえてくれよ!ブルフォス!』
地表1アルムスほどの高さを滑るように走りゆく。後には静寂と飛竜の血臭が林間に漂うばかりであった。
ブルフォス村の中央広場では、スフィが魔法で叩き落とした3頭の飛竜の他、2頭の飛竜が地上で暴れていた。冒険者ギルドの屋根上から、二人の弓兵が射落としたのだ。
それぞれの仲間と思われる二組の冒険者パーティが一頭づつを押さえている。
スフィは氷系Lv8「吹雪」を無詠唱で発動させ、飛竜二頭を氷漬けにして残る一頭の攻撃を回避していた。本来であれば「吹雪」の魔法で氷結状態にはならない。むしろ氷系Lv9に「氷結」の魔法があるくらいだ。しかし、正体が氷帝竜であるスフィは氷系に特化した魔力を持っている。結果、吹雪の副次効果として対象を氷結状態にすることが可能な訳であるが。
上空から、さらに追加で一頭が飛来し、氷付けの二頭に炎の息を吹きかけた。見る間に氷結状態が解除されていく。
「チィッ!数が多すぎる!本体が使えればこんな奴らにっ!」
轟音と共に人の腕ほどの太さの鎖が対竜塔上部から射出され、毒づくスフィの近くで氷付けから脱出を計ろうとしていた飛竜に打ち込まれる。見れば、ギルビーが扉を開けようとしていた右側の対竜塔が動き出したのだろう。巨大な鏃を打ち込まれた飛竜が激痛にもがき、魔竜兵が振り落とされる。そこに、対竜塔から炎槍が打ち込まれる。
続いて、左側の対竜塔も動き始め、さらにもう一頭の飛竜も同様に鎖が打ち込まれた。
「縛竜鎖か!あれは結構強いぞ!助かる!」
本来は氷帝竜対策として設営された対竜塔は、対象の飛翔を阻害する縛竜鎖、攻撃用の炎槍を主とした攻防兵器が搭載されているのだ。これらが起動すれば、戦局は大分持ち直すはずだ。
「塔はもう大丈夫じゃ!助太刀するぞい!」
ギルビーがツルハシを担いで対竜塔から駆け寄ってくる。スフィは嫌な予感がしてギルビーに聞いた。
「ギルビー、そのツルハシは?」
「対竜塔に備え付けられて居った。竜殺しの魔力が軽くではあるが付与されているらしい」
やはりか。嫌な感じの当たった事にスフィは内心で溜息をついた。あんなものまであったとは想定外だ。
縛竜鎖で動きを止めて地上に引きずり下ろした後に、竜殺しのツルハシで堅い竜鱗を砕くという戦法をこの村は準備していたのだ。今更、この村と敵対するつもりはないが、竜殺しの武器が近くにあると背筋がちりちり感じてしまう。
「竜殺し」とはな。剣なら格好つくだろうにツルハシか」
「ワシには持ってこいじゃの。何せ今回は、護身用の小さなマトックしか持って来なんだからの」
ギルビーはツルハシを水平に振るい、魔竜兵に向けて牽制する。
「そのまま前衛を頼む!」
前衛がいれば、魔法使いも無茶をせずに済む。呪文の詠唱時間が稼げるのだ。スフィは起動単語を唱え、呪文詠唱を開始した。選んだのは土系Lv3「穴掘り」。触媒は土であるため、足下が地面であればどこでも使える呪文だ。
呪文発言と共に、ギルビーと牽制しあっている魔竜兵の足下にぽっかり穴が開き、魔竜兵が驚きとともに飲み込まれる。
すかさずギルビーが近寄り、這い上ろうと縁に手を掛けた魔竜兵のその手目掛けて、ツルハシを振り下ろした。
「ホッホッ!地中モグラなぞ、全部叩いてくれるわっ!」
槍を武器に持つ魔竜兵に対し、穴に落とし込む戦法は攻撃手法を限定させるため有効のようだった。スフィは周りを見渡し、魔竜兵と対峙して難儀していそうな冒険者達を見つけると、再び「穴掘り」を唱える。
穴に突然飲み込まれた魔竜兵に冒険者達も驚くが、スフィとギルビーを見ると即座にその意図を見抜き、穴の周囲を取り囲んで一斉に攻め始めた。
スフィが回りを見渡すと、村内のあちこちで対竜塔が稼働し始め、戦局は有利に見える。これなら大丈夫かと安心しかけたところへ、轟音が鳴り響き火の粉が降ってきた。
驚いたスフィが見上げる先に、続いて2発、3発と炎槍が対竜塔に打ち込まれてくる。飛来先を見るとそこには別の対竜塔が。
「血迷ったか!?いや!」
自身の言葉をすぐに否定するスフィ。おそらく、対竜塔が占拠されたか、操作する者が操られたかしたのだろう。明らかに、飛竜と魔竜兵の他に何かが居るのだ。
ランサルムは、当初はブルフォス村の攻略など楽勝だと思っていたものであった。大地と空の戦いというものは、圧倒的に後者が有利である。また、ブルフォス村の歴史上、対竜兵器があるという事前知識はロウゼルから知らされて居らず、単なる地理上の一拠点程度にしか思っていなかったのだ。それがいざ攻略を始めるとなんと言うことか、飛竜と魔竜兵が次々と墜とされていくではないか。これは全くの想定外であった。
姿を消して空中から高みの見物をするつもりであったランサルムは、動き出した対竜塔のうち、村の外縁側の塔に近づき、その操作者を操って同士討ちさせる方法を思いついたのである。
効果は上々で、対竜塔の同士討ちは中々に気分のいいものであった。後は念には念を入れ・・・・・・ランサルムは姿を消して一端、近くの板を超えて村の外側へ向かう。邪魔の入らないところで召喚魔法を行うことにしたのだ。
ランサルムが村の外へ移動した頃、スカイボードが土煙を上げてようやくブルフォス村へ到着するイアン。
正門にはいつもはいる衛兵が居らず、村のあちこちから煙が上がっている。上空を飛竜が飛び回る一方、正門からまっすぐ先の中央広場の様子も微かに見える。そのままスカイボードを直進させてイアンは中央広場に突っ込んだ。
両腰のフレイムタンとアイスフィルを抜き放ったイアンは、スカイボードを下半身だけの操作でそのまま突進し、縛竜鎖に捕らわれた飛竜の首を交錯して切り落とした。さらに、勢い余って進んだ後、ボードを垂直に立てて4マトルも上昇し、宙返りの後に次の獲物目掛けて落下がてら首を切り落とす。
「イアン!遅いぞこの馬鹿者!」
「こっちもやってたんだよっ!」
スカイボードから跳ね降りてスフィのそばへ行くイアン。
「操られている対竜塔がある!何者かがまだ裏に居るのだ!」
「じゃあ、そっちは任せろ。俺が行くっ!」
イアンは再びスカイボードに飛び乗り、急上昇をボードに念じた。
一気に急上昇すると、村上空を飛び交う飛竜と明らかに敵を間違えている対竜塔がいくつか視界に入る。そのうちの一基目掛けて空を滑るイアン。自分に向かってくるイアンに気がついた対竜塔が炎槍をイアン目掛けて射出し始めて来るが、ボード操作で躱していく。両手の武器を鞘に戻したイアンは、対竜塔に最接近して操作部を回り込み、操られていると思しき男の襟首を掴んでそのままスカイボードを地上に近づけた。
対竜塔の周辺には錯乱した仲間を止めようと冒険者達が居た。彼らに錯乱した男を放り出してイアンが尋ねる。
「一体何があった?」
「なんか悪魔のようなのが魔法を掛けたらしいんだ。それからおかしくなった!」
「その悪魔はどこに?」
「姿を消してどっか行っちまったよ!」
『悪魔か・・・・・・そいつを仕留めないことには終わりそうにないな』
イアンは錯乱した男を彼らに頼むと、とりあえず次の対竜塔へ向かうのであった。
いい加減にこの暗い世界から脱出したい。地上に出たい。
それは、その世界に居る者達全ての共通の思いであった。
灯りは全くないわけではないが、ヒカリゴケの灯りは足下を狭い範囲でしか照らさない。作業する前方は魔法で灯りが付くが、明暗が激しいと後ろに広がる広大な暗闇に入る際、その都度慣れることに時間が掛かるため、前方の灯りも薄暗い赤色に押さえられていた。
なによりも一番嫌なのが、空気だ。汗臭い据えた臭い。遙か後方の入り口と、魔法で空気の入れ換えを定期的に行っているが、男達の汗臭い臭いはどうしても籠もるのであった。
なんで、こんなことしてるんだろう?
部隊の副官として着任し一ヶ月のサレイアはここに来てから何度目かの自問をしてしまう。
しかし、サレイアはまだマシなんだそうだ。何しろ作戦が始まってからそろそろ2年、そしてもう少しで終わりを迎えるのだから。
サレイアが派遣されたのも、むしろこの作戦の最終段階、外に出てからのラナエスト王国との交渉のためだ。作戦指揮するガイアット団長は、この作戦の肝である掘削作業には向いている、不屈の精神と体力に帝国内でも定評のある威丈夫であるが、ラナエスト王国との交渉には外面も性格も向いていない。その為にサレイアが派遣されたのであった。
「いよぉーしっ!モグラどもぉ!休憩終わりっ!おそらく最後の作業だ!気合い入れてやるぞぉーっ!」
ガイアット団長の野太い声が地下空洞に響き渡る。
そこまで叫ばなくても聞こえますよ、と言いたいのをぐっとこらえて、サレイアは作業の邪魔にならないところへ移動する。
彼女を含めて、待望している外、ブルフォス村近郊が攻防戦の真っ最中である事など、この一団は全く予想していないのであった。
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