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板野 05

 そして現在、わたしは九州の地で市民団体〈TABLE〉の人が運転する車に乗っている。


 ハンドルを握っているのは丹田という男性で、鬚の伸びた四〇代半ばの中年。

 ほんのちょっと渡部篤郎似なうえに、神父っぽい黒い服を着ているから、少し前にBSで観た〈愛のむきだし〉を思いだしちゃう。


 助手席に乗っているのは日並沢という男性で、こちらは見た感じ、わたしよりちょっと年上くらい。

 身体のあちこちに油がついていて、いかにも技術者といった感じ。


 後部座席にはわたしと白石くんが乗り、荒木さんは、カメラマンである柏樹さんの運転する車に乗せてもらっている。


 時刻は午後一時。

 二台は国道3号線を南下していて、柏樹さんのSUVが先頭を走り、わたしたちはそのテールランプを追いかけている。

 そんなわたしたち側の車内はというと、


「やっぱりピカチュウって喋らないからいいんですよね」と白石くん。

「そうだねぇ、言葉を交わせないのに意思が通じあえるっていうのが上手い設定なんだよねぇ」答えたのは助手席に座る日並沢さんだ。

 なにがどうしてピカチュウの話になったのかよく憶えてないけど、〈TABLE〉の本部をでてからずっとこんな感じ。っていうか、ピカチュウって喋っていなかったっけ?

 まあ、

 ピカチュウはさておき、

 白石くんはビックリするくらい他人と打ち解けるのが早い――というか〝常に媚びる〟が基本姿勢的なところを、出会ったばかりのときから感じていた。

 どういう経緯でそんな性格になったんだろう、白石くん。

「これ、本当にもらってもいいんですか?」

「もちろん。野犬に対しては効果抜群だよ。街中を歩いていて最も怖いのは感染した野犬と出会すことだからねえ。キャップを外して周囲に振りまくだけで、野犬は近くに寄ってこなくなるよ。ベルトに装着できるようになってるから、常に腰にさげておくといい」

「ありがとうございます。じゃあ、早速」

 気に入られて、対野犬用のグッズとか貰っちゃってるし。

「効果があるのは野犬だけで、グールには効かないんですか」と、白石くん。

 水筒のようなデザインの対野犬用グッズを、ズボンのベルトに装着しながら上機嫌で尋ねている。

「投げつければ目潰しとして使えるかもしれないけど、基本的に鼻が利く動物にしか効果ないよ。自分よりも大きくて強い相手であることを〝におい〟で察知させて、怖れさせることを目的としているからね」

 あぁ……おそらく、筒の中身は、象やサイといった大型動物の糞を粉末加工したものに違いない。

 お願いだから白石くん、車内でキャップを開けようなんて考えをもたないでね。

「ところでピカチュウの件ですけど」

 え。

 またそこに話が戻るんだ?

「言葉を用いないからこそ関係性が深まるというか、距離が縮まるとでもいいますか、そういうのってありますよね?」

「あるある、あるねぇ。わかるなぁ、そういうの」

「それにピカチュウ、可愛いですし」

「そうだよねえ。可愛いよねえ」

 いい大人なのにどうかと思う会話だけど、まあ、白石くんらしいといえば、白石くんらしいので〝よし〟としよう。

 相変わらずってことで安心感も得られるし。

「言葉が通じなくてもいいんですよね。むしろ、通じないからこそいいんですよね」

 なに? まだ続くの?

 何回同じ……ま、いいや。

 白石くんらしいと納得したばかりなので文句はいうまい。



 九州上陸に不安を抱いていたわたしの心を、ほんの少し、軽くすることができたのは、メンバー内に白石くんのような人がいると知ったからだ。

 暴力や揉めごとが嫌いですってオーラ全開の白石くんとなら、九州に上陸しても大丈夫だろうと思った。

 なにがどう大丈夫なのか具体的に述べよといわれると言葉に詰まってしまうけど、同行する相手が藤枝やわたしの部屋へあがりこんできた男たちではなく、白石くんだったってことは大きい。

 それに白石くんはわたしと同じく、今回がはじめての九州上陸みたいだから、そんなところでも仲間意識を感じるというか、連帯感?



「本当にそうかな。普通は、言葉が通じない相手には畏怖し、距離を置くものじゃないかな」なぜかこのタイミングで、ハンドルを握っている丹田さんが口を挟んできた。「だからこそ、いまのような事態に陥っていると思わないか」

「いまの事態って?」白石くんが問い返す。

 バックミラー越しに、丹田さんは答える。

「人間とグールの関係性だよ。みんなはグールと呼んで化物のように怖れているが、実際は感染してしまっただけの、いわば病人じゃないか。見た目が変わって、意思の疎通が行えなくなって、ゾンビと同様に死後復活もあるとわかった途端に、みんなは害のある存在と見なすようになった。グールと言葉を交わすことが可能だったら、現状は変わっていたんじゃないかって、おれは思うんだ」

「はぁ――」考えこむように、白石くんが声を発する。

「そう、ですね」と日並沢さん。

 丹田さんの主張はわかるけど、ピカチュウの話とは少々ズレたような気がしないでもないが――まぁいいや。議論を交わすつもりなんてないし、変に口を挟んでややこしくなっても困る。

 首を伸ばしてダッシュボードに取りつけられているカーナビの画面を見た。

 現在、久留米市内。

 ワゴン車を路駐している場所へかなり近づいた。

 福岡と熊本の境界にも。


 そろそろいいタイミングだろう。


 座席のうしろに置いていた大きな鞄へ手を伸ばす。

 白石くんが不思議そうな目で見てきたけど無視。

 ほんの少し鞄の口を開いて、手を中に入れ、コツリ。と爪の先にあたった固い物体を握った。

 危険な目にあったときには使えといわれて、荒木さんから渡された棒状タイプのスタンガンだ。

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