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恋と占いは片想い  作者: 椋木美都
13/21

 第十二話『勉強仲間』

「話し戻すけど」


「うん」


「お前は・・・」


「?」


「俺のこと、頭いいって言わないんだな」


彼の神妙な面持ちは、これが真面目な話だということを物語っていた。


「んん・・・何でそんなこと聞くの?」


図らずもお返ししてしまった。空井君は真顔のまま続ける。


「この制服着てるだけで寄って来る女、結構いんだよ」


「えーあーそうだね。頭良いに越したことはないし・・・富潟中なんて秀才の象徴みたいなものだから」


県内一位の偏差値を誇る富潟中央高校の制服は、その人の学力が高いことを示す身分証の役割を担っている。ここ富潟県に住む『将来結婚する人』の知能指数が非常に高いと表示されていた場合、私達高校生の誰もが富潟中の生徒に焦点を置くはずだ。


「政川はどうなんだ」


「私も・・・勉強は大事だと思う。将来絶対役立つし。庄本君は富潟中の学生になりたいから受験したらしいけど、この制服は・・・着てて誇らしさを感じる人もいれば、見た目だけで判断する人が寄って来るとか、色んな要因がくっついて煩わしいって思う人もいるよね」


「俺は完全に後者だな」


空井君はシャツの胸ポケットに縫い留められた校章をつまむ。


――きっと、体育祭で疲れた以外のことが起こったんだ。今すぐ全部を聞くことは難しいかもしれない。だから・・・。


私は意を決して彼の目を見る。


「――良かったら、一緒にテスト勉強しない?」


これは私が初めて『占い』に頼らず、誰かを誘った瞬間だった。


最良かどうか考えるより、本能的に、彼と一緒に過ごしたいと思った。


――どーせトントン拍子で上手いこと仲良くなってるけど、『sou』頼りでほぼノープランなんでしょ。


私は風蘭ちゃんの言葉を思い出す。


――これは私の恋だ。私が動かなくてどうする。


「・・・」


空井君は私の意図を読もうとしているのか無言だ。


「嫌なことがあっても、別のことに没頭すればそのこと考えなくて済むじゃん。丁度もうすぐテスト習慣だし!ほんとは私、誰かと一緒に勉強した方が捗る派なんだけど、友達は1人の方が良い派らしくて」


「ダチとする勉強会は実質遊びみたいなもんだけどな」


「んん」


「けど政川となら、ちゃんと勉強会になるかもな。友達じゃねーし」


「ぇ」


頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。あのな、と空井君は半ば呆れた口ぶりで話す。


「男女に友情なんてあるわけねーだろ。知人・・・いや、勉強仲間として、よろしく頼むわ」


青ざめていた顔が徐々に赤みを帯びていく。


「な、なんだ、そういうことか・・・うん!こちらこそよろしく!がんばろ!」


――よ、よかったああああああ!嫌われてるわけじゃなかったああああああ!


心の底からホッとしていると、空井君は屋外時計を見やる。


「もう行かなくていいのか」


「え?」


――何の話だろう。


「塾だろ?何で俺が覚えてんだ」


空井君に指摘されてようやく、塾の存在を思い出した。


「そだ!行かなきゃ!」


私は慌ててリュックをしょって立ち上がる。空井君!と呼ぶと、駅に戻ろうとしていた彼は緩慢な動作で振り向いた。


「今日も一日、お疲れ様!またね!」


私は、精一杯の気持ちを込めて手を振った。





あれから数日後、私は塾のない火、木、金曜日の放課後を空井君との勉強時間に充てていた。部活はテスト期間なので休み。って言っても週一しかないゆる部活だけど。


私は富潟駅前にあるスーパーへ向かう。今日の会場はスーパーにある休憩スペースだ。空井君は『sou』に勉強場所を指定されることが気に食わなそうだったけど・・・説得の甲斐あって、ちゃんと毎回変わる待ち合わせ場所に来てくれる。


「久しぶり!真中祭以来じゃね?」


肩を叩かれ、振り向くと空井君の友達?の細倉君がいた。


「び、びっくりした・・・久しぶり」


「ゴメン急に!やー偶然政川さんっぽい子見かけて、髪降ろしてるけどこれ本人じゃね?って勢いで追いかけた!」


そうなんだ。と言いかけて私の視線の先――細倉君の後から、4人の富潟中生がこちらにやってくるのが見える。


私が軽く会釈をすると、彼も後ろの人たちに気づいたようで「なぁ!この子が直治が連れてきた子!多分彼女!」と割と大きな声で言い放った。


「か・・・」息が詰まる。


「声でけーよ」「マジ?」「嘘じゃなかったのか」「他校生捕まえるとかアイツやるなー」


――って、フリーズしてる場合じゃない。訂正しなきゃ!


「あの、私空井君のきゃ、彼女じゃないんです」


「え?でも政川さん直治のこと好きでしょ」


「すっ!」再度息が詰まる。


――こんな人が多いところでなんてこと言うんだ!


「顔真っ赤じゃん」


「あんまからかってやんな」


「あ・・・っす、好きかどうかは置いといて、私と空井君は友・・・じゃなくて、勉強仲間なんです」


少し強めの口調で言うも、5人は悪辣な笑みを崩さない。


「そっかそっか、俺の勘違いかー。直治が正影さん以外の女子とまともに話してんの見たことなかったからさ」


「あいついつも独りじゃね」


「正影も健気だよなー」


――そうなんだ。


ちょっとだけ嬉しいと思う自分がいる。


「・・・で、いつから空井のこと好きなの?」


話が元に戻ってしまった。


――って、この人確か昼休憩の時空井君を置いて行っちゃった人じゃ・・・。名前知らないけど、この人には言いたくないな。


んんと唸るも、誤魔化せそうにない。私が『sou』を見ようとスマホに手を伸ばしたその時。


「風蘭ちゃん」


「え」


「やっと見つけた・・・!良かった無事で」


風蘭ちゃんが腕を後ろに組んでいるのを見て、体に緊張が走る。風蘭ちゃんは苛ついている時と、怒っている時、必ずこのポーズをとるから。


それを知らない5人は、三者三様ならぬ五者五様の反応をし、極めつけは細倉君の「てかこのメンバーでMCWAY(マクウェイ)行かね?」発言が風蘭ちゃんの外面スマイルの笑みを深めさせた。


「ごめんね。今日はこの子が私に相談したいことがあるみたいで。ハンバーガーはまた今度、私1人でよければだけど」


「いや、んなことしたら俺ら庄本に殺――」


風蘭ちゃんは相手が言い切る前に、私の手を引いて歩き出した。




「風蘭ちゃんありがとう」


「・・・」


ぱっと掴まれていた手が離れた。そのまま地下の改札口に繋がる階段を降りようとしていたので、慌てて真中祭の時からずっと我慢していたことを打ち明ける。


「その格好とキャラ、最初見た時はビックリしたけど、そっちの風蘭ちゃんも可愛いね」


「チッ!」


風蘭ちゃんは立ち止まり、大きく舌打ちした。


「ごごごごめん!嫌味で言ったんじゃなくて!ほんとにギャップ萌えっていうか、私はどっちの風蘭ちゃんも好きで!」


「はーーー。もういい」


「んん・・・た、助けてくれてありがとう。またね」


「・・・何で?帰んないの」


私がこのまま別れようとしたのが風蘭ちゃんにとって予想外だったのか、驚いた表情で振り返る。


「実は今日空井君と約束があって・・・」


「はぁ!?」




待ち合わせ場所に着くと、既に空井君が座っていた。テーブルの上には勉強道具と、後ろのカップ式自販機で購入したであろうコーヒーが置かれている。


「ごめん遅れて!」


「いや・・・それよりも政川、クソがくっついてる。早く流してこい」


「女子にクソとかサイッテー!このクソ野郎!」


「あ゛?」


「あ゛あ゛?」


「ふふふ風蘭ちゃん!そのコーヒーおこっか!空井君もシャーペン持つ手おかしいよ!」


――ここスーパーだし、ただえさえ富潟中生は目立つのに!


間に入って必死に仲裁する。私の顔を立ててくれたのか、2人は一旦矛を収めてくれた。


「帰れよ」


「『sou』に外で勉強するななんて言われてないし。アタシの勝手でしょ」


空井君が睨むも、風蘭ちゃんは別のテーブルから椅子を持ってくる。


「空井君、風蘭ちゃんは人の勉強邪魔する子じゃないよ。それに勉強は個人プレーだし」


「そーよそーよ」


「いるだけでウゼェんだけど」


「空気悪くしてんのはアンタでしょ?」


――休戦期間短すぎない!?


再び火花が散りだした。私は2人を引き合わせたことを後悔するも、時すでに遅し。今日の勉強会はお開きにしようと提案しかけようと手を挙げる。


「えと」「ならこうするのはどう?」


「ぁ・・・はい、どうぞ風蘭ちゃん」


「アタシと勝負して、直治が勝ったら退散してあげる」


腕を組んで不敵に笑うその姿は、これまで何度も見てきたそれだった。そして風蘭ちゃんがこの態度を向けた相手に負けたことは――私の知る限り、1度もない。


――風蘭ちゃん、自分が勝てる勝負しかしないからなぁ・・・。


シャー芯を詰め替えつつ、風蘭ちゃんに呆れた視線を向ける。


「内容は」


「設問を早く解いた方の勝ち。アタシが勝ったらそうね・・・質問に1個答えるっていうのはどう?」

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