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東方零異変~Forgotten entity~  作者: ksr123
第二章 守るべき約束
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第十一話 ~手掛かり~

レイと満月は、命蓮寺の客間へと通され、ナズーリンと昼食をとっていた。別室では人妖混じって賑やかに食事をしているが、またこちらの様な慎ましく穏やかな雰囲気もレイは好きだった。


やはり、自分は人の少ない方が落ち着ける。


大人数での食事も良いが、こうやって3人で食卓を囲んでいると一人一人の人間性というものがよりよく見えてくるのもまた楽しかった。それは自分の事もまた同じで、いつもは掴めない自分の姿が、最近は段々と分かりかけてきていた。


思えば幻想郷に来てはや一月。迷い込んだばかりの頃は、失った記憶のことを引きずって何かとネガティブになりがちだったが、最近になって、漸くレイとして生きることにも慣れ始めたし、何より満月という友人が出来たことが、何よりの喜びだろうか。


突如、思い出に浸るレイにナズーリンからの質問が投げかけられた。


「ところで君、満月とはどういった関係なんだ?」


「満月?うーん・・・。友達、かな?」


チラリと満月の方を見るが、別段変わった様子も無く汁物を啜っている。が、何処となく落ち着きが無いのは、嬉しいからなのか、なにか言葉を挟みたいからなのかは分からない。


「ところでナズーリン、阿求の居場所は分かるのか?」


「ああ、先程子ネズミ達を送り出したところなんだが・・・おかしいな、帰りが遅すぎる」


彼女はゆっくりと立ち上がると、障子を開けて外を見回す。が、その子ネズミたちの姿は見えない。


「一応、大体の居場所は見当がついているんだけど」


「なんだ、そうなのか。別に大体でも構わないぜ?どうせ当てなんか元々無いんだし」


「そうか・・・じゃあ、人里の西、とだけ言っておこう」


「西って何かあったっけ?満月」


「西って言うと迷いの竹林だね。不老不死の人とか、月の兎とか色々居るらしいよ?」


「迷いかぁ。面白そうだな。遊びに行くわけじゃないけど」


「まあ、行くのなら十分に気をつけるんだぞ?」


「はいはい。そうと決まれば、さっさと飯食って行くとするか」


そう言うと、レイは物凄い勢いで食事を食べ始めた。満月も置いて行かれないようにと慌てて頬張るが、うまく飲み込めずに喉に詰まらせたらしく、しきりに胸を叩いていた。軽く笑いながら、ナズーリンが言った。


「こらこら、慌てて食べるからそうなるんだ。レイも、急いで食べても美味しくないぞ?もっとゆっくり味わって食べないと」


「ん・・・そうだな」


今度は、しっかりと料理を味わいながら3人で談笑を楽しんでいたが、ふいにナズーリンが切り出した。


「そういえば、満月はレイのことをどう思っているんだ?」


「わ、私!?」


満月は心底驚いたような素振りを見せ、食事の手を止め一人で考え込む。暫くは何やら気難しそうな表情をしていたが、あれこれ悩んでいると次第に彼女の顔が赤らんでいくのが分かった。


うんとね、そのね、と指先で畳を弄りながら、彼女はゆっくりと口を開いた。


「・・・恋人同士」


ナズーリンは呆気にとられた様に彼女の姿を凝視していたが、レイの方はというと、実は大方予想はついていた。気付いていたのだ。満月の気持ちに。勿論、口が裂けても本人には言えないが。


「・・・レイ、君は?」


「何回聞いても答えは変わらない。友達だ」


「はうぅ」


ガックリと肩を落とす満月の姿を、ナズーリンは物珍しげに見るのであった。



◆◇◆◇◆◇



「じゃあ、気をつけて」


「ああ。ありがとう」


「バイバ~イ」


命蓮寺を後にして、二人は迷いの竹林に向かった。人里を出て西へ向かうとそれがある。妖怪は出る、道には迷うと人間には恐ろしい場所ではあるが、2人はそんな事など気にも留めずに歩いていると目の前に目的の竹林が見えてきた。


「お、あそこかな?」


「うん」


お互いにうなずきあって確認すると、竹林へ向く足を速めようとして踏み止まった。あたりに放たれる殺気。その気配は満月にも容易に感じ取れるほど濃厚なものだ。間違い無くそばに居る。


それこそ、今自分達の真後ろにだって。


悟られぬよう、視線だけで意思疎通を図ると即座に散開した。直後、先程まで2人が立っていた場所に巨大な何かが叩きつけられた。着地の衝撃を殺し振り返ると、そこにあったのは巨大な棒状の物体。その持ち主は見上げる程もある身長の巨人の妖怪だった。


一瞬たじろぎそうになった自信を無理やり奮い立たせ、刀を抜き払うと雄叫びを上げて斬りかかった。無防備に突っ込んでくるレイを、妖怪はその手に持った棍棒で豪快に薙ぎ払う。しかし予めそれを読んでいたレイは跳躍して躱し、地面を引き摺る様に振り回された棍棒はただ土を抉っただけであったが、地表を見ると判るように生身の人間がそれをまともに喰らえばひとたまりも無い。


跳躍の勢いのまま妖怪へ斬りかかるが、切っ先が皮膚を切り裂く直前でレイの体は横からの強烈な打撃によって吹き飛ばされた。


「ぐはっ!?」


全身を駆け巡る衝撃とそれによる激痛に視界が揺らぐ。地面を転がり、遠のきかけた意識をはっきりさせるため頭を振りながら顔を上げると、そこにいたのは巨大な妖怪・・・()だった。一匹だけと思っていたのが、実際は何十匹もの妖怪の群れだったのだ。


唾と一緒に血を吐き捨てると、満月を見る。上空に待機して牽制してくれているのを確認して再び妖怪の群れへ突っ込んだ。自分も弾幕による攻撃に徹しようかと考えたが、満月の攻撃に対する反応からしてその頑丈な肉体には余り響かないように見える。ともすれば数を減らすのは自分の役目だと言わんばかりに、レイはスペルカードを宣言した。


「音波『ウルトラソニック』!」


レイの掌から見えない振動波が放たれ、まず眼前の一匹を吹っ飛ばして後ろを巻き込み、その隣を吐血させた。その妖怪は上手い具合に体を内側から破壊できたが、吹っ飛ばされた者は直ぐに起き上がってその巨体とそれに見合った棍棒を振り回して襲い掛かる。


波が歪めば威力は落ちる。やはり、スペルを使っても一発で仕留められるのは1、2体が限界か。大量の妖怪たちによって所狭しと振り回される棍棒を掻い潜りながら、レイはそう感じた。


隙を見て一匹の脇腹を切り裂くが、硬い皮膚と発達した筋肉に阻まれ大きな痛手とはならない。むしろ抵抗するレイに対して怒りを露わにしてさらに猛然と殴りかかる。一匹だけなら大した敵ではないが、群れとなって襲い来るそれは圧倒的だった。


最初は難なく避けていたものの、攻撃する隙を見つけるとなれば別。敵の攻撃に対する注意力が僅かではあるが散漫になった結果、彼は後ろからの一撃を避けることが出来なかった。


視界が逆転し、今度は受身も取れないまま地面を転がる。肺の空気が全て押し出され、音を立てて息を吸い込むと今度は自身の体の内側から激痛が走る。呻きながらも起き上がろうとしたが、背骨がギシギシと嫌な音を立て全身の痛みを掻き立てる。それでも無理やり立ち上がろうとした瞬間、巨大な影がレイの全身を覆った。


恐る恐る振り向こうとして、彼の小さな体は巨大な棍棒によって、甲高い音とともに押し潰された。


「レイ!」


満月の悲鳴に近い叫び声が響くと同時に、棍棒を叩きつけられた地面が割れた。そして、視界の端に何か黒いものが見えた時には、妖怪が全力を込めて投擲した棍棒が満月の下腹部に直撃し、気付けば凄まじい衝撃によって満月は血を吐きながら吹っ飛んだ。


慌てて勢いを殺し急停止する。口元の血を拭いながら、殴られたときの感覚を思い出してふと気付いた。


人間を殴って甲高い音が聞こえるのか、と。警戒しつつもレイの方を見ると、そこには血に塗れた無残な光景は無く、ただ砕け散った地面の間に立つレイの姿があった。その後ろからは、棍棒を振りかざして迫り来る妖怪たちの姿。


「レイ、後ろ!」


満月の叫び声に、レイは穏やかに笑って見せた。後ろで再びその鈍器が振り下ろされ、レイの脳天を直撃する直前、彼が手に持っていた、いつの間にか宣言されたスペルが見えた。


「受流『目下の避衝体』」


直後、再び地面が割れ、辺りに土煙が立ち込めた。妖怪たちも不明瞭な視界の中、彼を見つけられずにいる。その内に煙は晴れ、姿を見せたレイは無傷。別段変わった様子も見せずに右手をかざし、その能力でもって巨体を吹き飛ばした。そして今度は横合いから強烈な一撃を受け、またしても無傷。それどころか反対側から迫り来る妖怪を吹き飛ばした。


何が起きているのかまるで理解できなかったが、熟考する暇も無く投げ飛ばされる棍棒を躱し続けた。一方のレイは、先程とは違い、完全に防御を捨てたように大胆に群れの中へ突っ込んでいった。


迫り来る全ての攻撃は眼中に無く、ただ我武者羅に刀を振るうレイに向かって巨大な棍棒が振り下ろされた。レイに直撃した瞬間、衝撃波が全身を駆け巡るが、レイはその衝撃()をそのままの勢いで反対方向へと逃がし、その先にいた2匹を同時に吹き飛ばした。


「ったく、これだって無制限に使えるってわけじゃ無いんだが・・・出し惜しみをしててやってられる相手じゃないみたいだな。面倒くさい面倒くさい」


あえて余裕気な素振りを見せるようにぶつぶつと文句を言いながら、止めの一撃と言わんばかりに、3枚目のスペルを宣言した。


「絶震『大地を揺るがす龍』!」


レイが拳を地面に叩きつける。するとそこの地面が割れ、次いでその衝撃が文字通り大地を揺るがした。もはやそれは地震と言うよりは小規模な地殻変動といったほうが納得いくほどの破壊力。


隆起、沈降、そして破壊。波打つガラス細工の大地は、瞬く間に形を失っていった。


中心に居るレイと浮いている満月はその被害を受けないが、妖怪達は成す術も無くそれに飲み込まれ、そして揺れが収まった頃には、あれほどいた妖怪たちが一匹残らず無残な姿で地に伏していた。


呆然と一部始終を見ることしか出来ない満月に対し、レイは服に付いた砂埃を払いながら地面の出っ張りを飛び越えながらこちらにやってきた。


「大丈夫か、満月?」


「うん。平気・・・レイってやっぱり強いんだね」


「まぁな。でもお前ほどじゃないさ」


照れ隠しのように頬を掻いて謙遜しながら、レイは妖怪達の残骸に近寄っていく。満月は余り残酷な光景は得意ではないので、少しは離れた所で待っているつもりだったが、突然レイがこちらに向かって手招きをしているのを見て、若干行きにくそうにしながらも彼のもとへ歩いていった。


「なあ満月、これって何だと思う?」


そう言って彼が指差した先にあったのは、妖怪の額に描かれた魔方陣のような図だった。


「これは・・・魔方陣?詳しくは無いけど、確か術式か何かを組み込んであるんだっけ?」


「へぇ、魔法ね。ってことは」


「妖怪達が暴れてるのはこの魔法のせい、だね」


「ああ。そしてこの魔法をかけた奴が犯人って事だな」


「そうか、魔法かぁ・・・」


「満月?」


「実はね、私の友達に魔法とかにすっごく詳しい人がいるの。だから彼に頼んでみたらどうかなって思ったんだけど・・・」


「いいじゃないか。何が問題なんだ?」


「実は、物凄い人見知りだから、初対面の人が怖いんだって」


「なんだそりゃ。じゃあ満月だけ行ってこいよ。俺待ってるからさ」


「ん・・・いや、やっぱりレイもついて来て」


「え、大丈夫なのか?」


「うん。レイなら大丈夫だと思う。それに、たまにはいい薬になるかも」


そう言って先に歩き出す満月と、その後を追いかけるレイの姿は、いつか人里で見た光景と同じだった。

夏霧の立ち込める湖。そこで出会った少女は、レイを「忘れられた存在」と呼び、ひどく憎んでいるようだった。


次回、東方零異変第十二話「夏霧の湖」

乞うご期待!

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