柏樹 04
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「さて――」ワゴン車の開かれたドアの前に立った柏樹は、車内にいる男女をゆっくり見回した。太陽を薄い雲が覆ったせいで光量が弱まり、やんでいた野犬の遠吠えが再び鼓膜を震わせている。「邪魔者は去ったし、続きをはじめようか。といっても、脅しの続きは勘弁してくれよ。できれば建設的な話がしたい。天王寺くんと同じ目にはあいたくないしね」
「すみません」と、手前のシートに座っていた色白の青年が頭をさげる。
つられて隣にいた少女も浅く項垂れた。
青年の言葉を受けて緊張が解れたのか、柏樹は口元に笑みを浮かべ、表情を緩めて半歩前進した。
「交渉の余地はあるようだね。広域捜査官とのやり取りからわかったと思うが、僕は、きみたちを軍や警察に差しだすつもりなんてない。味方であるとまではいわないが、敵でないことはたしかだ。ところで、きみらは無許可で九州入りしたクチだろう? 上陸場所は太平洋側の海岸。それも大分寄りの宮崎とみたが、どうだい?」
「え、えぇ。そうです。そのとおりです」
色白の青年が両目を大きく見開いて、正直に返答する。
奥のシートに座っている体躯のいい青年が睨みつけていたが、色白の青年は気づいていない様子だった。
「きみらのワゴン車は宮崎ナンバーだから、宮崎の海岸から上陸したんじゃないかって思ったのさ。大分寄りといったのは、汚染地域である九州南部からの上陸は避けて当然だしね。ところで、こんな場所に路駐していたのはどうして? ガス欠か、それともバッテリーがあがってしまったのか。もし僕にできることがあれば力を貸そう――と思って停車したのに、いきなりスタンガンで襲ってくるなんてあんまりだよ」
「すみません。ぼくらは、あの、あなたたちがどういう人なのかわからなかったから、焦ったというか、怖かったというか、あの、本当にすみません」
「謝るなら、僕ではなく、彼に」柏樹はシートに倒れている天王寺へ目を向けた。「被害を受けたのは天王寺くんだからね」
「そうですね……すみません」
柏樹の言葉に従い、色白の青年は横になっている天王寺へと謝罪の言葉を述べて頭をさげた。その様子を見て、柏樹が笑みをこぼすのと、体躯のいい青年が舌を鳴らしたのは同時だった。
「きみらはこれからどうするつもりだい? 車が修理可能のようなら手を貸すし、往復を望まないのであれば僕の車に乗せて目的地まで連れて行ってあげてもいい。ただし、車だけを奪うってのはナシだよ。上陸許可を得た者の車には受信機が取りつけられて、GPSによってどこをどう走っているのか監視されているから強奪はお薦めしない」
「――なるほど」ここで、仏頂面で沈黙を守ってきた体躯のいい青年が口を挟んだ。「選択肢は限られているってことか。修理工場まで運びたいところだが、この地じゃあ、それも無理な話だろうな」
「従業員は不在だろうしね」柏樹はワゴン車のドアの縁に手を添えて鼻を鳴らした。
「あんたの車を奪うつもりだったが、監視されているってのは、困った話だな」
「どこに行くつもりなんだ?」
「いろいろだよ。数日で巡り終えないくらい、いろいろだ」
「ということは、今日一日同乗させてあげても満足してくれないということか。先にいっておくが、受信機がどのようなかたちをしていて、車のどの部分に搭載されているのか、搭載する際に立ちあわせてもらえなかったので、僕は知らないよ」
「ヘタな嘘はいいって」
「信じるか、信じないかの判断は、きみに任せよう」
すると体躯のいい青年は腰を浮かせて、車を降りようとする素振りをみせた。
柏樹はドアの縁から手を放して数歩後退した。
青年の手には棒状タイプのスタンガンが握られている。




