本当は……
離れた場所で練習していたアリアさんとテラーさんが、こちらまで来ていた。となると、魔法を防いでくれたのはテラーさんか。
「これは……どういう状況だ?」
アリアさんが戸惑ったように言う。一方でテラーさんは、なにかを察したように、僕らと夫婦の前に割って入る。
「やあやあみなさん。落ち着いて。ね?」
「誰が落ち着いてられるか! こんな――」
男性のすぐ横を、光の槍が通りすぎた。
「――――」
「……落ち着いて、ね?」
テラーさん、それは、脅しだよ。黙ると言うよりは、驚きと圧倒的恐怖で何も言えない男性。テラーさんは、僕の方に向かってきて、背中に隠れたままのフローラに声をかける。
「……大丈夫、悪いようにはしないから」
「あ、あの、私……本当は……」
「分かってる。大丈夫、分かってるよ。フローラが隠してたこと、全部知ってるから」
そして、僕らを庇うように前に立つと、アリアさんに声をかける。
「ねぇ、アリアさん。法律とか、憲法とか、私ちょっと分からないからさ、判断してくれない?」
「え? あ、あぁ?」
戸惑いつつも、アリアさんが返事をする。テラーさんは右手の人差し指を立てた。
「まず一つ目。相手を極端に傷つけるような物言いや態度。何かの処罰の対象になる?」
「……言葉や態度だけでは、何にもならないだろうな。それで相手が生活困難にまで陥ったら別だろうが」
なんの話だ? 僕はそう思っていたが、明らかに男性と女性の顔色が変わったのが見えた。
「お、おい、なに言って……」
「じゃあ二つ目。例えば……そう、」
「えっ、わっ!?」
唐突にテラーさんが短刀を取り出し、僕の首筋に突きつける。
「ててて、テラーさん!?」
「……てめぇ、ぶっ殺すぞ」
「ごめんなさいぃぃ!」
「……ウタ兄、落ち着け、テラーだぞ」
「テラーさんだからこそ怖い!」
「テラー! ……あんまり虐めてくれるな」
「あはは、ごめん。
……そう、こんな感じに、脅す行為。それも、それが日常的なものだったとしたら、どう?」
「……そうだな。内容によるが、日常的であれば、相手の日常を脅かすとして警告が出るかもしれないな。従わなければ、軽い罪に問われる可能性もある」
「なるほどね。なら、家から外に出ることを禁じて、鍵をかけて、そのまま一週間放置したら?」
……嫌な予感がする。まさか、フローラは……そんな…………。
「待て、それは完全な監禁だ。しかも、一週間放置だと? 殺そうとしてるのか? そこまですれば犯罪行為だ」
「さらに、暴力が加わったとしたら?」
「……なるほどな」
アリアさんは、すべてを理解したようだった。僕も理解した。そして、ポロンくんも。
僕はフローラを守るように後ろに下がった。
「……さて、どうする? ここまで言われちゃったけど」
「なに言ってやがる! 第一、俺らがしたって証拠はどこにも」
「別に! ……あなた方がどうこうとか、言ってませんよねぇ?」
テラーさんは一歩、その夫婦に近づく。と同時に、二人は一歩後ずさる。
「それに……見てますから、私。フローラと初めてあったとき、身体中にあった痣」
「そ、それはどこかでぶつけて」
「フローラもそう言ってました。庇おうとしたのか、恐怖で言えなかったのかは分からないですけど。
ぶつけたというような痣じゃなかったんで。全部治しましたけど、火傷っぽい痕もありましたね。お腹に。普通は、料理してても、そんなところに火傷しませんよね?」
「し、知らない! そんなもの知らない!」
「……本当のところは、本人に聞けば、わかりますよ」
僕はしゃがみこみ、フローラと目線を合わせた。長い前髪の奥で、不安そうに銀色の瞳が揺れる。僕は、『大丈夫』というように、ゆっくりと大きくうなずいた。
「……こ」
フローラは、震える手を伸ばし、自分の両親を指差した。
「この人たちが! わ、私のこと殴ったんです!」
「なっ……」
そして、隠れた瞳から涙を溢れさせ、僕らに訴える。
「私……っ、私、嫌です! こんな人たちと一緒にいたくない! 自由になりたいっ!」
僕はハッとした。フローラがメヌマニエを倒したあとにいっていたこと……。
『自由になりたい』
そういう意味だったんだ、と、今さらに思った。
声を大にし叫んだフローラを見て、テラーさんはどこかホッとしたように笑う。
「てめぇ……親から逃げられると思ってるのか!?」
「ひっ……」
腰に差していた剣を引き抜き迫ってくる男性。とっさに身構えた僕だったが、そのさらに前にアリアさんが立ち塞がる。
「なんだ貴様! 何様のつもりだ!」
「時期女王様のつもりだ! ……下がれ」
動かない男性に、アリアさんは目を光らせる。
「下がれっ! それ以上この子に近づくことを、この国の姫として禁止する!」
「あ……っ、あなた! 姫っていう立場を利用して、親から子を引き離すつもり?!」
「……あれ? おいらの聞き間違いかなぁ?」
ポロンくんがアリアさんの横にたつ。
「誰が親だって? おいらには、ただただ憎らしく映るだけだけどな、お前らの顔は」
「貴様ぁ!」
再び向かってこようとすると、テラーさんが魔法で止める。
「……だから、ダメだって」
僕は、思わず言葉を漏らした。
「……家は、安心できる場所であるはずなのに。親は、子供が頼れる人であるはずなのに。フローラを傷つけて、あげくには殺そうとして……。僕には、理解できません」
「さて……どうしますか? アリアさん?」
テラーさんが意味深に振り向く。アリアさんは重い声でゆっくりと告げる。
「こいつらがフローラにしたことは、個人的な感情を抜きにしても立派な犯罪だ。ギルドに連絡させてもらう」
その後二人はギルドへと連行され、やがて罪も認め、フローラは、やっと、解放されることになったのだ。




