第0話 女神様
俺は死んだ。
電車の脱線事故により、事故死だ。
仕事帰りに乗った電車で、運転手が居眠りをしたらしく、何やかんやミスって脱線したらしい。
ちなみにこの事実は、俺がこっちの世界に戻った時に聞いた話だ。
家族もすっかり優しくなっている。
まあ俺がイエス=キリストみたいなところあるしね。
「目を、開けてください」
おおらかで優しい女性の声で、俺はそっと目を開けた。
どこだここ?
あたり一面真っ白で、上も下も分からないような空間だ。
俺は…浮いている?SFかな?
「あなたは半沢健人。間違いありませんね?」
「え?…ま、間違いありませんけど」
なんだ?俺は何と会話をしているのだろうか。
この女性は俺の名前を知っているようだが、どういう状況なんだろうか。
とりあえずだれか説明をしてくれ!
「私は女神Aです」
女神……A?
ん?メガミエー?
ずいぶん村人チックな名前だ。
「え?それが本名ですか?」
「はい、妹は村人Bです」
「村人!?」
「間違えました、女神Bです」
おいおいおいおい…。
妹の名前を間違えるなんて…間違え方もなんか独特だし。
「ほかに…ちゃんとした名前はないんですか?アテネとかアフロディーテ的な…」
「ちゃんとした名前など付ける必要はございません。我々姉妹の心は常に通っているのですから」
「あ、そう」
なんか、何と話しているのか分からなくなってきた。
女神というからには女神なんだろうけど、それ以前にこれは夢か現実か。
それを知りたい。感覚は現実っぽい。
「これは…夢なのか?」
「夢ではありません。あなたは、電車の脱線事故によって死亡しました」
「だ、脱線事故!?」
「はい。私はあなたを甦らせたいと考えています」
「ぜ、ぜひお願いします!」
よく分からないが、死んだのなら是非とも生き返りたい。
まだ早すぎるだろ…25歳だぜ?
「ですが、元の世界には返せません」
「え?なんで?」
「返す手立てがないんです」
「ん?どういうこと?」
俺がそう尋ねると、女神Aの声はピタリと止まった。
異変を感じ、再び尋ねようとした時、突然目の前に光が集まり、巨大な女へと姿を変えた。
いかにも…神って感じだ。
「驚きましたか?私は女神Aです」
「お、おう」
「あなたをもとの世界に返すことは、私に与えられた使命です」
「使命?」
「はい。死した者の魂を受け取り、この空間へ呼び込みます。そしてまあ、色々と話をした後で、元の世界に生き返らせるのです」
このとき、俺の頭の中で、とある報道がよみがえった。
それは、現代社会じゃ考えられないような報道内容だった。
内容は、死んだ人間が復活する、というもの。
始まりは確か1か月前。
フランスで事故死した少年が、死亡確認された4日後に息を吹き返したのだ。
第2のキリストとまで、彼は言われるようになった。
しかしその1週間後、世界各地で立て続けに人間が蘇生する事態が起きたのだ。
もちろん日本でも、確か20人以上の蘇生が確認された。
夢のような出来事に、世界中が湧いていた。
「お前のせいか」
「そんな言い方しないでください。私のしていることは、良いことですよ」
「まあ、そうだが。だったら俺も…」
「それが、本当に申し訳ないのだけれど…」
女神Aは突然俯いた。
なんだ?モジモジしやがって…小便でも我慢しているのか?
「その、妹と喧嘩して、元の世界に蘇生できなくなっちゃったの」
「は…?」
妹って、女神Bだろ?
「なんでだよ!お前ら、心は通ってるんじゃなかったのかよ!名前なんていらないほど、通ってるんじゃなかったのか!?」
「それとこれとは、話がその…べ、別じゃないですか」
別ゥ?
別なわけあるか…!
「だいたい、なんで喧嘩したくらいで蘇生できなくなるんだよ」
「蘇生には妹の力が必要なのです。私の力だけでは、元の世界に戻すことはできません」
「まーじーかーよー」
俺も激動の蘇生ラッシュの波に乗れると思っていたのだが…がっかりだ。
まあ死んだ分際で文句も言えないか……って言っても、脱線事故だから俺は悪くないよな。
「妹はどこいんの?」
「喧嘩して…いじけて…世界Cにいます」
「…は?」
「あなたは知らないかもしれませんが、世界というのはたくさんあります。健人さんの住んでいた世界は、世界Bです。宇宙なんかが有名ですね」
なんだなんだ、なんだか急に規模が大きくなってきたぞ?
宇宙なんかが有名ですね……?なんだその奇天烈な一言は。
「と、とにかく。あんたが世界Cに行って妹を連れ戻せよ!」
「無理です!妹がいなくなってかなり時間が経って…私が使命を果たせない時間も伸びました。そしたら私、使命果たさない罰としてこの空間に閉じ込められてしまいました!」
なんだとォォォ!
何言ってるのか全然分かんないけど、とりあえず女神Bとかいう妹女神がクソなんだな。
それは分かった。
こんなはずじゃなかった。
俺は電車に乗って家に帰って、ガチャを引くつもりだったんだ。
大人気アプリ”モラハラファンタジア”の限定ガチャ…無料で一回引けたのに…。
2か月も前から楽しみにしてたのになぁ…。
こんなのありかよ、俺が何をしたってんだ。
こうなったら―――――――
「よし分かった。俺がそのクソ女神Bを連れ戻そう」
「え…?」
「元の世界…だから要は世界Bに蘇生は出来なくても、世界Cに転生することは出来るか?」
「やったことないからわからないです」
「ったく…蘇生と転生は別物だから、出来るかもしれない」
「や、やってみましょう…!」
とんだ一大事だ。
女神のくせにこんなことも思いつかないとは…。
「あ、それと。やるなら思いっきり俺にサービスつけて転生してくれ。チート能力って奴だ」
「女神の御加護って奴ですね?」
「そう、それ」
「わっかりましたァー!」
なんでお前がテンション上がってんだよ…とは突っ込まないでおこう。
とりあえず交渉成立。
その後、女神は何やら呪文を唱えはじめ、ルーティーンをした。
「で、では。行きますよ…?」
「頼む」
その後、俺の体は光の粒となって消え、俺はその後、程なくして世界Cに転生された。
だが、俺はそこで、あの女神姉妹がアホであったことを再認識させられることとなる。




