ep.3 好奇心と闘争心
世界観解説「探窟隊と探窟家」編(長くなるので飛ばしてもいいと思いまっせ)
このゲームでは複数人でチームを組む言わば「クラン」の様なものがあり、探窟隊と呼ばれている。
今現在で作られている探窟隊はゆうに1000を超えているが、どれも総勢20名程度の規模である。
中には総勢100名を超える探窟隊もあるが、そのほとんどが「プラチナ」「ダイヤ」ランクの著名な探窟家が隊長をしている。
極稀にさらに大規模な探窟隊が見つかるが、それらはほとんどが探窟隊同士で結託された共同戦線「合同大探窟隊」と呼ばれるもの。
さらにさらに稀なのが、世界に8つしかなく、最上位ランクの探窟家が率いる探窟隊で、構成人数は大小それぞれバラバラ。しかしどれもゲームバランスに影響を与える可能性があるレベルで強い。
代表的な著名探窟家として挙げられるのは
「錬金術師」PN:ドラドマン
「ニュークリアスの火柱」PN:ソコロフ
「黒キ彗星」PN:マヴロス
「無名英雄」PN:NO NAME
いずれも最高ランク「ブラックダイヤモンド」のプレイヤーで、通称「黒腕」と呼ばれている。
ギルドの活気から一転、俺は再び白風と共に街の北にある森へと向かっていた。ギルドで受けた依頼は、【ダート依頼:森ネズミの討伐】。報酬はわずかながら、初心者向けの戦闘チュートリアルとして最適だという白風の助言に従った。
街を出て、北門をくぐると、すぐに木々が生い茂る森が広がっていた。街の賑やかさとは打って変わって、風が葉を揺らす音だけが静かに響いている。
白風「森ネズミは、この辺りだと一番弱いモンスターだけど、油断は禁物だよ。群れで襲いかかってくることもあるから」
「へぇ…白風って、本当に何でも知ってるんだな。やっぱ結構やりこんでるんじゃない?」
白風「ふふ、まあね。でも、これは全部親父からの受け売りだけどね」
そう言って笑う彼女の横顔は、どこか嬉しそうだった。
森の奥へと進むにつれて、木々の間から差し込む光が弱くなり、足元の草は次第に湿っていく。鳥の声は聞こえず、代わりに不気味な獣の鳴き声が遠くから響いてきた。
白風「来た…!」
白風が警戒の声を上げる。草むらがざわめき、その中から小動物が姿を現した。それは、ネズミの姿をしていたが、その体は普通のネズミの何倍もあり、目は血走っていた。…全く似てないのにチンチラ思い出した。
「あれが森ネズミ?」
白風「うん。最初は一匹ずつ相手にしよう。焦らず、私の指示に合わせてね」
白風は弓を構え、俺に合図を送る。俺は白風から借りた剣を握りしめ、森ネズミにゆっくりと近づいた。
森ネズミはこちらの存在に気づくと、キーキーと甲高い声で威嚇してきた。その姿は、可愛らしいネズミとは程遠い、凶暴な獣そのものだった。
白風「今だよ!攻撃!」
白風の指示に従い、俺は剣を振りかぶる。森ネズミは素早い動きで俺の攻撃をかわすと、俺の足元に噛み付こうとしてきた。
「くっ…!」
俺は咄嗟に飛び退き、攻撃を回避した。しかし、森ネズミの牙は鋭く、俺の足にわずかな傷をつけた。ゲーム内のダメージとはいえ、ヒリヒリとした痛みがリアルに伝わってくる。まぁ、そもそもこのゲームでは本当に痛いのだが。
白風「落ち着いて!敵の動きをよく見て!森ネズミは、攻撃する前に一瞬だけ動きが止まる。その隙を狙うんだよ!」
俺は再び森ネズミと向き合った。森ネズミが再び俺に襲いかかろうとした瞬間、その動きが一瞬だけ止まった。
「ここっ!」
俺は渾身の力で剣を振り下ろす。剣は森ネズミの体を捉え、討伐に成功した。森ネズミは光の粒子となって消滅し、その場にはわずかな経験値と、依頼に必要な「森ネズミの毛皮」が残されていた。
『経験値を獲得しました』
『「森ネズミの毛皮」を2個獲得しました』
「やった…!」
白風「よーし!おめでとう。初めての討伐は上出来だね」
その後も、俺と白風は二人で森ネズミの討伐を続けた。最初は動きに慣れず苦戦したが、次第に白風の助言が身につき、森ネズミの動きを予測して攻撃を繰り出せるようになっていった。剣の熟練度も少しずつ上がっていくのを感じた。
順調に狩りを進めていた矢先、ちょっとした出来事が起きた。
白風「ねぇ、オーゼス…ちょっとこっち来て」
白風が、少し離れた場所にある木を指差した。その木の根元には、大きな岩があり、その岩の隙間から、何かが光を放っているのが見えた。
「あれ、何だろう?」
俺が尋ねると、白風は少し声をひそめて言った。
白風「あれは、「隠された洞窟」だよ。このゲームには、稀にそういう場所が見つかることがあるんだ。運営も把握はしてるけど、普通のダンジョンとは違ってマップに表示されない。中には、珍しいアイテムやモンスターがいることが多いけど、難易度は少し高め。しかも、ほとんどが運営じゃなくてプレイヤーが作ったものだから、今はまだ近づかない方がいいかな。たまに鬼畜トラップあるし。」
白風の話に、俺は少し好奇心を刺激された。夜桜との一件を思い出す。あの盗賊も、何か珍しいアイテムを求めていたようだった。
「…じゃあ、やめておこうか」
白風「うん。それが賢明だよ。いつか、もっと強くなったら、ああいう場所にも挑戦してみようね」
俺たちは再び森ネズミの討伐を続けた。しかし、俺は先ほどの「隠された洞窟」の存在がずっと脳裏にちらついていた。
(運営も把握した上で放っておいているのか…なら、そこまで警戒しなくてもいいのかな?いやでも白風はやめとけって言ってたしなぁ…)
そうこうしているうちに、依頼に必要な数の森ネズミを討伐し終えた。
白風「よし!これだけあれば十分だね。ギルドに戻って、依頼を完了させよう!」
俺たちは再び街へと戻り、ギルドへと向かった。カウンターで討伐した森ネズミの毛皮を渡し、依頼を完了させる。報酬は、わずかなゲーム内通貨と、ダートランクの経験値だった。
「よし、これでランクアップ…ってわけにはいかないか」
俺は自分の冒険者カードを確認する。ダートランクの経験値バーは、少しだけ増えていたが、まだまだ先は長そうだ。
白風「ふふ、そんなに焦らないで。冒険者ランクは、地道に経験を積み重ねていくものだよ。それに、今日のチュートリアルは、これで終わりじゃないからね」
白風はそう言って、俺をギルドの奥へと案内した。そこには、多くのプレイヤーが、武器や防具を手に、熱心に練習に励んでいた。
白風「ここはギルドが運営してる訓練場。今日の最後の課題は、『スキル習得』。あんたも、そろそろ武器を使ったスキルを覚えるべきだよ」
白風は俺に、一冊の古びた本を差し出した。
白風「これは、親父が残していったスキルブック。初心者向けの剣スキルが書かれているから、これで練習してみて」
俺はスキルブックを受け取り、そのページを開いた。そこには、剣の構え方から、斬撃を繰り出す方法まで、詳細に記されていた。
(これも、風銀が残してくれたものなのか…)
俺はスキルブックを読み進めながら、風銀の周りの事を白風に聞くことにした。なぜ本人の事ではなく周りの事なのかというと、その方がより多くの情報を得られるだろうと思ったからだ。
白風「そうね…この世界で周りと言ったら探窟隊かな。風銀は「流星群」っていう探窟隊の副隊長だったんだけど、そこは世界でもトップレベルの探窟隊でね。なんてったって、そこの隊長が「黒腕」なんだよ?そんなとこの副隊長なんて、普通だったらどれだけ運が良くても出来ないよ。」
「へぇ…白風もどっかの探窟隊に所属してるの?」
白風「うーん、ホントだったら私も「流星群」に所属できるんだけどさ、親父が話通してあるらしいし。でも中々「流星群」の人見つかんないんだよねぇ…あの人達みーんな高難易度の深い層まで潜っちゃうんだもん。」
「深い層?って何?」
白風「この世界の主なダンジョン構成は知ってるでしょ?「大平原」と「大山脈」と「巨大樹海」、そして「大洞窟」。「大洞窟」が私達「探窟家」にとってのメインコンテンツなんだけど、あそこは穴が下にまっすぐ伸びてて、難易度によって層が分かれてるんだよ。下の深い層に行けば行くほどアイテムとモンスターの等級が上がるの。」
「俺はいつ頃そこに行けるの?」
白風「少なくともその本のスキルを3つは習得してからね。ほら、そろそろ十分見たでしょ?早く行こ。」
俺は白風に言われるまま、その練習場へと足を踏み入れた。すでに何人ものプレイヤーが、真剣な表情で木製のダミー人形と向き合っている。誰もが自分のスキルを磨こうと必死なのだろう。その熱気に、俺の胸も高鳴ってきた。
スキルブックのページをめくりながら、書かれている内容を頭に叩き込む。最初に挑戦するのは、「スラッシュ」という基礎的な剣スキルだ。シンプルな一撃だが、通常攻撃に比べて少しはダメージも高く、間合いで無くても斬撃を飛ばせるらしい。
「剣を斜めに構え、腰の回転を意識して…」
白風が隣で的確なアドバイスをくれる。俺は彼女の言葉に従い、ダミー人形に向かって剣を振り下ろした。しかし、剣は空を切り、ダミー人形に当たることはなかった。
「タイミングが違う。もっと早く…いや、もっと遅く…」
何度試しても、なかなかスキルは発動しない。焦りが募り、汗が額から流れ落ちる。ゲームとはいえ、こんなに難しいものなのか。
「ふふ、大丈夫。最初はみんなそうだから。焦らないで、オーゼス」
白風はそう言って、俺の背中をポンと叩いた。その温かい手に、俺は少し落ち着きを取り戻した。
「コツはね、イメージすることだよ。どんな風に剣を振るか、どう敵に当てるか、頭の中で完璧な一撃を想像するんだ」
俺は白風の言葉を信じ、目を閉じて剣を振る自分の姿を想像した。森ネズミと戦ったときの感覚、剣を振る瞬間の身体の動き…。それらが鮮明に蘇ってきた。
そして、再び目を開け、ダミー人形に向かって剣を振り下ろす。すると、剣先から青白い光が放たれ、ダミー人形に鋭い一撃が叩き込まれた。
『スキル「スラッシュ」を習得しました!』
システムメッセージが頭の中に響き渡り、俺は思わずガッツポーズをした。
「やった!白風、やったよ!」
俺が興奮気味に白風に話しかけると、彼女は満面の笑みで俺の成功を喜んでくれた。
「すごい!たった数十分でスキルを習得するなんて、やっぱオーゼスには才能があるのかもね。」
白風の褒め言葉に、俺は少し照れてしまった。その言葉が素直に嬉しかったのだ。
こうして、初めての依頼とチュートリアルは終わった。ギルドを出ると、もう夕暮れ時になっていた。西の空には、オレンジ色の光が広がっている。
「今日はもう遅いし、そろそろ解散しようか。明日から、また一緒に依頼を受けようね」
白風はそう言って、俺に微笑んだ。
「もちろん!今日は本当にありがとうな、白風。お前のおかげで、ようやくまともにゲームプレイ出来るようになれたよ。」
俺が感謝の気持ちを伝えると、白風は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「どういたしまして。でも、まだ一人で戦うのは危険だから、絶対に無茶はしないでね」
そう言い残して、彼女は俺に手を振って、来た道を戻っていった。俺は彼女の背中が見えなくなるまで、ずっとその場に立ち尽くしていた。
「…無茶か」
俺は空を見上げ、一人つぶやいた。彼女が心配してくれるのは嬉しい。でも、俺は知っている。この世界で生き抜くためには、時に無茶をすることも必要だと。
そして、俺の頭の中には、先ほど見た「隠された洞窟」のことが再び浮かび上がっていた。白風は危険だと言っていたが、もしかしたら、あそこには俺の力を大きく伸ばすチャンスが眠っているのかもしれない。
「…まぁ、無茶してでも挑戦してみてぇのがゲーマーだよなァ…」
俺はそう決意し、再び北の森へと向かって歩き出した。夕暮れの光に照らされた森の入り口が、俺を誘うように静かに佇んでいた。
夜桜「ちなみに、ずっとついてってますわ!」
変な色の薬草「(俺もだゾ!)」




