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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第一部 テオストラ探索編
23/73

023 露見交渉

2015/12/27

修正加筆を行っています。

 中原の大都市、王都ラナエスト―


 都市中央の中央噴水広場から西方に外門まで伸びる西大通りは、王都の主要街路の一つであるが、中央噴水広場から西を眺めても城壁と外門を視る事は出来ない。なぜなら、中央から1ケリー程の位置に、駐留騎士隊の詰め所としてちょっとした小城が立ち塞がるからだ。

 外敵からの防護と平原特有の強風を中心部に通さぬよう、小城回りは道幅が狭くなり南方を迂回するように街路が形成されている。


 余談ではあるが、このような小城は西、東、南の三箇所に同様に位置しているが、北方だけは小城がもっと外門よりに建てられている。これは、北方の城壁よりに、東には魔法学院が、西には王城が位置しており、他の区画に比べて防御拠点としての重要性が高いからだ。

 北方街路もその性格を色濃くし、曲がりくねり具合が他所に比べて激しく、また、周辺の施設も闘技場や図書館など、公営施設を多く配置して、その外壁を城壁の一部に上手く組み込んでいる。

 このような都市内におけるさりげない防御機構はラナエスト市内に随所にあり、中には関係者のみが使用可能な地下道があるという噂もまことしやかにささやかれているくらいだ。


 中央噴水広場から西へ1ケリー、西小城の手前を北へ右折した通りも、そこは通りの家々から聞こえる槌音や薬品の臭いの漂う、通称“工房街”であるが、正しくは“火吹き通り”という名称で、噂ではその名に恥じない防衛設備があるのだとか。


「一体、どんな防衛設備なんですか?」

「残念ながら、ワシも教えて貰っておらんのじゃ。知る事が出来るのはこの通りに居を構える五本指と王国関係者のみらしいからのう」


 そんな世間話をしながら、ギルビーはミスティと共に自宅を出て、その足で工房街の別の工房に向かった。


 ギルビーは鉱石採掘用の肩下げ鞄を持っている。ミスティはいつものローブ姿だ。コボルドの地下王国でジーナロッテに貸していたが、帰ってきた足で女性一同で衣料店に向かい、ジーナロッテの服を見繕った後に返して貰っていた。

 なお、代金はシャティル持ちである。不可抗力ではあるが、ジーナロッテを裸にひんむいて着ていたローブで王水を拭ったり、ナシュタイン神のせいで着ていたローブが失われた時の戦闘相手であったことから、無理矢理ミーナに決められてしまっていたのだ。相変わらずミーナからの扱いは残念なシャティルである。


 ギルビー達の行き先は、トリントン工房。

 まだテオストラ露天鉱床の再開は発表されておらず、相変わらず工房街の槌音は少ない。おそらく、明日からは以前の賑やかな状態に戻るとは思うが、だからこそギルビー達は急ぐ必要があった。


 目的はテオストラの幽霊騒動の際、持ち去られた鉄鉱石。それも、古代竜王国の姫竜騎士アリシアに使えた七竜のうちの一頭、黄銅竜キャンツが宿る鉄鉱石を回収するためだ。

 現在、他の六竜はレドの元で霊触媒を移し替えられ、魔法学院の研究室に放されている(・・・・・・)。残る一頭を確保し、七竜を揃えてアリシアと再会させてやりたい、というのはギルビー達の共通の願いだ。


 テオストラの懸念が払拭され鉱床の出入りが再開されると、この工房街の槌音も活発化し、もしかするとキャンツの宿る鉄鉱石が溶かされてしまう可能性が生じる。レド曰く、霊触媒をきちんと移し替える事によって、霊は安定して物質に宿る事が出来るらしい。そのためにも、鉄鉱石を回収する必要がある。


 工房街には有名な鍛冶師達が住み着いている。その中でも豪商とされているのがレナード、マイセン、トリントンの三人であり、各々、西大通りに大きな店舗を構えている。これにジンダイ、セキテツといった大店舗を持たない職人二人を加えた5人が現在の五本指である。

 また、次の五本指に入るのでは、と噂されているのがビドーとラクサシャの二人。新進気鋭であるが西大通りに店舗も構え、豪商三人に並び立とうとする勢いだ。


 昨日までのラナエストの酒場では、テオストラ露天鉱床の閉鎖と幽霊騒動の噂、武具品評会の規則改正による影響についてが主な話題であった。

 おそらく明日からはテオストラ再開と新たな五本指に誰がなるか、今度の武具品評会には先の7人の他、どんな職人が現れるのかが酒飲み話となるだろう。そして武闘祭が近づくと、猛者達の噂や優勝者の予想が話題に追加されるのだ。

 そんなきっかけを造り出す要因の一人に自分が含まれている事に、ギルビーの気持ちはなんとなく気恥ずかしいやら誇らしいやらであった。


 ギルビーがトリントン工房の入り口をノックし、中に入ると数人の職人達が高炉の回りで作業をしており、ヒュームの鍛冶師トリントンが仁王立ちで職人達の動きを監督していた。


「失礼するよ。久しぶりじゃな、トリントン」

「おう、ギルビーではないか。どうした?」

「ちょっとお願いがあってな」


 ギルビーはそう言うと周囲を見回し、目的の物を見つけた。


「そこの、窓際に置いてある鉄鉱石、例の幽霊騒ぎの元になったものじゃな。それを譲ってくれないかのう?」

「藪から棒に何だ?それに幽霊騒ぎ等、私は知らん!」


 苦々しい顔でトリントンはギルビーを睨みつけてきた。


「今更隠さんでもいいわい。お前さんがテオストラの最奥を掘らせる作戦をやっておったことも、職人が一人しか帰還せず幽霊の噂が広まったことも、情報入手済みじゃ。鉱山夫達の酒飲み話ではすっかり有名じゃわい」


 ギルビーがそう言うと、トリントンは押し黙った。


「なぁに、お主にとっても悪い話ではないわい。これを代わりに受け取ってくれんか?」


 ギルビーがそういって肩下げ鞄から、鉄鉱石と取り出した。キャンツの宿る鉄鉱石より大きく、品質も同等のものだ。


「何故、こんな事をする?理由は判らぬがあの呪われた石に拘るのであれば、何かしら価値があるのだろうと思うぞ。となれば、対価として鉄鉱石一つでくれてやる訳には行かんな」


 トリントンの目は鍛冶師というよりは商人としての値踏みする目となっていた。鍛冶師に求められる実直さと、相反する商人としての狡猾さ。これが両立しているからこその豪商なのだろう。ギルビーには、感心も出来るが自分はそうは有りたくないと思わされる鍛冶商人として見えた。


「なに、対価はこれからもっと上積みしてやるわい。それに、その鉱石はお主にとっては価値がないものだ。それをこれから説明しようとするかの」


 ギルビーはそれから、テオストラ鉱床の問題を解決するための極秘依頼を受け、仲間と共にテオストラに向かった事、鉱山夫達を殺害した幽霊を退治したこと、出没するコボルド退治をしたこと、トリントンの鉱山夫が掘った最奥まで到達し鉱石を採取してきたことを話した。


「と、言うような訳で、その鉱石はお主が求めていた良質な物じゃよ。それでじゃな、悪さした幽霊は退治したが、別の幽霊がこの鉱石には眠っておるのじゃ。ワシらは他の眠っていた幽霊と遭遇し、全員集めて慰霊することにした。その最後の一つがそれなのじゃよ。欠けていると素直に祀られてくれんのでこうして来たわけだ」


「ふむ、話は判ったがこれが最後の一つということなれば、もう少し吹っ掛けてもよさそうだな?」


 トリントンはニヤリとするが、ギルビーはせせら笑った。


「対価は積み上げると言ったじゃろう。この情報が対価じゃよ。今すぐ、お前のとこの鉱山夫を集めてテオストラに向かわせるのじゃ。テオストラは明日から再開される。先んじてトリントン商会が一番乗りすれば、苦労して掘った最奥に最初にたどり着けるだろう。しかし、こちらの幽霊達の慰霊が終わらなければ、テオストラは再開されないことになっておる。内部で幽霊達に暴れられても困るからな。さて、どうする?」

「別にテオストラが再開されずとも、この国を引き払って他所へ行っても良いのだ。ウチにはそれだけの資金力と信用もあるからな」

「ラナエスト周辺でテオストラほど良い鉱山はないぞ。リカーズボトルやシュナイエン帝国、ソルスレート帝国まで足を伸ばすか、オウカヤーシュまで渡らないと包丁鍛冶くらいしかできんじゃろうなぁ。それに、シュナイエン帝国では鍛冶師や彫金師が大量に姿を消しているとの噂もある。物騒な事にならん事を祈るわい」


 トリントンは苦虫をつぶした表情をしたのは、ギルビーの指摘が図星だったからか、それとも降参することに決めたからか。


「判った。その鉱石とそっちの呪われた鉱石を交換で手を打とう。ちなみに、テオストラの情報はどこまで広がっておる?」

「今、仲間が王城で報告しているところじゃ。鍛冶師界隈ではワシの仲間のオルフェルだけじゃな。とは言え、ワシらも採掘は済ませておる」

「フン、やはり採掘も済ませておったか。で、どうだ?最奥は良い場所だったか?」

「そいつはもちろんだワイ。コボルド達も掃除したし良い採掘場だと思うぞ。出入り口を隠すなら今のうちじゃな。」

「なるほど。最後に一つ聞かせてくれ。ウチの鉱山夫達を殺害した幽霊というのはなんだったのだ?」


 ギルビーは心の中でニヤリと笑いながら言った。


首無し騎士(デュラハン)と、それを操る魔法使いじゃったよ。突き止めきれんかったが、どこぞの国がテオストラの評判を落としてラナエストから鍛冶師を流出させようとしていたらしい。おそらく国王陛下は怒るじゃろうなぁ。ワシは報告組でなくて良かったワイ」


 ホッとした演技をしながらギルビーが見たトリントンの表情は、若干青ざめて冴えない表情であった。



 無事にキャンツの宿る鉄鉱石を回収して自宅に戻ったギルビーは、ミスティの入れてくれたお茶を飲んで一息ついた。


「ふい~。ああいう腹の探り合いは好かんな」

「でも、お見事でした。おかげですんなり回収できたじゃないですか」

「まぁのう。特に嘘を吐く必要もあまりなかったからのう」

「そう言えば、最後にシュナイエン帝国が黒幕だってどうして言わなかったんですか?」

「おそらくあ奴は、開発大臣のバルムと同様に、国を抜ける勧誘を受けているのではないかな、と思ったのじゃ。明確に指摘してこちらが全て把握済みと追い詰めたくなかったし、考え直す切っ掛けになればとも思ったのよ」

「そういうことでしたか」


 お茶を飲み終えたギルビーは立ち上がった。


「さて、ワシはこれから転移門ゲートを使ってレドの部屋へ行ってくるが、お主はどうする?」

「私は・・・・・・ちょっとこの町の教会に行ってきます。お祈りをしたいので」


 テオストラから帰ってきてからのミスティは、若干元気がない。ナシュタイン戦で役に立てなかった事を悔いているようだが、シュナイエン帝国へ生存が露見することを恐れて教会には行かない事にしていたのではなかったのか。それなのに行くと言う事は、よほど色々と悩んでいるのだろう。ギルビーはミスティの好きにさせる事にした。


「それならば、夜に冒険者ギルドの酒場“暴風亭”でまた落ち合うとしよう」

「はい。それではまた夜に」


 そう言って家を出るミスティを見送ってから、ギルビーは2階の転移門ゲートに向かうのであった。


感想や評価、ブクマ登録等頂けると嬉しいです。

特に評価は、最新話までお読み頂けると評価可能となっていますので、チェックして頂ければ幸いです。


テオストラ編のエンディングが思ったより長くなりそう・・・

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