二人の狂者
「こっからが本番でしょ。オーディン、ボクがあんたをぶっ倒してやるさ。ジェイド、しばらく1vs1でやらせて。ファルタたちが来たら援護できるように休憩しててよ。」
「....分かった。勝てよ。」
「我が認めるに値するかどうか、しかと見定めるとしよう。」
最初に一歩踏み出したのはレイシャだった。先程よりもより速い速度で前に進む。
(こいつ....わざわざ間合いの範囲内に?なるほどな、先程の一撃で当たらない攻撃には予測が聞かないことは分かった。だからこそこいつは、無理にでも前に出て避けるということか。)
当たらない攻撃に意味がない。逆に言えばわざと当たりに行けば予測は発動する。ならば槍の間合いに無理にでも入って予測を使いながら攻撃を躱し続ければ良い。
「このまま攻めて、一撃でも与えればボクの勝ちだ。」
「一気に決着をつけるつもりか、だが、どれだけ避けていられるかな。」
そうしてオーディンは目に見えない速度の連続突きを行う。どれも間合いの中では通常なら確実に当たる攻撃だ。しかしレイシャは決して臆することなく攻撃の間合いの中に入っていく。
(右....左....次は....上....どう動く)
(攻めなきゃ....こっちに行けば....)
(相手の動きを見ろ....冷静に....)
極度の集中状態のレイシャを見てジェイドは不安と焦りを覚える。
(あいつ....大丈夫か?今の所は全部避けてるけど、明らかに頭がパンクしてる。避けること、相手の動き、攻め方。それを全部考えながらあの中で避け続けてるんだろ?普通のやつならもう限界だぞ。)
「いつまでも避けてばかりでは意味がないぞ。どうした、早く攻めてこい。」
(多分オーディンはあえてレイシャを攻撃に誘導させようとしてる。ほとんど隙のないオーディンに攻撃を当てようと無理をしたレイシャに対して反撃を与えるつもりだろうな。だがオーディンも、レイシャがそんな簡単に隙を晒すと思ってない。だからこそこれは、先に一撃を入れたほうが勝つ。)
「ボクに勝つにはまず考え方を変えなきゃ、そんな急かさなくたってちゃんとぶん殴ってあげるからさ。」
(とは言っても、やっぱり隙が殆どないな。距離を詰めようとすると行動がすぐに読まれる。でも距離取ったら振り出しに戻るだけだし、やっぱ予測で避け続けながら隙を探るか。)
一瞬でも予測を怠るとやられるレイシャ、間合いの隙を打たれるとやられるオーディン。互いが限界まで神経を研ぎ澄まして戦い合う。
(我の攻撃をここまで避けられるとは、こいつには驚かされるものだな。しかしこいつ、考えなしに動いているように見えて、ある程度考えて動いているな。)
オーディンの槍さばきを紙一重で躱し続けるレイシャ、しかしただ避けているわけではなく僅かに、少しづつ、元々いた場所から移動している。その位置は部屋の中央付近から周囲の壁へと移動していた。
(ある程度壁の方向へ移動して僅かにでも我の動きを制限しようとしているわけか。だが追い込んだ所で動きが制限されるのはお前も同じ、墓穴を掘るだけだな。)
(とでも思ってるんでしょ?)
オーディンの考えは至極真っ当なものだった。しかしその思考そのものをレイシャは理解していた。オーディンのその考えを理解したうえで壁へと追いやった。
(あと少しで壁付近まで近づく、確かに行動範囲自体はボクだって制限される。でも、等しく制限されるわけではないでしょ。)
そうして二人は壁との距離3メートルほどまで近づく。
「追い込んだつもりか?だが貴様は我の背に壁がある以上、我の後ろには来れないだろう。的の動きが鈍るだけ、むしろ我にとって利点となっただけだな。」
「やっぱそういう考えになるよねー、ボクだってそう考える。」
そしてもう1メートル、壁との距離が短くなる。そしてレイシャはオーディンと壁との間にわずかに空いた空間に移動する。そしてそれを見たオーディンは背後に槍を回す。すると金属がなにかに当たる甲高い音が鳴る。それと同時にオーディンは体制を崩す。
「なっ!?」
「そうだよね、あんたの槍の長さは見た感じ1.6メートル前後、壁の方に思いっきり振れば当然槍と壁がぶつかる。そしてその勢いであんたはよろめく!」
攻められる僅かなチャンス、それを決して逃しことなくレイシャはオーディンの懐に潜り込む。
「拳闘家にとって槍使ってるやつは相性悪くて最悪なんだよね。どれだけ攻めようとしてもリーチの差で一方的なリンチになる。でも、もし一度でも懐に入ったら、柄の部分が邪魔になって攻撃できなくなる。拳にとって槍相手は、ハイリスク・ハイリターンで楽しくてしょうがないよ!」
(こいつ....我の考えを見越したうえで行動していたのか。だがそんな作戦、我と壁との距離の計算が少しでも狂えば槍が壁に当たらなかった可能性も、逆に自身が壁に当たってしまう可能性だってあったはずだ。それすら理解したうえで攻めてきたのか。)
「ここで一気に終わらせる!神物開放《滴るもの》!」
「合剛拳力、《轟剛拳・序破急》!」
レイシャの序破急、スローテンポから始まる重めの一撃・序、テンポと威力のいいとこ取り・破、ハイテンポの低火力による連続打撃、本来ならどのタイミングで殴っても一長一短な力で終わる。しかしドラウプニルを持つレイシャにとって急のタイミングでの打撃は重い一撃がハイテンポで続く。壁に寄せたことでオーディンは壁に打ち付けられふっとばされることなく殴られ続ける。
「このまま勢いで倒してやるさ。さあ、思う存分殴らせてよ!」
(流石にマズイか?まさかドラウプニルを持っていたとはな。このままいかれれば流石の我でも厳しいな....しかし、時が来ればこいつの負けか。あと....10秒ほどか。)
殴られ続けるオーディン、しかし途中でグングニルを手放す。オーディンから離れたグングニルはレイシャにむかって飛ぶ。
(ここでグングニルか、でも予測を使えば避けられる。)
グングニルの攻撃も予測でギリギリで躱し続ける。
(このまま押し切って....終わりだ!)
そしてあと少しの所まで追い込んだレイシャ、そこにグングニルが飛んでくる。当然レイシャの予測によって避けられる....はずだった。
「ゴハッ!?」
レイシャは予測で常にオーディンとグングニルの動きを見ていた。しかし突然予測が全くできなくなった。グングニルだけでない、オーディンの動きすら一切分からなくなった。
何が起きたのか分からないままレイシャは後退しオーディンに問いかける。
「お前....何をした?」
「我は何もしていないさ、ただ時が来ただけだ。」
レイシャはオーディンの言っていることが理解できない。確かにオーディンが何か不審な動きをしたようには見えなかった。しかしレイシャの身に何かが起きたことは確かだった。
「貴様、我を倒すことに集中しすぎたな。自身の魔力管理ができていなかった。貴様は神術による予測を常に使用していた。そんな状態が続けば魔力なんてすぐに底を尽きるものだ。」
「魔力切れ?まじか、それは流石に想定外だったなー。でもあんた、ボクの魔力量なんて分からないだろ、ボクの魔力量がもっと多いって可能性もあったでしょ。」
「貴様は先程グングニルの攻撃を少し受けただろう。かすめただけかもしれないがそれが原因だ。グングニルの能力は投げたあと自動で手元に戻る、相手を追尾する、そして....攻撃を当てた相手の魔力量を図るというものだ。そこで魔力量を理解した後貴様の魔力が尽きるタイミングを狙っただけだ。」
レイシャの魔力量は一般的に見て平均値と言える量である。しかし、常時発動することで真価を発揮するレイシャの神術はレイシャの想像以上に魔力を消費していた。
「ハハ、そんな初歩的なミスするとか、僕も馬鹿だなー。ファルタに勝てないで終わるのは流石に嫌だったんだけどな。」
「確かに貴様は思い違いによる痛手を負った、だが発想や力量自体は魅入るものがあったのも事実だ。神物を扱いきれていないことも敗因の一つだろうな。鍛え方次第では我ともう少し渡り合えたかもな。」
槍を構えたオーディンは寝そべるレイシャに対して槍を立てる。
「貴様の実力、認めてやろう。だが、貴様もこれで終わりだ。もしあのときに生きていれば嬉しかったものだ、な!」
レイシャにむかって槍を突き刺そうとする。しかし、レイシャに槍は刺さらなかった。
「何?何者だ?」
「ん?俺は別に、ちょっと動きが速いだけのこいつの仲間だ。」
神物の使用なんですけど基本的に使用中に魔力を使用することはないです。ただ使う時に魔力は結構必要になります。レイシャで言うと殴ってるときは魔力を使わないけどドラウプニルの神物開放に魔力が必要になるって感じです。
フィンブルヴェトのメンバーで魔力が一番多いのはダントツでエルナですね。次に多いのはファルタ、僅差でレイシャが下にいます。ジェイドはほとんど魔力ないのでこの四人でなくともかなり低い位置にいると思います。




