大体わかるぞ!第一作『望遠のパラドクス』前編
【奇妙な相談】
右腕に突如浮かび上がった〝鎖の形をした痣〟。
身に覚えのない不気味な痣。我が身を苛む、霊障じみた奇妙な現象の解決策を求めた主人公『合掌抄帷』は、同じ学校に通うある少年を訪ねる。
校内で〝チンピラゴーストスイパー〟と噂される少年。
彼の名は『花蕗静』。
傲慢不遜。見るからに胡散臭い、口も態度も最悪な彼は、自らに纏わる噂を一蹴する。
「頼む相手を間違ってる。どんな相談かは露と知らねーけど、霊能力者でも見識者でもねー人間に手綱握らせるなんて、ほとほと馬鹿げた話だ。悪い事ぁ言わねーから、止めとけよ」
言い切りながらしかし、抄帷の相談をただ無下にする訳でもなく。静は彼女を自身の同級生『遠野稔』と引き合わせる。
奇妙な痣に纏わる、風変わりな調査が始まった瞬間であった。
【鎖の向こう、不気味な異界】
卓越した観察眼と、異常な情報網。加えて、常軌を逸した好奇心を持つ稔は、近隣で立て続けに発生していた女子高生失踪事件と、痣の関連性を示唆する。
被害者の少女達は行方を眩ませる直前、自身のSNSアカウントに〝鎖型の痣〟の写真を投稿していた。
痣と失踪になんらかの関連性を疑った静と抄帷は、街での聴き取り調査を開始する。
その過程で二人は、同じく失踪事件について捜査を行う探偵『明智小理』と出会う。
紆余曲折の末、行動を共にすることになった三人はやがて、失踪者のうちの一人が行方を眩ませる直前に辿った足取りを突き止める。
元は商業施設であった廃ビル。
現地に赴き、手掛かりを探していた最中、巨大な金属音と共に抄帷が姿を消す。困惑する静と小理の前に現れたのは、一人でに揺らめく不気味な鎖。後先を考えるよりも早く、静がその鎖を掴む。
暗転する世界。
一瞬前と同じ景色……しかし人影一つない、不可解な空間。そこで静が目にしたのは、紙袋で顔を隠し、手には鋸を持った男に追い詰められる抄帷の姿であった。
自在に操られる不気味な鎖。
命を脅かすには十二分な凶器。
それら理不尽な暴力から抄帷を守る為、静は自らの身を投げ出す。その内心に、燃えたぎる怒りを宿しながら。
「舐められっぱなしでたまるか。ゴミ虫みたいに扱われて、黙ってられるか」
その怒りに呼応するかの様に、静の体に異能の力が宿る。
彼の意志を追い越し、人間には不可能な速度で身体が動く。間に合わないはずの攻撃に拳が届き、打ち払えないはずの暴力を無傷で迎撃する。
『迎撃不可能である。故に、迎撃可能である』。
その名を『パラドクス』。
男が操る鎖と同質の、逆説の異能。
【逆説の異能】
異界での交戦は、何者かの介入によって幕を閉じた。
意識を失った静が次に目を覚ましたのは、見知らぬ事務所の中だった。
目覚めた彼の隣には、やはり見知らぬ青年が居た。
青年の名は『阿島京介』。
彼こそは小理の勤める探偵事務所の所長にして、異界での交戦を終結させた、もう一人の異能者だった。
困惑する静に、京介は能力についての情報を共有する。
個々人によって様々な能力が存在する事、
能力には本体のエゴが色濃く反映される事、
能力によって社会が脅かされる可能性が多分にある事、
法で裁けない能力者を咎める為に自身が活動している事を告げる。
新たな能力者となった静を警戒しつつも、合掌抄帷を救うべく自らの身を投げ打った彼の行動とその結果を信じると言い切る京介。静もまた、愚直に言葉を紡ぐ京介を信じるに値する人物だと判断した。
【囮】
失踪事件の真相は、異能者による誘拐だった。
異界での交戦を経て信頼関係を強めた静と抄帷は、事件収束のため、京介と小理に協力を要請する。
四人が選び取った策は、静と抄帷をそれぞれ囮にしたローラー作戦。
『パラドクス』は、その使用者の内面を映し出す。
拘束、束縛、孤立。
四人は二手に分かれて捜査を開始する。
【パラドクスの起源】
犯人の執着を考えれば、次に狙われるのはやはり抄帷——四人の見立ては一致していた。
京介は抄帷と、小理は静と行動を共にする。
道中、静は小理からとある怪事件について聞かされる。
二〇〇六年関東某所で起きた、『明石一家惨殺事件』。
犯人死亡で既に幕を下ろしていたはずのその事件は、しかし、様々な要因から今尚ネットを中心に語り継がれる都市伝説となっていた。
曰く、
被害者一家は油圧プレスで圧縮された様に殺害されていた。
犯人は当時七歳の末子・『明石真』であった。
犯人は自らの喉を包丁で突き刺して死亡した。
——そして、命を絶つ間際、『明石真』が口にしたとされる、言葉。
『アンタ方の大好きな現実の、今日が命日だ。この先は、逆説が蔓延る釜の底だ。長生きしたけりゃ皆様方、精々丁寧な暮らしを心掛けて、どうぞ』
京介と小理がパラドクスの起源であると睨む、風化する事なき過去の事件。これまでの常識が、とうの昔に形骸化したハリボテである可能性を突き付けられた静は、再び稔に連絡を取る。
犯人探しの協力要請。
その会話の中で、稔は奇妙な言葉を口にした。
『だから本当は探す手間なんか掛ける必要も無いのさ。遠からず、奴は必ず君の前に現れるよ、静。今度こそ、次は必ず君を仕留める為にね』
京介が永続的に抄帷を守護できる訳ではない。
犯人にとって、抄帷を攫う機会はいずれ訪れる。
ならば、自身の正体を探られている現状において、敵が次に狙うのは——能力発現後間も無い邪魔者。
稔の推測は、正しかった。
再び世界は暗転した。




