最終話 エピローグ(2)
ほどなくして、多摩川の河川敷にたどり着いた。
そこにはダンジョンから溢れ出してきたのであろう、百近い数のモンスターの群れ。
また、それをどうにか撃退しようと奮闘している、総勢三十人を超える探索者たちの姿があった。
しかし戦場はすでにかなり拡散しており、傷を負って逃げようとしている探索者を追いかけるモンスターの姿も見えた。
「風音、あっちを頼む!」
「了解!」
風音が飛行軌道を変えて、追われている探索者の援護に向かっていく。
一方で、俺と火垂を乗せたグリフは、主戦場となっている一帯へと向かった。
そこでは武具店のオヤジさんを中心に、十数人の探索者たちが、倍近い数のモンスターの群れと戦っていた。
モンスターは全体に粒揃いだが、その中でも明らかな強敵として目立つのは、二体の炎の巨人だ。
それらの巨大モンスターは大剣を振り回し、探索者たちを次々と薙ぎ払っていく。
ファイアジャイアントのほうも多少のダメージは負っているようだったが、致命傷というにはまだほど遠いように見えた。
「火垂!」
「任せろっす! 氷弱点のモンスターなら──射抜け、氷華の矢! フェンリルアロー!」
火垂が眼下に向けて、フェンリルボウによる一撃を放つ。
青白いエネルギーの矢が、大気を凍てつかせながら直進し、ファイアジャイアントのうちの一体に突き刺さった。
胸部に直撃した矢は、氷柱の華を咲かせ、砕け散る。
ファイアジャイアントは大きくよろめき、苦悶の咆哮をあげた。
「は……!? なんだ、いきなりHPが500以上減ったぞ!? 今の氷属性の攻撃は、誰が」
「見ろ、あれだ! グリフォンに乗った、あの二人」
【モンスター鑑定】持ちらしき探索者の驚きの声のあとに、別の探索者が俺たちを見上げ、こちらを指し示す。
一方で俺は、グリフが件のファイアジャイアントの頭上に来たところで、従魔から飛び降りた。
自由落下しながら、神槍を手にした右腕にスキルの力を宿らせる。
「【三連衝】!」
目標が眼前に迫ったところで、瞬速の三連撃を放った。
神槍が、巨人の肉体を連続して穿ち──
次の瞬間、ファイアジャイアントの巨体は黒い靄となって霧散し、魔石が地面へと落下した。
俺もまた地面に落下。
ガシャンと鎧の音を立てながら、問題なく着地する。
「なっ……!? あ、あっという間に……!? 相手はファイアジャイアントだぞ!?」
「ハハッ、たまらねぇな……。これが“絶対の守護神”六槍大地と、“氷炎の大魔導”弓月火垂か」
「見ろよ、向こうには“漆黒の女帝”も来てるぞ!」
「よっしゃ、これなら勝てる!」
「救世主様キタァアアアアッ!」
探索者たちが次々に驚きや歓喜の声をあげる。
またオヤジさんも、俺たちに気付いたようだ。
オヤジさんは大鎚を手に、単身でもう一体のファイアジャイアントと渡り合っていた。
さすがに荷が重かったようで、かなりのダメージを追っている様子だ。
「おうっ、三人とも来てくれたか!」
「ファイアジャイアントは俺たちが仕留めます。オヤジさんはほかの探索者の援護に回ってください」
俺はオヤジさんの元に駆け寄り、手をあげてバトンタッチの意を示す。
「そりゃあ助かる」
スキンヘッドの巨漢は俺の手を叩いて、ファイアジャイアントのもとから退いた。
それから周囲に向かって、声を張り上げる。
「聞いたなお前ら! わが国の最強探索者トップスリーのお出ましだ! こうなりゃ後は、雑魚の大掃除だ! やっちまえ!」
『おぉおおおおおおっ!』
それまでやや劣勢にも見えた探索者たちが、息を吹き返したように咆哮した。
その後は消化試合だった。
二体目のファイアジャイアントも俺と火垂で早々に倒し、残る有象無象のモンスターは勢いづいた探索者たちが次々と討ち倒していく。
河川敷にいた数多のモンスターは、ほどなくして殲滅された。
これでひとまずの事態は片付いたはずだ。
確認したところ、犠牲者も出ていなかった。
俺は安堵の息をつく。
役目を果たした風音も、俺たちと合流した。
と、そこに──どこに隠れていたものやら、テレビカメラを抱えたカメラマンを含む一団が、俺たちのもとに駆け寄ってきた。
げぇっ、テレビ局だ。
俺たちはそそくさと退散しようと思ったが、時すでに遅し。
「あの、日本最強トップスリーの限界突破探索者として名高い、六槍大地さん、小太刀風音さん、弓月火垂さんですよね? すごいご活躍でしたね。よろしければ少し、お話をお伺いしたいのですが──」
駆け寄ってきた女性リポーターに、マイクを向けられてしまった。
俺みたいなコミュ力不足の人間に、これキッツイんだよなぁ。
すると火垂が前に出て、テレビ局の人たちから俺をガードした。
「あー、ダメダメ、ダメっすよ。先輩は口下手だから、全国放送なんかで喋ったらSNSのいいオモチャになるっす。取材なら事務所を通してアポを取るっすよ」
「事務所……ですか?」
「防衛省のダンジョン探索局までどうぞっす」
いや、そんな話は防衛省に通っていないはずだが。
しかしこれは、火垂の出任せに乗っかるべきところだろう。
「あー、そういえば風音、夕食の準備の途中じゃなかったか?」
「あ、そ、そうだね。大地くんもお風呂に入るところだったよね」
「そうっすよ。先輩はうちと一緒にお風呂に、むぐぐっ」
「そ、それじゃ、俺たちはこれで帰るので。失礼します」
来たときと同じように、俺と火垂がグリフにまたがり、風音は自前の魔法で飛んで帰還する。
背後からはテレビ局の人の呼び止める声が聞こえてくるが、鋼の意志で無視をする。
だが同時に、オヤジさんの声も聞こえてきた。
そっちは話が別だ。
「三人とも、助かったぜ。せっかくだからゆっくり話もしたいが、また今度な」
「はい。オヤジさんも無理はしないでください。お疲れ様です」
「お、なんだ。もう俺を年寄り扱いか?」
「ち、違いますよ。それじゃ、また今度」
「おう」
それから家に向かって、空の散歩だ。
外野の声も届かないところまで来て、ホッとひと安心。
「はーっ。いっそモンスターより、テレビ局のほうが強敵だよね」
「それな。ていうか火垂、お前あのとき何言おうとしてたんだ?」
「くっくっく……。先輩がうちとふしだらな関係であることを、あわよくば全国ネットで流して既成事実を作るっすよ」
「むしろお前が積極的に俺を炎上させようとしてんじゃねぇか」
「火垂ちゃーん。家に帰ったら、ちょっとお話しようか?」
「ひぃっ……! ち、ち、違うっす! 風音さんを蔑ろにしようとか、そういうわけじゃ……!」
そんな話をしながら、マイホームへと帰還していく。
さてはて、これからどうなることやら。
異世界で100日間の冒険を終えて、現代日本に帰ってきた俺たちだが、こっちはこっちでまた大変なことが起こりつつあったわけで。
まあ、なるようになるだろう。
ならなかったら、ならなかったで、今から騒いでどうこうなるものでもないしな。
やがて我が家の前に到着すると、【テイム】を使ってグリフを小型化させる。
そして三人と一体で、家の門をくぐった。
「「「ただいまー」」」
「クピーッ」
さて、今夜の夕飯は何かな。
俺は二人と一体の相棒とともに、幸せな小市民として、今日も団欒のひと時を過ごすのだった。
[朝起きたら探索者になっていたのでダンジョンに潜ってみる 完]




