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板野 15

 違う。

 こんなんじゃない。

 こんなはずじゃない。

 こんなはずじゃなかった。


 わたしは、話をしにきたの。

 話しあいにきたの。

 涼と話をするためにここにきたの。


 涼は涼のままでいるはずだった。

 涼は涼のままでなきゃいけなかった。

 わたしたちは向きあい、話しあって、

 じっくり時間をかけて結論をだすはずだったのに。


 涼であった——ついさっきまで涼の顔をしていたモノは、さらなる血の飛沫(しぶき)を周囲に()き散らしながら、通路の上へとくずおれた。

 赤い塊が、

 顔でなくなった顔がわたしへ向いている。

 どろりと濁った眼球がわたしの姿を捉えている。

 わたしが見える。

 わたしは、わたしを見ている。

 不思議なことに、わたしは、わたしを視界に捉えている。

 ——違う。

 そうじゃない。

 わたしの目の前にあるのは、グール化した(いびつ)な死体。

 わたしが見ているものはオレンジ色した通路のあかり。

 わたしはここにいる。

 見ているのがわたし。

 わたしがわたしを見ることなんてできない。

 だけどわたしがそこにいた。

 わたしを、わたしが、認識していた。


「やったか?」

 男たちが話している。

 大きな声で。不快なくらい大きな声で話している。

「頭だ。念のためにもう一発、頭を撃て」

 姿を見せない男たちの話し声が聞こえる。

 強制的に耳に入る。

 頭の中へ侵入してくる。

「あまり近寄るな。感染しちまうぞ」

 あかりの中で影は揺れない。

 ただ声だけが聞こえてくる。

 声だけが、わたしの耳に。頭の中へ入りこんでくる。

 光が弱まった。

 視界が(ふさ)がれた。

 いつの間にか白石くんが立ちあがって、わたしの前に立っていた。

 銃を両手でしっかり握り締めて、白石くんは出入り口のほうへ歩を進めていく。足を動かす。

 こっちを向いた。

 わたしのほうを。

 わたしの顔を。


 ——大丈夫だから。


 声にはださずに、そういったのが、白石くんの口の動きでわかった。

 何度いわれただろう——この言葉を。

 何度聞かされたろう。同じ、この言葉を。


 大丈夫だから。



 ううん。



 大丈夫じゃないよ。

 全然、大丈夫じゃないよ。

 ごめんね、白石くん。


 本当に、

 ごめんなさい。





 わたしは泣いていた。


 声にだして、泣いてしまっていた。





     ——第五章『グール』了









引用・参考資料 敬称略


 『ポケットモンスター』

  The Pokémon Company


 『愛のむきだし』園子温 監督作品

 『名探偵ピカチュウ』ロブ・レターマン 監督作品




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