表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/93

板野 08

「待て——妙だ。なにかおかしいぞ」

 視界にとらえたフォレストホテル。

 だけど丹田さんは車のスピードを落として、正門よりも手前で停車した。

「どうしたの? 妙って、なにが?」

 手にもった棒状のスタンガンを握り直して訊いてみたけど、質問に返してきたのは白石くんだった。「板野さん、このホテル、無人じゃありませんよね? なんの用があってこんなところまできたんです?」

 警戒した声。

「誰かいるな」

「誰かいますね」

「近づいても大丈夫なのか?」丹田さんが問う。「門の前に車がとまっているぞ。いきなり囲まれて、襲われたりしないよな?」

 三人からの、まさかの質問責めだった。

「わ、わたしに訊かれたって——」訊きたいのは、わたしのほうなのに。「わかるわけないじゃない!」

 この場所に涼がいる。それはたしかだ。

 だけど、どうしてここに涼がいるのか、ここでなにをしているのか聞かされていない。

 市民団体〈TABLE〉の本部で出会ったウディって人は、フォレストホテルで涼と会い、涼がつけていたブレスレットに記されていた文字を見たから、わたしの名を知っていたらしいけど、涼に関することは尋ねても教えてくれなかった。「行けばわかる」とだけ——それだけ答えて、口を閉ざしてしまった。

 だから、わからないのだ。

 訊かれても困る。

 わたしに尋ねられてもなにも答えられない。

「わからないってどういうことだ? おい、おれたちを脅してここまで運転するよう命じたのは、きみだろ」

「そうですよ。ちょ、ちょっと、勘弁してくださいよ。まさか不法入国者のアジトなんていわないですよね」

「板野さん、どういうことなの?」

 あぁあ、もうッ。

 だから、わたしに尋ねられても、なにもわかんないんだって。

「もういいッ。わたし、ここで降りる」

「降りる? 降りるって——ま、待ってよ、板野さん」

 後部座席のドアを開けると、白石くんも同じように反対側のドアを開いた。

「な、なんなんだよ、一体。おい、待て、どういうことだ! どうしてここまで運転させたんだ!」

 丹田さんが声を荒げているけど、無視して、扉を勢いよく閉めた。

 右手にはスタンガンをもち、左手は鞄を握り締めている。一方で、白石くんは手ぶらで車を降りていた。手荷物があったのに載せたままじゃない。このまま丹田さんたちが車をだして、引き返したらどうするつもりだろう。

「待って。待ってって、板野さん。なんなの? このホテルになにがあるの?」

「行けばわかる」

「行けば?」

「行けば、わかるはずなの」

「目的があってここにきたんだよね?」

「行けばわかるっていわれたのよ!」

「え? 誰に?」

 もうッ——

「わかんないのよ、わたしも。わかんないからきたの。たしかめるためにきたのよ、嫌ならついてこなければいいじゃないッ」

 噴出した感情に呼応したかのように、強い風が吹いた。

 これから最も日射しが強くなる時間帯ながら、気温はさがり、雲行きは怪しくなっている。

「わ、わかった。わかったよ。けど——」白石くんは心配そうな目でホテルのほうを見つめて、足をとめた。

 緑で覆われた山の中に建つ近代的な建物は、不吉で巨大な墓石のように見える。

 敷地を取り囲む柵には有刺鉄線が何重にも巻かれていて、何者かがグールの侵入を防ぐべく敷地を要塞のように使用していたってことがわかるけど——正門は開かれたままになっている。

 正門の側にはワンボックスカーが駐車していて、奥にはクリーム色したプレハブ小屋が建っている。

 九州封鎖後に人の手が加えられた形跡は明らかだが、不思議と人の気配は感じられない。

 丹田さんがいっていたように、妙な感じだ。

「もしかして柏樹さんがいっていたホテルかな」

「柏樹? 柏樹さんがなに?」

「ほら、温泉があるっていってたホテル。ホテルの周りには……ちょ、ちょっと。待ってよ、板野さん。待って。ひとつ訊きたいんだ。あ、あの、あのさ、いまさらではあるけど、板野さんって、うちの店長と、どういう関係なの? ひょっとして板野さんは、僕とは異なる任務を命じられているんじゃないかって、そう思ってたんだ。ほら、荒木もコソコソなにかやってるしさ。板野さんもフィギュアの回収とは別にやるべきことがあって、だから、ここに——フォレストホテルに向かうよう、藤枝店長に命じられたんじゃないかって思ったんだけど、違う?」

「一度に沢山、訊きすぎ」

「ごめん。つまりさ、ぼくが訊きたいのは……あ、丹田さんたちも車を降りてきたよ。こっちにくるみたい——って、待って。待ってよ、板野さんッ」

 白石くんがあたふたしている間に正門到着。

 ワンボックスカーの中を覗くと、後部座席に大きな鞄が幾つも載っていた。

 旅行者がパーキングエリアに立ち寄って車を離れているって感じの印象を受ける。

 ドアに鍵はかけられていなかった。

「開けちゃうんだ?」

 白石くんの突っこみには応えず、後部座席側のドアを開けてシートの上に置かれた鞄のひとつを手に取ってみた。

 重い。

 片手ではもちあげられない。

 すごく高そうなブランドものの鞄だ。

 開けてみると男性ものと思われる衣類がギッシリ詰めこまれていた。

 財布? 財布がでてきた。中には沢山のカード類。現金も沢山。日本のものではない紙幣も多く含まれている。

 セレブな観光客が車で訪れたんだろうか。

 こんな場所に?

 九州の、山奥の、墓石のような廃墟ホテルに?

 ……ううん、まさか。

 まさかね。


 主は車内に財布を残して、どこへ行ってしまったんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ