黄(ファン)12
前回、ツアーの仕事をやったとき、おれと組んだ男は髪を茶色く染めて前歯の欠けた二〇代後半の痩せた男やった。男は毎日毎日だるい、だるい、だるいと連呼して、隙あらば、ポケットに忍ばせていた大麻入りのパイプを口にくわえてニヤけとった。そんな男と一緒に働いて、物事真剣に考えるなんてあらへんわ。男は店舗内でグール化して行く不法入国者どもを横目に見ては、気持ち悪ッ、吐きそうや。なんやこの声、この臭い。早いとこ死ねや、扉に近寄んないうて、無駄にスタンガン放電しまくっとった。おれも悪態ついて連中から目をそむけとった。そうすればいらんこと考えて悩む必要なかったし、気分的に楽やったし、それが正解やと、そんときは思えたんや。
前の前のツアーで相棒に選ばれた男は、口数が少なくて、なにを考えとるんかわからん薄気味悪い男やった。そいつはいつもイヤフォンを耳にはめとったんで、なんの曲を聴いとるんか気になって、尋ねて、聴かせてもらったんやけど、聴いとったのは曲やなくて、どこの国の言語かわからん変な言葉を呪文のように喋っとる、気持ち悪い男の声やった。そいつはどこぞの宗教に属しとる信者やったらしいが、呪文を聴かせてもらったあとは、ほとんど言葉を交わさんかったんで、詳しいことは知らへんし、以後、一度も顔をあわしとらん。一緒に働いとった間は、ずーっと、早く終わらんかな、家に帰りたいわ、いま何時やろか、早う寝たいわって、そんなことばっかり考えてアホになれアホになれ自分にいい聞かせとった。なんも考えんかったいうのが正解かもしれんけど。




