板野 02
「おはようございます」
わ。
びっくり。
檻の連なる通りの向こう側から声をかけられた。見ると四人の男性がこちらへ近づいてきていた。
怒られるかなって思ったけど、声をかけてきた男性の表情には笑みが浮かんでいた。
「柏樹さんのお連れのかたですよね。はじめまして。小野といいます」
親子くらい歳が離れているのに、〈TABLE〉の人たちはみんな丁寧な言葉で接してくれる。
わたしは背筋を伸ばして、はじめましてって返して頭をさげた。
朝の散歩をしているとでも思われたんだろうか。だといいけど。
「正午にはここをでられるんですよね?」
「え? あ、はい」
そうなんだ? もう少しゆっくりしたかったのに。
「丹田と日並沢が同行して、現場で車を修理しますから、ご安心ください。ふたりとも腕はいいんですよ、腕だけは」そういって顔をクシャクシャにして笑った。
笑うところですよ、って雰囲気を感じ取って、わたしも微笑んで返す。
「ありがとうございます」
丹田さんと、日並沢さんか。
〈TABLE〉の人たちって何人いるんだろう、敷地内に。
「檻を見て回られるのは構いませんが、あまり近づかないでくださいね。唾液などが付着した場合、感染してしまうことがありますので」と小野さん。
怖くなって一歩身を退いた。目的を達成する前に、わたしがグールになってしまうなんて事態は避けなくちゃ。
「ごめんなさい、気をつけます」
頭をさげると、小野さんは、「まぁ、注意していれば、感染することなんて滅多にありませんけどね」といって肘の辺りをポリポリと掻いた。
——ふと、思う。
九州に上陸してからずっと考えていることだけど、たとえば蚊がグールを刺して、そのあとに別の人間を刺したりしたら、刺された人は感染しちゃうんだろうか。
いまのところわたしは蚊に刺されていないしグールにもなってはいないけれども、気になるところだ。
〈TABLE〉の人たちは九州での生活が長いから、その辺詳しく知ってるかな。って思って、四人の顔を改めて順々に見ていたら、ひとり、明らかに日本人ではない顔立ちをしている人がいることに気がついた。
「あぁ——彼は」わたしの視線に気づいたらしく、小野さんが説明してくれる。「昨日、保護した入国者でしてね。感染はしていませんので、安心してください。名前は……なんだったかな。彼は日本語が話せるんですよ」
「ウディです」
インド系っぽい顔をした男性が名乗って会釈した。
わたしも会釈して返す。
「板野です」
こんなところで不法入国者の人と挨拶を交わすなんて、変な感じ。
「イタノさん? イタノマリエさん?」
「——え?」
なに?
いま、わたし、フルネームで呼ばれなかった?




