第7話
基本、水曜日、土曜日に更新しようと思います。
ついに森に行く日が来た。
時刻は朝の7時半、お父さん、
お母さん、マリアお姉ちゃん、そして
エリザさんに見送られて家を出た。
お昼ご飯用にマリアお姉ちゃんが
サンドイッチを作ってくれた。
マリアお姉ちゃんが作るサンドイッチは
絶品で、我が家で中毒者が続出している。
特にお母さんが重症で、毎日食べないと
禁断症状を訴えるまでになった。
うちの最高権力者の胃袋をガッツリ掴んでいる。
マリアお姉ちゃんはそんなことをする
性格ではないが、やろうと思えば
サンドイッチだけで我が家を乗っ取れる。
マリアお姉ちゃん恐るべし。
村の門を出て、いざ、西の森へ。
今回、アルマのお父さんに
回復薬の材料となる薬草の
収集を頼まれている。
この回復薬、なかなかの優れもので
飲むとあら不思議、傷口がみるみる塞がる。
傷だけでなく数日服用することで
風邪などの病気も治すことができる。
効果が強い順に緑色、青色、赤色、黄色
となっている。
一番強力な緑回復薬は作れる人が少ないが
腕が切断されても切られた腕があれば
つなぐことができる。
どんな病も1回飲むだけで回復する。
というすごい効果がある。
僕が「森に行くから回復薬が欲しい」
とアルマのお父さんに言ったら
「森は危ないからこれ持って行って」
と緑回復薬を5本くれた。
「こんなすごいもの貰えない」と
返そうとしたが、にっこり笑って
「たくさんあるから大丈夫」
と言われたので、ありがたく頂いた。
緑回復薬を気軽に5本もくれる
アルマのお父さんっていったい何者?
子供の足でのんびりと、
途中で薬草を採取しながら歩く。
森の入り口に到着したのは
家を出てから30分ほど経った頃だった。
頼まれた薬草のうち1つは
この森の浅いところに自生している。
森にはゴブリンやスライムなどの
弱い魔物が生息している。
お父さんから剣をもらったので
もし魔物が出ても戦うことができる。
しかし、いくら弱いといっても
相手は魔物なので油断は禁物である。
森に入り10分ほど歩くと
目的の薬草を発見した。
たくさん生えている葉っぱから
数枚摘んで持ってきた麻袋に入れる。
全部取らないのは次に取りに来た時に
なくならないようにするためだ。
僕は森の奥へと進んでいく。
小川に沿って歩いているので
迷子になる心配はない。
薬草を袋に入れつつ森の奥へと進む。
森の木々の間から漏れる日の光が
ポカポカと心地よい。
そういえば、森に入ってから
魔物はおろか動物1匹見かけない。
うーん、たまたま見かけないだけかなぁ?
結構な時間を歩いたのでそれなりに
森の奥に来た。上を見ると
太陽の位置の位置を見るとちょうど
お昼の時間になった頃だった。
近くにあった倒木に腰掛け
マリアお姉ちゃん特性サンドイッチの
入った籠を開ける。
中には野菜と肉を挟んだものと
卵サンドの2種類が入っていた。
先に卵サンドから手をつける。
僕は好きなものは最後に食べる派だ。
口の中に広がる卵と絶妙な加減で
加えられた胡椒の味が広がる。
ああ、手が止まらない。
次に野菜と肉が挟まれたものを食べる。
かじりついた瞬間肉からあふれ出る肉汁
少し甘めのソースが肉によく合う。
気がついたら籠の中は空っぽになっていた。
はあ、おいしかった。幸せ〜。
マリアお姉ちゃん、ありがとう。
とってもおいしかったです。
ふと、少し気になる気配を感じた。
ここから少し離れているけど
気になるので行ってみようと思う。
横に置いておいた荷物を再び背負い
小川から離れる。
15分ほど進むと開けた場所に出た。
「おおー!」
そこは、花畑だった。
あたり一面に色とりどりの花が
咲き乱れていた。
おとぎ話に出てきそうな感じだ。
「おおお!?」
目の前の景色に感動して
あたり一面をぐるりと見回したところで
そいつと目があった。
普通ならこんな場所に絶対いない生物と
しっかりと目があってしまった。
「な、なんで、こんなところにドラゴンが?」
太陽の光を反射して白銀に輝く1匹の美しい
ドラゴンが寝そべった姿勢のまま首だけ
持ち上げてこちらを見つめていた。
よくよく見ると少し様子が変だ。
あ、血が出てる。
「ドラゴンさん、けがしてるの?」
回復薬片手に近づく。
グルルルルと低い声で威嚇される。
「け、けがを治すために
回復薬かけるだけだよ」
すると威嚇をやめてペタリと
首を地面につけてしまう。
息が荒い、体力的に限界が近いようだ。
急いでお腹あたりの傷口に緑回復薬を
2本分かける。
後ろ足は片方が途中で切られてなくなっていた。
この部分の血を止めるのに残りの三本
全て使い切る。
ふう、なんとかこれで一安心かな。
「人の、子よ、ありが、とう」
鈴のような澄んだ声が響いた。
ドラゴンが喋った!
「しかし、せっかく、傷を、
直してもらった、けど、内臓が、
数カ所、やられていて、
私は、もう、ながくない、の」
「そんな、もう、赤色回復薬が
3本しか残ってないよ?どうしよう」
赤色回復薬では内臓全部は治せない。
「それより、あなたを、見込んで、
頼みがあるの」
「うん、なに?」
いつの間にかドラゴンの手には
8歳の僕が両手で抱え込める程の
大きさの白い石が握られていた。
それをゆっくりと僕の目の目に置く。
「これは、私が、産んだ、卵。
私の、代わりに、育てて、欲しいの」
その石はドラゴンの卵だった。
「僕なんかでいいの?」
「初対面の、ドラゴンを、治療して、
くれた。あなたなら、任せ、られる。頼むわ」
ドラゴンに見つめられる。
「うん、わかった。任せて
大切に育てる。約束する」
「そう、よかった」
「名前はどうする?」
「ルーチェ、と」
「わかった」
そしてドラゴンは卵に語りかける。
「ルーチェ、あなたの、成長を、
見れないのが、残念。
私は、死んで、しまうけど、
あなたは、1人では、ないよ。
きっと、この人の子が、大切に、
してくれる、でしょう。
いい子に・・・育つ、の、よ」
その言葉を最後にドラゴンは動かなくなった。
地面に埋めてお墓を作ろうと思ったが、
ルーチェが成長した時に母親の姿を見せたい。
「石化」
ドラゴンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
土魔法を使い、ドラゴンの姿はそのままに
その体を石に変化させる。
どうせなら見た目も良い方がいいだろうと
欠けた後ろ足をもう片方を参考に作る。
「硬化、劣化防止」
2つの魔法陣が重なり合い輝く。
硬化を使い頑丈にし、
劣化防止で汚れたり風化しないようにした。
僕はドラゴンの卵を両手で抱きかかえて
来た道を小川に向けて引き返す。
ドラゴンの卵は仄かに温かく
そこに確かに命が宿っている事を感じた。
誰もいなくなった花畑
そこには色とりどりの花に囲まれて
キラキラと白銀に輝くドラゴンが1匹、
静かに眠っている。
ドラゴン
4本足で歩き、背中に生えた翼で空を飛ぶ事ができる。
寿命は1,000年以上ある。
人と共生するものや、逆に人を襲う事を
生きがいにしているものもいる。
取れる素材が高価なため狩られる事もある。