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悪役令嬢の影武者ですが、主人が姿を消してから五年が経ちました  作者: パンドラ
第一章 消えた悪役令嬢編

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第17話

 今日はフルリナに休みを伝えて、レオと二人で情報交換会です。

 レオと二人で話すということでフルリナは大変不機嫌になっていましたが、付き人として主人の言う事を聞くように教育しておいてよかったですね。

 おかげで、面倒なことにはなりませんでした。


「そうか、ミリスは自分で……」

「の、可能性が高いですね」


 あの手紙に記されていた死者蘇生の禁術について考えてみましたが、あれではやはり生きた人間の体を乗っ取ることはできませんでした。

 可能なのは死者の体に魂を入れて器にすることだけ。


 確かに、あの研究を始めていれば、先生は実験のために死体を調達することとなっていたことでしょう。

 未然に防げたのは僥倖というほかありません。


「先生に関しても、本当に良かった」

「ええ。最初は関係のない死体を確保していたとしても、身近な生徒へ手が伸びるのは間違いないでしょうから」


 悪役令嬢必携ノートの内容からしても。

 ミリス様に手を伸ばす可能性はあったわけですから。

 ……そういえば、変わった後のミリス様が殺されたくないと記載していましたが。

 あの先生の力量でどうやってミリス様を害するのでしょう。

 不意打ち? いや、ミリス様がそんなの受けるはずがない。

 不思議ですね。


「その手紙に記されていた印が気になるね。書けるかい?」

「ええ。覚えてますので」


 私が記憶しているどの家紋とも違いました。

 さらりと悪役令嬢必携ノートの隅に、ヘイルム先生の手紙に記されていた印を書きます。

 おそらくモチーフは鳥と渦。


「こうですね。見覚えありますか?」

「これは……っ!」


 レオはこの印を見た瞬間、食い入るように見つめます。

 どうやら、知っている様子。


「ティカ、君はこの印に見覚えがないんだね?」

「え、ええ」

「そうか、ミリスは教えなかったか」


 彼女が一番詳しく調べていたはずなんだけれど。

 と、レオは言います。


 ミリス様が、調べていた? この印についてを?


「結論から言えば、これは女神ミスティアを表すマークだ」


 女神ミスティア。破壊と混乱の女神。

 ミリス様が、かの女神について調べていた?

 なぜ?

 異教徒に関しての記載を残したのは、変わった後のミリス様。


 ミリス様は、事前に異教徒の脅威を察知しておられた?

 ではなぜ私には何も話してくださらなかったのでしょうか。


「ミリスが君に情報を共有していない理由はわからないけど、先生にミスティア教が接触したのは間違いないだろう」

「ミスティア教……異教徒の話は悪役令嬢必携ノートにも載っていましたね」

「ガラントという人物の項目だね」


 ガラント。異教徒に洗脳されているらしい人物。

 フルリナが聖女の力に目覚めれば洗脳を解除できるらしいですが……。


「邪教と記されているぐらいだ、ミスティア教で間違いないだろう」

「洗脳とは、また物騒な単語が出てきていますね」


 聖女の力で解決できるということは、おそらくこれも魔法の類でしょう。

 昨日の先生の話に則るならば、魂を覆い隠す魔法、とでもいうべきでしょうか。


「因みに、ミリス様は何故ミスティア教を調べていたのですか?」

「僕も詳しい理由は知らない。ただ、『必要だから』とだけ言っていたよ」


 必要だから調べていた?

 ミリス様はミスティア教が関わってくることを予期していたということでしょうか?

 どこで、どうやって。

 なぜ、どうして。

 ミリス様の影を追えば追うほどに、わからないことが増えていっているような気がします。


 ミスティア教と自分の体を乗っ取らせたことに何の関係があるのか。

 まさかミリス様が洗脳されるなんてへまはしないでしょうし。

 あの方には何が見えていらっしゃったのでしょう。


「……ミリスの行動は突飛で僕らには理解できないことがあるからね。さて、ここからどうしたものか」


 ミリス様捜索の進捗は白紙に戻ったと言っても良いでしょう。

 あの方が自らの意思で体を乗っ取らせたと分かった以上、あの方の思考を読み解かねばその行方を追うことはできないのですから。

 我々にはできません。


「……」

「……」


 重い沈黙がこの場に満ちます。

 ミリス様、愚かな我々をどうかお導きください。


「……とにかく、ティカ。ミリスが失踪し、その原因はミリスがどこのともわからない魂に体を乗っ取らせたこと。それで間違いないね」

「はい、同じ認識です」

「同時に、元々のミリスはミスティア教について調べていて、ヘイルム先生にミスティア教が接触していた。これも事実だ」

「おっしゃるとおりです」


 つまり、この二つから導き出される結論は……。


「ミスティア教を追う、しかなさそうだね」

「ですね」


 ミリス様がミスティア教を追う過程で魂を乗っ取らせたと仮定すれば。

 ミスティア教を追えば、自然とミリス様と同じ道筋を辿ることとなります。


「僕の方でも調べておこう。何か進捗があればまた集まるということでいいね?」

「私の方は大丈夫です」


 中々に苦しい結論ですが、元々が雲をつかむような話なのです。

 五年間もの間、進展がなかったミリス様捜索の手掛かりを得ているだけで、素晴らしい成果と言えるでしょう。


「ガラントという人物についても探らせよう」

「お願いいたします。私の方はレオと繋がっていることがバレないよう、本家には進捗を出せていませんので」


 レオと繋がっていることがバレれば、私はおそらく首が飛ぶでしょう。

 なので、アークライト家本家にはミリス様に関する進展はないものとして報告してます。


「それは仕方がない。君はやるべきことをやっているよ」

「だと言いのですが……」


 ああ、ミリス様。

 この未来は、どこまでがあなたの想定通りなのですか?


「それより、フルリナ嬢の調子はどうだい? 聖女として覚醒する兆しは?」

「今のところありませんよ。ただ、レッスンは熱心に受けています」


 何気なく移った話題はフルリナについて。

 ミスティア教と本格的に対立するとなれば、太陽神へレム様の加護を受けている聖女の力が欲しいわけですが……。

 フルリナが力に目覚める兆しは今のところありません。


 愛の力という不明瞭なものに頼るしかないというのが、困難なところですね。


「いっそ本人に……いや、情報源を聞かれたら答えられないか」

「その通りです。自然に覚醒してくれるのを待つしかないでしょう」


 ――この時の私は、すっかり話に夢中になってしまっていたと。

 何もかもが順調に言っているせいか、すっかり油断していたと。

 後になれば、そうだと理解できます。


 なにせ、招待していない客人の存在に気が付かなかったのですから。



 ◇ ◇ ◇



 木陰の裏で、息を殺す。

 最初はちょっとした悪戯のつもりだった。

 ミリス様とレオ様が仲良さそうにしているから、そこに現れてドッキリするだけのつもりだった。

 なんだかんだお優しい二人だから、笑って許してくれると思った。


 でも、私は何て浅はかだったんだろうって今なら思う。

 偉いお二人が他の人を寄せ付けず話しているのだから、人に聞かせられない内容に決まっているのに。


 自分の存在が気づかれていないか、緊張で心臓がバクバク高鳴っている。

 喉の奥から心臓が飛び出してきそう、ってのは今みたいなことを言うんだと思う。


「私が、聖女……?」


 聞いてしまった。聞こえてしまった。

 太陽神へレム様。王国の守護神様。

 その聖女が、私?


「いや、そんなのどうでもいい。それよりも……」


 レオは、ミリス様の事をティカって呼んでた。

 何よりも……ミリス様の行方を捜してる雰囲気だった。

 それはまるで、今のミリス様が本物じゃないみたいで。

 本物のミリス様は別にいるみたいで。


「うそ、うそ、うそ……」


 静かにその場から逃げ出す。

 誰にも気づかれないように。

 あの二人にはバレないように。


 ああ、でも、どうしよう。

 私は明日からも、同じようにあの人の隣で笑えるだろうか。


 ミリス様。いえ、ティカ様。

 あなたが私を拾ってくれたのは、本物のミリス様を探すためなんですか?

 私が、聖女だからなんですか?

 私なんて本当は、どうでもいいんですか?


 怖くて聞けない幾つもの問いが浮かんでは消えて。

 気が付けば、私は自室に逃げ帰っていた。

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