INTRODUCTION
主人公の冒険の始まりです。
まずは、活躍シーンから書いてみました。
いかがでしょうか?
大地が、爆ぜた。
轟音と共に土煙が吹きあがり、その中から一体の鋼鉄の巨人が飛び出した。
トリコロール。三食に彩られた鋼鉄の巨体が、地表を滑るように疾走する。
その名は、スサノヲ。
全高およそ8メートル。人間に似た二脚の姿を持ちながら、どこか昆虫を思わせる鋭角的な装甲と、長い四肢を備えた人型起動兵器……ドラグーン。
古代文明が遺したこの鋼鉄の巨人たちは、背部スラスターと脚部のグライディングホイールを駆使し、その体躯からは想像もつかない速度で戦場を駆ける。
その一体、スサノヲの操縦席に座るのは、蒼真剣斗。異世界から召還された、十六歳の少年だった。
「コーディ! 右のやつから行く!」
『ええっ!? そっち!? 左の方が近いじゃん!』
「右のやつ、剣を振り上げてる。先に潰す!」
『あ、なるほどね! じゃあ、ちゃんと当ててよ!』
「言われなくても!」
剣斗が操縦桿を倒した。スサノヲの両足に備えられたグライディングホイールが唸りを上げる。地面を蹴り、滑り、加速する。正面の敵ドラグーンが巨大な戦斧を振り下ろした。
だが、遅い。
「そこだ!」
スサノヲの右足が地面を捉えた。踵から突き出した鋼鉄の爪……ヒールピックが大地に食い込む。
次の瞬間、スサノヲの身体が独楽のように旋回した。
超信地旋回。
敵の戦斧が鼻先をかすめる。その懐へ、スサノヲが潜り込んだ。右手に握られているのは、長大な片刃の剣。
天叢雲剣……アメノムラクモ。
古代兵器スサノヲの巨体に合わせて鍛えられた、鋼鉄の大太刀だった。
「せいやぁぁぁあ!」
下段から跳ね上がった刃が、敵機の右腕を斬り飛ばした。戦斧が宙を舞う。
間髪入れず、スサノヲの左腕が突き出された。そこに備えられているのは、ドラグーンの近接戦闘用の武器、パイルバンカー。装甲を穿つための、鋼鉄の杭である。
ガギィィン! 鋭い金属音。
杭が敵機の胸部装甲に突き立った。
「撃ち抜けッ!」
轟音。
射出された杭が装甲を貫き、内部機構を粉砕する。敵ドラグーンは背後へと吹き飛び、地面を転がった。
『一機撃破! へへっ、今のはなかなか良かったじゃん』
「褒めるなら、素直に褒めろよ!」
『調子に乗るからヤダ! ほら、次が来るよ!』
警告と同時に、右後方から銃声が響いた。だが剣斗は振り返らない。左の操縦桿を引き、機体を斜めに滑らせる。銃弾が背後の地面を抉った。
「二機……いや、三機!」
『正解! でも数えてる暇があったら、動いてよね!』
「わかってる!」
スサノヲは、さらに加速した。
「コーディ、跳ぶぞ!」
『ちょっと待って、今の速度じゃ……』
「行くッ!」
『もうっ! しょうがないなぁ』
背部スラスターが火を噴いた。スサノヲの巨体が跳ね上がり、銃弾が足元を掠めて飛んだ。
スサノヲは空中で体を捻り、アメノムラクモを振りかぶる。
……敵機の頭上へ!
「もらったぁッ!」
斬撃が敵機の肩口から胸部へ走った。敵機が膝をつく。
着地したスサノヲは、そのまま踵を軸に旋回した。背後から迫っていた二機目の槍をかわす。その回転力を殺さず、アメノムラクモを横薙ぎに振るった。敵機の槍が根元から裁ち斬られる。さらに、踏み込む。
肩で敵の胸を押し込み、パイルバンカーを叩き込んだ。
爆音。
二機目が崩れ落ちた。
『二機連続! やるじゃん、剣斗!』
「まだだ!」
残る一機が後退しながら銃を乱射する。スサノヲは右へ、左へと迫った。
敵の銃弾がスサノヲの装甲を掠め、火花を散らす。
『うわっ! ちょっとぉ、今の、かなりヤバかったんだけど!』
「当たってない!」
『掠ったでしょ、今! ボクの装甲なんだから、もっと大事にしてよね!』
「後で磨いてやんよ!」
『そういう問題じゃなーい!!』
剣斗は笑った。
恐怖がないわけではない。
巨大な鋼鉄の兵器が飛び交い、砲弾が大地を抉る戦場。一瞬のミスが死につながる。
それでも、剣斗には信頼できる相棒がいた。
コーディ。
スサノヲに宿る、意志を持ったインターフェースユニット。
生意気で口が悪く、遠慮というものを知らない。
だが、剣斗の動きを誰よりも理解し、機体の制御を司る存在でもあった。
『コーディ! 次は左だ!」
『はいはい、次は何するつもり?』
「突っ込む!」
『うわ、出た! 剣斗のそれ、ほんっと単純!』
「わるいか?」
『悪くないけどさ、もうちょっと頭使ってよね!』
スサノヲが低く沈んだ。両足のホイールが最高速へ達する。
敵機は慌てて銃口を上げた。
遅い!
スサノヲは地面を滑りながら敵の懐へ飛び込み、アメノムラクモを逆袈裟に斬り上げた。銃が砕け散る。敵機が前のめりに倒れたところで、パイルバンカー。轟音と共に、三機目が沈黙した。
だが、戦場はまだ終わらない。
その時だった。
『剣斗、上! 上だってば!』
空から降り注ぐ光弾。剣斗は反射的に身を伏せる。敵の攻撃ではない。
光弾はスサノヲの前方を横切り、側面から迫っていた敵ドラグーンを直撃した。
爆発!
その上空を、一体の細身のドラグーンが駆け抜けた。
空戦型ドラグーン。マカティエル。
通常のドラグーンが地上での機動性を主体とするのに対し、この機体は飛行能力を持ち、空中からの高速攻撃とスペルガンによる射撃戦を得意としている。
搭乗しているのは、傭兵団フリューゲルのモーリィ・ミラ。剣斗と同じ、十六歳の少女だ。
『剣斗、何やってるのよ。背中ががら空きじゃない!』
「助かった、モーリィ!」
「お礼は後! あんたは前だけ見てなさい! 上はあたしが引き受ける!』
「了解!」
マカティエルが上昇する。敵の銃撃を軽々とかわし、空中で機体を反転させた。スペルガンが連続して火を噴く。光弾が地上の敵機を追い立てた。
その混乱に乗じて、別のドラグーンが突入した。左右の腕に、それぞれ一振りずつの剣。二刀流を得意とする、近接戦闘型ドラグーン、レッド・キャップ。その搭乗者はチャック・ベリーズ。フリューゲルきっての陽気な男であり、戦場でも軽口を忘れない剣士である。
『おーい、剣斗。随分と派手にやってるじゃねぇか』
「チャック!」
『だがな、剣ッていうのはこう使うんだぜ!』
レッド・キャップが低い姿勢で敵機の懐へと飛び込んだ。右の剣が敵の武器を跳ね上げる。左の剣が脚部関節を斬り裂く。敵機が体制を崩した瞬間、左右の刃が交差した。鋼鉄の胴体に深い傷が走る。
『どうだ? 二刀流ってのも悪くねぇだろ?』
「相変わらず、器用だな!」
『お前も一本、増やしてみるか?』
『やめときなよ!』
コーディが叫んだ。
『剣斗に二本も持たせたら、絶対どっちか落とすって!』
「コーディ!」
『あははっ!』
その笑い声を遮るように、遠方から乾いた銃声が響いた。
一発。それだけだった。
その一発は、剣斗に狙いを定めていた敵ドラグーンの頭部を貫いた
続いて、二発目。別の敵機の脚部関節が撃ち抜かれる。
遠距離狙撃に特化したドラグーン、ファガス。操縦者はキース・リチャード。
巨大な狙撃銃を用い、味方の進路を妨げる敵を遠方から正確に排除する、フリューゲルの狙撃手だ。
『剣斗、右前方の射撃機は潰した。進め」
「ありがとう、キース!」
『礼はいい。次が来るぞ』
短い通信。その直後、敵陣迫る一角から巨大な盾が突き出された。
いや、盾を構えた味方機だった。
重装甲のドラグーン、ヌカウェル。大型の盾と長大なランスを備え、防御と突撃を得意とする機体である。
操縦者はメアリ・ハルヴォーソン。貴族令嬢としての気品を持ちながら、戦場ではだれよりも堅実な戦いを見せる女性だった。
『皆さん、こちらへ! 敵の砲撃が来ます!』
轟音。
火花と土煙が周囲を襲う。だが。
ヌカウェルは健在だった。
『今です!』
メアリの声を合図に、盾の陰からレッド・キャップが飛び出した。キースはそのまま、敵陣へと切り込んでいく。と同時に、ヌカウェルがランスを構え、正面の敵機へと突入した。鋭い穂先が敵の盾を貫き、その巨体を後方へと押し込んでいく
それはまさに、鋼鉄の騎士たちによる連携攻撃だった。
彼らの名は、フリューゲル。帝国に反旗を翻した、傭兵団である。帝国の正規軍でもなければ、特定の国家に使える騎士団でもない。自らの機体を駆り、依頼を受け、各地を転戦する。
その一方で、圧政に苦しむ人々へ手を差し伸べ、帝国に対しても臆することなく刃を向けてきた。彼らを導くのは、ジーミィ・ヘンドリックス。二十八歳の若き団長だった。
『全機、聞こえるか?』
落ち着いた低い声が通信に割り込む。
『敵の増援を確認した。正面から四機、左右から各二機。包囲を狙っている』
ジーミィの声には、焦りも怒りもなかった。ただ淡々と、事実を伝えていた。
『キースは右翼を抑えろメアリは中央を維持。チャックは左翼へ。モーリィは上空警戒と哨戒を継続』
『了解!』
『任せとけ!』
『承知しました』
『かしこまりッ!』
次々と言葉が返ってくる。
『剣斗』
「はい!」
『中央の突破口を開け。……できるな』
剣斗は遥か前方を見た。土煙の向こうに、四体の敵機が迫ってくる。
巨大な剣。長柄の槍。スパイクのついた盾。そして、銃。
正面からぶつかれば、集中交易を浴びるだろう。だが……。
「やれます!」
『よし、任せる』
通信が切れた。
『ねぇ、剣斗』
「なに?」
『四機だよ? しかも、みんなこっち向いてるんだけど』
「うん、見えてる」
『で、どうするの?』
剣斗はスサノヲを走らせながら、アメノムラクモを両手で構え直した。刀身を右脇に引き、腰を落とす。
父から教わった剣術。
何度も何度も繰り返してきた、体に染みついた動き。それをドラグーンで再現する。
「真ん中を抜く」
『……また無茶する気?』
「付き合ってくれるだろ?」
一瞬の沈黙。
そして。
『へへっ! 全くしょうがないなぁ』
コーディが笑った。
「いいよ、ボクがちゃんと支えてあげる。だから……』
剣斗はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
『思いっきり、いっけぇ!』
この次のお話では、蒼真剣斗が召還されて間もない頃を描きます。




