021 ナシュタイン神
2015/12/27
修正加筆を行っています。
オルフェルはコボルド兵達に最初に狙撃した時から、あまり場所を動いていない。そのため、ナシュタインとはほぼ真横に距離をとった所にいた。オルフェルの腕に掛かればナシュタインの取り憑いたジーナロッテを撃つ事は簡単だ。洗脳されていると思しきミスティやミーナを避けて撃つのは造作もない。
しかし、それでいいものかと思うのだ。
ジーナロッテを傷付けたくない。
利用しあうだけの存在のはずなのに、オルフェルの心は、いつのまにか一人の女性として認識してしまっている。
コルムスの腕が良いせいだ、出来が良いだけの、所詮、自動人形なのだ・・・・・・
なんどもそう自分自身に言い聞かせても、オルフェルはジーナロッテに弓引く気になれない。
しかし、その逡巡が、ナシュタインがジーナロッテの身体を改変するに至って怒りに変わる。むしろ激怒である。
コルムスが造ったモノを、何故勝手に変えているのか?
ジーナロッテの身体を、何故勝手に変えているのか?
スペアパーツのある範囲ならダメージを与えても、と頭を切り換える。
オルフェルの左手に、赤い燐光が宿った。
オルフェルと同様に、そしてオルフェルの反対側にいたレドはナシュタインを真横に見る位置にいたが、これからの対処に迷っていた。
神を相手に自分の魔法が通用するのだろうか。
なまじ、他の仲間より魔法や世界の姿、神々の在り方の知識がある分だけ、絶望を感じるのだ。
レドが使うのは学問魔法。月世界に集められた魔力を魔法法則に従って引き出し、活用する技術。それに対してナシュタインは神そのものだ。神魔法は神の精神魔力そのものと言っていい。
法則も何もなく、ただ相手の思うがままに繰り出される奇跡。これにどう対処出来るのか。自動人形の身体を造作もなく乗っ取り、作り替え、女性陣3人を瞬く間に魅了して支配する力。
『落ち着け!困った時ほど冷静に、頭を働かせろ!』
ナシュタインが登場してからの状況を考える。
自動人形の身体の乗っ取り、改造、黒い炎でローブを鎧に替えたのは神魔力だろう。
魅了の力もそうだ。
なぜ?
幼い時から、“なぜ?”と問うのがレディアネス・クレイドの癖だった。
常に世の中を集中しすぎず、かといって見逃さず、一定の距離を取って平坦に見据え、不明なモノに“なぜ?”と問う。その姿勢が、類い稀なる魔法の才能を磨き上げたのだ。
なぜ、ジーナロッテを乗っ取った?――身体が欲しいからだ。
なぜ、身体が欲しい?――身体がないと困るからだ。
なぜ、身体を改造した?趣味?好み?――ここは不明だ。一時保留。
なぜ、ローブを鎧に替えた?――防御力を上げたいからだ。
なぜ、俺達に魅了を掛けた?――戦力を下げたいからだ。
ここまでの思考で、ナシュタインが圧倒的な力で自分達に相対している訳ではないことに気付く。奴はしっかり戦闘準備をしている。
では、身体を改造したのも、そこに力を集めるから?それともあり得ない事をやってみせる事で威圧、もしくは魅了の補助?
レドはここでナシュタインが登場する“前”の事と、ナシュタインの言葉を思い出した。
コボルド・プリーストが財宝を掴んで王水へ身投げし、そこで黒い霧が吹き出したのだった。
なぜ、身投げした?――霊的な生け贄だ。つまり、心霊魔力の提供だ。
なぜ、財宝を一緒に?――王水は様々なモノを溶かして魔力吸収するからだ。
つまり、魔力がないと奴は出現できなかった。
“出てこられるかどうかは賭けだった”
“最後のコボルドが頑張ってくれたおかげ”
“丁度良い寄代があったおかげ”
“こうして分身を出す事が”
思考の扉が、開いた。
ナシュタインの魔力には限度がある。おそらく、俺の学問魔法と同様に、神魔力を引き込むためには最低限、物質界の入れ物の魔力が付随するのだ。 魔法使いが月門を開いた時に体内の精神魔力が引きずられて消耗するように、神とは言え、ナシュタインも同様なのだ。ならば。
奴の魔力を消耗させる攻撃と、奴に魔法を使わせても問題ない防御、そして魅了された彼女らの解放、それが俺の役目だ!
レドは、先の大波の魔法により出現したなごりの水たまりに足を踏み入れ、それを触媒に土系Lv6「底なし沼」の魔法を唱え始めた。この呪文は短縮の仕組みを仕込んでいない。詠唱時間が普通に掛かるのだがそこは仲間がフォローしてくれる事を信じるしかなく・・・・・・しかし、案の定、ナシュタインが反応する。
「おやぁ?学問魔法で僕と戦おうとでも言うのかい?ミーナ、目障りだからその武器で撃っちゃって」
ミーナはゆっくりと銃を持ち上げた。
「みんなも、こっちにおいでよ!ナシュタイン様にお仕えすれば楽しいことが一杯あると思うよ!」
さっき、そう言ったのに、うちの男共と来たら、誰も来てくれない。ナシュタイン様って曲がりなりにも神様なんだよ。ちゃんとお側に仕えなきゃ。それなのに、ミスティとレティシアを怖がって、ナシュタイン様を怖がって来てくれない。あたしはもうここに居るのに。
しっかりしろって目を覚まさせてやりたいけど、ナシュタイン様に気圧されてるみたいね。怖がらないで、こっちに来たら楽しいのに。ナシュタイン様はとっても魅力的。神様だから男も女も関係なく愛してくれるよ。
胸もジーナロッテゆずりで無駄にデカイし、さっきは股間おっきくしてたし・・・・・・・・・・・・
どうせシナギー族は胸大きくないですよーだ!この変態 !
「おやぁ?学問魔法で僕と戦おうとでも言うのかい?ミーナ、目障りだからその武器で撃っちゃって」
あたしはゆっくりと銃を持ち上げた。
ミーナはゆっくりと銃を持ち上げ、呪文を詠唱中のレドに狙いをつける動きから突然、ナシュタインのこめかみに向けて三連射。氷の弾丸が頭部を穿ち、ナシュタインの顔左半分が凍り付いている。
「あたしの前で胸でかくしてるんじゃないっ!」
ミーナがバックステップで距離を取り銃を構える。
「う~ん、やっぱりシナギー族って精神系は効きづらいなぁ・・・・・・精霊の加護って奴か」
ナシュタインがミーナを見据えて舌なめずりした時、今度は背後から衝撃を受けてナシュタインは両手両膝を石床についた。見れば、四肢にそれぞれ矢が突き刺さっている。
オルフェルの秘弓術、竜穿矢の四連射だ。
「僕の防御力場を抜けるのか」
驚くナシュタイン。しかし、驚くのはまだ早い。
レドの呪文詠唱が完了し、ナシュタインを含める周囲に底なし沼が発生したのだ。
四つん這いの状態のまま沈んでゆくナシュタイン。流石に慌てて身体を起こし、浮き上がって脱出しようとしたところで、今度はレドが得意な斥力壁が沼の直上に水平に展開される。魔法学院でスフィルとイアンに使った作戦と同様に、上がろうとしても斥力によって戻され上がれない魔法罠だ。
沈んでダメージを受けるか。
脱出するにしても魔力で干渉して底なし沼か斥力壁を破るか。
いずれの方法でも、魔力消費も狙える作戦である。
『チャンスだ!』
ナシュタインの危機に、レティシアとミスティは身を翻してミーナ達に向かおうとするが、その無防備な背中はシャティルに隙だらけだった。瞬時に騎士魔法を発言し、ミスティとレティシアの背後から当て身。気絶した二人を部屋の隅に横たえた。
「ギルビー!二人が目を覚ましてまだダメだったら頼む」
「判ったわい!」
二人をギルビーに委ねたシャティルは炎の重合剣を発火させ、ナシュタイン目掛けて突進する。
ナシュタインは魔力をそのまま濃密に放射し、斥力壁と底なし沼の二つの魔法効果を無理矢理破った。丁度そこへ、シャティルが突進を活かして突きを放つ。
躱しきれないと踏んだナシュタインは右手に黒い魔力を纏わせ、刺突を内から外へ払い退ける。そこからはナシュタインの右手刀とシャティルのフレイム・タングスの激しい応酬が始まった。
シャティルの斬り上げ、上体を剃らして躱す、袈裟切り、回避、横薙ぎ、手刀で受ける。鍔迫り合いからのナシュタインの右の蹴り、剣で払った所を後ろ回し蹴りがシャティルの背中に当たり、吹っ飛ぶ。
『騎士魔法使ってるのになんてぇ速さだ!』
シャティルは騎士魔法を使っているのに、ナシュタインは素でその速さに対応しているのだ。流石は神と言うべきか。
全身を黒い魔力で強化した部位の攻撃は凶器だ。騎士魔法で身体の防御力が上がっていなければ、それだけで致命傷であっただろう。
吹っ飛んだシャティルへのナシュタインの追撃は、しかしオルフェルの竜穿矢で出鼻を挫かれた。ナシュタインの右膝に集中して3本、間接を縫うかのように撃ち込まれ、ナシュタインが膝を付く。
「味な真似をしてくれるね!」
膝を壊されたナシュタインはその場で右手を水平に掲げた。開いた掌に魔力が集まると、広間の端を流れる水路から水飴のように、泡立つ王水の液体がウネウネと立ち上がり、それがそのままナシュタインの右掌まで伸びて止まる。反対に水路側はぷつっと切れ、次にナシュタインはそれを水平に振った後、叩きつけるようにシャティル目掛けて王水鞭を振るった。
体制を立て直していたシャティルは大きく横っ飛び、石床を叩いた王水鞭は衝突地点が水を打ち捲いたかのように濡れる。ただし、水分は王水だ。焼け焦げるような臭いと白い煙が立ち上る。
ナシュタインは二度、三度とシャティルを王水鞭で狙い、シャティルは距離を上手く取って大きく回避する。しかし四度目の鞭はシャティルを狙うかのような振りで突然オルフェルに襲い掛かった。
瞬間的に騎士魔法を発動し、大きく飛び避けるオルフェル。しかし飛び避けた先はレドとミーナの側だ。このままでは次はまとめて王水鞭を喰らってしまう。
そこまでと思いきや、ミーナが氷竜銃で王水の鞭の中程を狙い撃った。
着弾したところとその周辺が凍り付き、王水鞭がそこから崩れ折れる。
「そんな防ぎ方があるとはね!」
ナシュタインは驚いた台詞を吐いたがその顔にはまだ笑みがあった。
「シャティル危ない!」
始終を見ていたギルビーが警告したが、ナシュタインによって再び形作られようとする王水の鞭は、水路から先ほどと同様に立ち上がりシャティルに背後から襲い掛かった。なまじナシュタインの手元に王水がない分、警戒が薄れてしまったのだ。
咄嗟に炎の重合剣で“魔盾の構え”をするシャティル。
剣身越しの魔力放射で盾を造り出し、王水鞭の一撃と飛沫を防いだが。
・・・・・・炎の重合剣は王水鞭と僅かに接触してしまったのか、腐食して剣身が崩れ落ちてしまった。
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