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恋と占いは片想い  作者: 椋木美都
11/21

 第十話『保証範囲外』

「普通こういうのは庄本(彼氏)の役目だろ。変な誤解生みたくねーし」


「だからって・・・」


「お待たせ。うわ、顔ぐしょぐしょじゃん。こんなに泣いたの政本さんと――待て空井」


風蘭の彼氏、庄本ソウタは黙ってその場を去ろうとした直治を呼び止めた。しかし、直治は構わず歩き続ける。まるで庄本が言おうとしている言葉を察しているかのようだった。


「あまり勝手なことするなよ」


「違・・・!これはア、私が」


「分かってる]


――お前は俺が『怖い』んだもんな。


校内アナウンスが文化祭の終わりを知らせてくる。じきに後夜祭が始まるだろう。各々が体育館に向かう中、直治は参加しようか迷っていた。どうせ自分1人いなくなったところで誰も追及なんてしない。


――細倉あたりは『片付けまでが文化祭だろうが!』って目くじら立てるだろうが。


直治は溜息をつき、生徒の流れに乗ろうとして――ある女子生徒を視界に捉えた。その瞬間、踵を返して逆走した。そのまま自分の教室に着くと、緊張の糸が切れたのか、その場に蹲る。


「俺は・・・間違ってない。『占い』を信じなくても、何も問題ない。『占い』なんて必要ない」


無人の教室で彼の言葉に呼応するかのように『Chat』の通知音が鳴る。直治はスマホを見て、小さく笑う。深かった眉間のシワが少しだけ緩和していた。



20時39分


福本香音は明日提出の課題に取り組んでいた。普段は休憩を挟んでゆっくり埋めていくが、今日だけは違う。


――終わったらベビーカステラ。あともうちょっとでベビーカステラ。ベビーカステラ・・・。


苦手な古文を一気に終わらせ、プリントをクリアファイルにしまう。これで忘れたら笑い話じゃ済まない。ようやく紫水からもらったベビーカステラを食べようと袋を開けると、ノック無しで弟が入ってきた。


「香音電話」


「そのまま無言電話にして。あとノック」


「『無言電話』の発音で言ったのとノックしなかったのは謝らないけど、ここ置いとくから」


そう言って彼は扉に一番近い棚の上にスマホを置いた。


弟が出ていっても尚、スマホは鳴り続けている。ここまでしつこいのは恐らく、と相手が誰なのか推理しつつ電話に出る。


「もしもし香音」「おかけになった電話番号は現在使われておりません」「おい」「御用の方は私がベビーカステラを食べ終えるまでそのままお待ちください」


そのまま切ろうとスマホを耳から離すと「切んな!大事な話なんだよ!」と珍しく焦った声が聞こえた。


「…千?」


「ウチの気も知らないで呑気なもんだ」


「ふもふも」


「もう食いながらでいいから・・・いいか、この話は紫水に言うな」


「言うな?」


香音は千田沙穂の命令口調に苛立ちが湧く。


「言わない方がいいと思う。その判断は香音に任せる。あのな、昨日はぎゃ男・・・空井直治か。そいつを『タロット』で占った」


「『タロット』・・・」


『タロット』は氏名を登録すれば、対象者をある程度『占う』ことができる。家族や大切な人、ものについての『占い』を共有したいと考える人は『タロット』を契約している。どうやら沙穂は空井直治と政川紫水の相性を占ったらしい。


「表示されないんだ」


「・・・え?」


「入力しても、エラーが出てやり直せって出る」


「『タロット』の不具合とか?」


「香音と平の相性は問題なく占えた。念のためウチの親とかでもやったけど大丈夫だった」


平とは香音の彼氏の名である。勝手にテスト感覚で占われたことは一旦置いておくことにして、香音は続きを促した。


「紫水とウチ達でも、クラスにいる適当な男子入力しても普通に結果が出た。だけど」


秒針の音がやけに大きく聞こえる。香音は唾を飲み込んだ。


「だけどな、空井直治との『占い』は誰に当てはめても無理だった。占えなかったんだ」


香音は数秒の間、言葉の意味を理解することが出来なかった。


「それは・・・どうして?私『タロット』ユーザーじゃないからよく分からない」


「ウチの親に聞いたら、パッと思いつくのは3つあるって言ってた。1つ目は、『相手が故人もしくは存在しない』ケース。これは・・・紫水が空井直治なる空想の人物を作り出して、ウチらにさも実際の出来事かのように頬を染めて語っていたってことになるが」


「それはないって言いたい」


沙穂は自らがたてた解釈にドン引きしてしまう。紫水なら、現実と妄想がごっちゃになってついやってしまったと言われても納得してしまいそうだからだ。沙穂の中で紫水とはそういう人間だった。


「一先ず保留しておくとして、2つ目は『相手が偽名を使っている』ケース。実在する富潟中生だが、紫水のキモさにビビッて出鱈目な氏名を告げた・・・」


「有り得る・・・紫水の目には彼が相当イケメンに映ってたらしいし。まぁ彼にとっては言い寄ってくる他校の女子程度の印象だったら、咄嗟に嘘ついてやり過ごすっていうのも理解できる」


――なんて残念なの。周りのことをよく見てる紫水が、相手が迷惑そうにしてることに気づけないくらい、恋に盲目ってたのかな。


「最後は『占いの範疇外である』正直、ウチはこれが1番有力な説だと考えている。紫水は『sou』の指示に従わなかった先ではぎゃ男と出会ったんだろ。だから、『sou』にとっては紫水とはぎゃ男が知り合うことは、想定外の事態だった」


「ならこの先、2人は占えないの?はぎゃー君に会うと、『sou』は紫水を守れなくなるかもしれない・・・?」


香音は努めて静かに話す。ただ、『占い』で平穏が保証されたこの社会で、紫水に何らかの脅威が迫っていると確信していた。


「それはまだ何とも言えない。ケース1とケース2が正解かもしれないしな。ただ念のため今日も昨日と同じように占ったんだが、駄目だった。だから単純に『タロット』で『空井直治 の今日の運勢』を占った」


「うん」


「『結果が表示できません』って出るんだ。他の運勢でも同じ」


今スクショ送ったと言われたので、香音は沙穂の『Chat』を開く。写真が何枚か届いていた。言葉の通り、香音で占った画面と、直治で占った画面は同じ『占い』でも結果が全く違った。


「ケース1とケース2でも辻褄は合うから、そうであってほしいと思ってる。だがケース3の場合だと、はぎゃ男は普段『占い』の助言通りに行動していない可能性がある」


「そんな、そんなこと・・・あるわけない」


「紫水にとっては『将来結婚するかもしれない相手』だ。すぐにでも聞きたいけど、慎重にいったほうがいい」


だって、と沙穂が言おうとしたことを香音が引き継ぐ。


「その話をしてもいいのかは『sou』も『タロット』も教えてくれないかもしれないから・・・」


「恐らくな。悪いけど、それとなく紫水に聞いてくれ。こういう役割、香音の方が適任だろ。占わなくても分かる」


「買い被らないでよ。聞くの怖い」


――『占い』の範囲外で、何かが起ころうとしている。


通話を終えた後も、香音は残りのベビーカステラを食べれずにいた。『かんちゃん今日は本当にありがとう!』と満面の笑みで香音の好きなこしあん味を買ってきてくれた紫水の姿を思い出しては体に震えが走る。


――あの笑顔は嘘じゃない。だから、きっとはぎゃー君は偽名を・・・でも普通、嘘ついた相手をわざわざ自分の文化祭になんて誘わない。


香音は弟に早く風呂入れと急かされるまで、『sou』の画面をじっと見つめていた。


8時17分


千田沙穂は鞄を肩にかけ、音楽室を出る。今日の朝練や『あいマイ』について友達と談笑する傍らで、頭では全く別のことを考えていた。


――香音は、もう紫水に話したのか・・・いや、面倒くさがりなあいつのことだ。ワンチャン日寄って逃げてるかもしれない。


胸の中に黒い靄のようなものが溜まる。紫水からはぎゃ男の名前を聞いた時、再推しと同じ『空』がついているという理由だけで興味を持った。あの日の帰宅途中、興味本位で『タロット』にかけた自分をぶん殴りたい。


――殴れたとしても、殴られた側のウチは『しょーがないだろ!分かるかそんなん!』って逆ギレするだろうな。


通信環境が整っている自宅で再度試しても、再起動しても結果は同じだった。次の日の朝『結果が表示できません』の画面を眺めていると、父が2階から降りてきた。普段あまり会話することはないが、警察官である父なら冗談で流さず理路整然とした回答が期待できると考え、それとなく質問してみることにした。


――父さんの推理は、結構参考になったな。話はすげぇ長かったけど。


特に、『占い』を信じない人間についての話が印象深かった。『占い』はあくまで個人が最終的に幸せになるよう導くものであり、その過程で本人の意思にそぐわない選択を強いられることがたびたび起こる。そのため、政府はあくまで『占い』を信じることを『強制』するのではなく『推奨』している。

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