ep.2 初依頼と悩み事
世界観解説「お金」編です。
この世界のお金は「金貨」「銀貨」「銅貨」で、金貨1枚で銀貨100枚、銀貨1枚で銅貨100枚です。
銅貨1枚でリアルの100~500円です。
バックパックはあるけど通貨はインベントリにしまえる(ほら…あんな感じ…わかるだろ?)
奇妙な盗賊との一戦の後、俺と白風は元の場所に戻ってきた。ツルハシの威力に圧倒されつつも、改めてチュートリアルの続きを始めることになった。
白風「さて、と。気を取り直して、薬草採取の続きだね」
白風はそう言って、先ほど「夜桜」という盗賊とやりあった場所の近くに生えている薬草を指差した。警戒しているのか、彼女は矢を番えたまま慎重に近づいている。
白風「あの薬草、やっぱり色が変なんだよな…もしかしたら、ただの薬草じゃないのかも」
白風の言う通り、その薬草は一般的なものとは違って薄黒く変色していた。近づいてよく見ると、微かに毒々しいオーラを放っているのがわかる。
「これって、毒草?」
白風「ううん、違う。これは、「汚染薬草」。このゲームでは、稀に汚染された薬草や鉱石が見つかることがあるんだ。これを手に入れるには、特殊な道具かスキルが必要…って、あ」
白風はそう言って、腰にぶら下げていた小さなガラス瓶を取り出した。
白風「これ、親父が持たせてくれた「浄化瓶」。汚染されたアイテムを浄化できるんだ。本来なら、これも高レベルの製造スキルがないと作れないんだけど…せっかくだし使おっか」
白風は浄化瓶の蓋を開け、汚染薬草に液体を数滴垂らした。すると、どす黒い色がみるみるうちに薄れ、薬草は鮮やかな緑色に変わっていった。
「…おぉ」
俺はただただ呆然としていた、これからこういったアイテムを作れるようになると思うとわくわくしてきたが…先は長そうだな。
白風「これでチュートリアルは完了、と言いたいところだけど…あ、これも知ってておかなくちゃだ」
白風はそう言って、俺のバックから小さなカードを出した。
白風「それは、あんたの「冒険者カード」。ギルドで依頼を受けたり、アイテムを売ったりするときに必要になる、いわば身分証明書みたいなものだよ」
俺がカードを受け取ると、白風は笑顔で言った。
白風「よし、じゃあこの薬草を街の「冒険者ギルド」に持っていこうか。それが今日のチュートリアル最後の課題」
白風はそう言って、俺を街の中心部へと案内する。街はさらに賑わいを増しており、行き交う人々の中には、甲冑を装備した騎士や、ローブを纏った魔法使い、そして俺と同じようにバックパックを背負った探検家など、様々な職業のプレイヤーが見られた。
なんかサラリーマンを見たような気がするけど、まぁ気のせいでしょ。
ギルドは街で最も大きな建物で、重厚な石造りの入り口には、多くのプレイヤーが出入りしていた。中に入ると、活気に満ちた空間が広がっていた。壁には様々な依頼が書かれた掲示板があり、カウンターにはギルド職員が忙しそうに対応している。どうやら職員もプレイヤーらしい。
白風「ここが冒険者ギルド。初心者からベテランまで、誰もが依頼を受けられる場所だよ。それに、冒険者にはランクがあって、最初は皆、一番下の「ダート」からスタート。このダートランクの依頼だけを受注できるんだ。ちなみに、この掲示板に並んでいる依頼は、ギルドが用意したものだけじゃなく、プレイヤーが独自に出したものもあるんだよ」
白風はそう説明しながら、カウンターへ向かって歩き始めた。薬草については既に取っていた依頼だった様だ。
白風「じゃあ、この薬草をギルドに納品して、報酬を受け取ってね」
俺は言われるがままに、浄化した薬草をカウンターに差し出す。職員は俺のアイテムを確認し、驚いたように目を見開いた。
職員「こ、これは…清浄薬草!?しかも、こんなにたくさん…!お客様、これはチュートリアルで手に入れられたものですか?」
「はい、そうですけど…」
職員「なんと…!素晴らしいです!チュートリアルでこのアイテムを納品された方は、あなたが初めてです!通常は、もっと簡単な薬草しか手に入らないはずですし…アイテムやスキルも初期では中々揃わないのに!」
職員は感激した様子で、俺に大量のゲーム内通貨と、「初心者探検家セット」というアイテムを渡してくれた。どうやら通常よりはるかに豪華な報酬だったようだが、この初心者セットは初依頼で必ず貰えるらしい。
「…あのおじさん、チュートリアルをすっ飛ばす気満々だったのか」
白風が呆れたようにため息をついた。
白風「ああ、ストロングからチュートリアルの件を聞いたときから、まさかとは思ったけど…親父、あんたに全部押し付けたな」
白風は苦笑しながら、俺の肩を叩いた。
白風「…というわけで、これで今日のチュートリアルは終わり!今日から、あんたは本格的な冒険者ってわけだ」
チュートリアルは終わったが、俺にはまだ白風に聞きたいことがあった。
「あのさ、白風…」
俺は白風に、風銀から貰ったアイテムを見せた。大量の通貨、紹介状、そしてツルハシ…と、いつの間にか増えてる素材たち。
「こんなに貰っちゃって、本当にいいの…?あの人に会っちゃった時点でチートみたいなもんだったし…」
白風「いいよ。親父は一度渡したものは絶対に返させないし。それに、これは親父からのあんたへの応援だよ」
白風はそう言って、少し小難しい顔をした。
白風「親父はね、このゲームが大好きで、全部やり尽くしちゃったんだ。だから、もう一度初心に戻って、新しい世界を見たいんだって。伝説級のプレイヤーが、またゼロから冒険を始めるなんて…なんか、親父らしいでしょ?」
白風はそう言って微笑んだ。
白風「よし!じゃあ、せっかくだし、このアイテムを使って次の依頼でも受けてみようか。ギルドの依頼掲示板を見てみよ!」
俺たちは依頼掲示板の前へと移動した。掲示板には、様々な難易度と報酬の依頼が並んでいる。
白風「最初は簡単な依頼からね。ダートランクの依頼には、「ダート」ってマークが付いてるから、それを探してみて」
俺は掲示板を見渡し、白風の言う通り「ダート」のマークが付いた依頼を探した。
【ダートランク依頼:鉄鉱石の採掘】【※初心者優先依頼】
【依頼内容:街の北にある「鉱山の洞窟」で、鉄鉱石を10個採掘してきてください。】
【報酬:銅貨10枚】
白風「これなら大丈夫でしょ。鉱山の洞窟は、モンスターも少ないし、何より、採掘には熟練度が必要だから、初心者を襲うプレイヤーもあまり来ない場所なんだ」
俺はツルハシを握り締め、白風に頷いた。
「よし、行こう!」
白風「その前に!」
「?」
依頼に行く前にギルドの裏手にある広場で、俺は白風に基本の戦闘を教えてもらった。
白風「このゲームの戦闘は、相手の動きをよく見て、攻撃のタイミングを見極めることが大事だよ」
白風はそう言いながら、俺に木製の剣を渡してくれた。
白風「ほら、私に向かってきて。私がどうやって攻撃を避けるか、よく見ててね」
俺は白風に向かって剣を振るう。しかし、彼女は身をひらりとかわし、俺の攻撃は虚しく空を切る。彼女の動きは無駄がなく、まるで舞を踊っているかのようだった。
「…すごいな、白風」
白風「まだまだ。これは基本中の基本だよ」
白風はそう言って微笑んだ。彼女の父親が伝説級のプレイヤーだというのも頷ける。やはり、このゲームには規格外な人間しかいないのだろうか。
「でも、俺にはこのツルハシがあるしな…」
俺はそう言って、ツルハシを構える。先端が爆発する、あのツルハシを。
白風「…オーゼス、それは最終手段にして。あれは、あんたの体にも負担がかかるはずだから」
「え?そうなのか?」
白風は真剣な表情で俺に忠告した。
白風「うん。ああいう規格外のアイテムは、使用者にも何かしらのペナルティがあることが多いんだ。特に、あのツルハシは「神々の戦」時代のアイテム。今のプレイヤーが扱うには、例え中級のプレイヤーでもリスクが大きすぎる」
「むぅ…」
俺はツルハシをバックパックにしまい、代わりに白風から借りた剣を腰にぶら下げた。
「よし!じゃあ、鉱山の洞窟へ行こう!」
白風は元気な声でそう言うと、街の北にある森へと歩き出した。
森の中をしばらく歩くと、巨大な岩山が見えてきた。その麓には、ぽっかりと口を開けた洞窟がある。
白風「ここが鉱山の洞窟だよ。ここはワールドの中心近くだから、中には、ゴブリンとかコボルドとか、弱いモンスターしかいないから、安心して」
洞窟の中はひんやりとしていて、薄暗い。俺たちは松明に火をつけ、慎重に進んでいく。
白風「…あ、見て!これが鉄鉱石、結構わかりやすいでしょ。」
白風が指差した先には、壁に埋まった鉄鉱石が光っていた。俺はツルハシを取り出し、通常の先端で鉄鉱石を掘り始めた。
「…すごい。本当に効率がいいな」
ツルハシは次々に鉄鉱石を掘り出していく。あっという間に10個の鉄鉱石を採掘し終えた。
白風「よし!これで依頼完了だね!」
俺たちは洞窟を出ようとした、その時だった。
白風「…誰かいる」
白風が、警戒するように弓を構えた。洞窟の奥から、複数の足音が聞こえてくる。
「モンスターかな?」
白風は首を横に振った。
白風「違う。これは…プレイヤーの足音。しかも、複数…」
洞窟の奥から現れたのは、3人のプレイヤーだった。全員がボロボロの装備を身につけており、その顔にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。
リーダー「へぇ、こんなところに初心者君がいるじゃん。しかも、なんか見慣れないツルハシ持ってるし」
手下A「へっへっへ…ラッキー!初心者狩りも、たまにはいいことがあるもんだぜ」
白風は俺を庇うように前に出る。
白風「あなたたち、何が目的?」
リーダー「何って…決まってるだろ?お前らのアイテム、全部いただくぜ!特に、そのツルハシ…見るからに高そうだもんなぁ」
3人のプレイヤーは、それぞれ剣や斧を構え、俺たちに迫ってくる。
白風「オーゼス、逃げて!私が時間を稼ぐから!」
「いーや、俺も戦う!」
俺はそう言って、腰にぶら下げていた剣を抜き、ツルハシを構えた。
リーダー「へっ!たかが初心者ごときが、俺たちに勝てると思ってんのか?!」
リーダー格のプレイヤーが、俺に向かって突進してきた。俺は咄嗟に剣で防御しようとするが、その攻撃はあまりに速く、俺は吹き飛ばされてしまう。
「くそっ…!」
俺がよろめきながら立ち上がったその時、白風が矢を放った。しかし、3人のプレイヤーは軽々とそれをかわし、白風に襲い掛かる。
「白風!」
俺は必死に叫んだ。彼女がやられてしまう。そう思った瞬間、俺の頭の中で、風銀から言われた言葉が蘇ってきた。
『こっちの先端は主に戦闘向けだ、打つと爆発する、使用者に反動ダメージは無いが他の者にとってはこの上ない脅威になる』
俺は、ツルハシの戦闘向けの部分を、地面に向けて叩きつけた。
「うわあああああああ!」
ツルハシが爆発と共に閃光を放ち、轟音が洞窟に響き渡る。3人のプレイヤーは、その爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされていく。
手下A「な、なんだよ、これ…!」
手下B「ツルハシ…じゃねぇのかよ…!」
プレイヤーたちは、ボロボロの状態で地面に倒れ伏している。俺は呆然と、ツルハシを見つめていた。
「…すごい」
白風が、俺に駆け寄ってくる。
白風「大丈夫?オーゼス…って、まさか、あのツルハシを使ったの!?」
「うん、使っちゃった。でも反動無いし、思ったより軽く振れたわ。」
白風は信じられないものを見るかのように、俺とツルハシを交互に見つめていた。
白風「…あの親父、本ッ当にあんたに何渡したんだ…」
俺たちは倒れているプレイヤーたちからアイテムを回収し、洞窟を後にした。
ギルドに戻り、依頼を完了させると、俺は改めて白風に尋ねた。
「白風…このツルハシ、やっぱりすごいな」
白風「でしょ?…まぁ、あの親父が作ったものだから、当然なんだけどね」
白風はそう言って、微笑んだ。
「ありがとう、白風。色々と助けてくれて」
白風「どういたしまして。でも、そのツルハシがあるとはいえ、あんたも本格的な冒険者としてモンスターと戦う練習をした方がいいかもね。今度の依頼は、「戦闘」と「狩猟」のチュートリアルにしよっか」
白風はそう言って、俺の背中をポンと叩いた。
白風「あ、そうだ。ストロング君から、またメールが来てるよ」
白風が俺の端末を見せてくる。そこには、ストロングからのメールが表示されていた。
メール(ストロング「チュートリアルありがとな!白風にちゃんと挨拶したか?あいつ、昔っから人見知りでさぁ。まぁ、無事に終わってよかった!今度、また一緒に冒険しようぜ!」)
俺は思わず苦笑いを浮かべた。あんな変な父親を持ちつつ、ここまで親切に指導してくれた白風が、人見知り…?
白風「あいつ、本当に何言ってんだ」
白風も呆れたように呟く。
「よし、じゃあ次は白風に戦闘を教えてもらうか」
白風「うん!任せて。私も何か受けてこようかなぁ、うーん今足りない物とかって…」
白風はそう言って、ギルドの奥へと消えていった。
俺は、一人になったギルドで、改めて依頼掲示板を眺めて、次の依頼を探し始めるのだった。
「なんか妖しいのあるな…」
白風「ん?どれ?」
【ダートランク依頼:合同訓練】【※初心者優先依頼】
【依頼内容:初心者同士で合同訓練をしています。是非参加し、互いに強くなりましょう!】
【報酬:銀貨1枚】
「…」
白風「…」




