EPILOGUE「PB-SYB-01」
昼下がりの事務所には、客席から食器の触れ合う音がかすかに届いていた。
棚の奥を整理していた店員が、埃をかぶった古い端末を引っ張り出す。電源が入るか試すと、しばらく黒かった画面に、時代遅れの業務管理画面が浮かんだ。
「これ何」
隣で伝票を束ねていた店員が覗き込む。
「古い在庫端末じゃない? その型、もう使ってないよ」
「記録残ってる」
「消してなかったんだ」
何気なく一覧を送っていた指が、一行で止まった。
「商品名、変なのある」
「何?」
画面には、ひとつの古い出荷記録が残っていた。
《商品コード:PB-SYB-01》
《商品名:共生体バーガー》
《数量:1》
《区分:試作品》
《出荷:完了》
《備考:返品なし》
二人とも、しばらく黙って画面を見た。
「……バーガー?」
「そう書いてあるね」
「共生体って、あの?」
聞かれた店員は、もう一度記録を上から下まで読んだ。
「分かんない。ここにあるのは商品名だけ」
「でも日付、これ」
「古いね」
公的記録に残る最初の症例より、前だった。
店員が詳細欄を開く。製造者の説明も、原材料も、試作品が何を目的としていたのかも残っていない。出荷先を示す欄も欠けていた。
「これってさ」
言いかけたところで、店内から声が飛んできた。
「すみませーん」
「あ、はーい!」
店員は反射的に返事をし、椅子から立った。
「あとで見る?」
「うん。消さないで」
「廃番記録なんだから消さないよ」
「そうじゃなくて」
「分かってるって」
端末の蓋が閉じられた。
古い記録は、その中に残った。
何が作られたのか。
誰が食べたのか。
いま街にいる共生体と関係があるのか。
記録は、そこまでは答えていなかった。
事務所の扉が開くと、揚げ物の匂いと店内のざわめきが入り込んでくる。
「お待たせしました」
「注文いいですか?」
「はい。ご注文どうぞ」
扉が閉まり、古い端末はまた静かな事務所に残された。




