第18話
「非常にドラーコンと似ていますが、ドラゴンですな。しかし、間違えても仕方ありません。殿下、ローレンスの長男殿に責はありませぬ。それほどこのドラゴンはドラコーンに似ております」
「やはりドラゴンだったではないか、この嘘つきめ!」
宮廷魔術師長の回答に次期伯爵の少年は興奮収まらぬ声で叫ぶ。
「そのドラゴンを賭けて決闘を申し込む!」
次期伯爵の少年が芝居がかった仕草でそう宣言した。彼の取り巻きの少年たちも「決闘だ!」と盛り上がる。
貴族の間で揉め事があった場合、この国では決闘が推奨されている。
一昔前は些細な揉め事で領地同士の戦争になてしまうことも少なくなかった。あまりにも貴族同士の戦争が多すぎて国力が衰えてしまうぐらいには。
それに頭を痛めた当時の国王は戦争の代わりに決闘で解決することを推奨した。そのおかげで現在は貴族同士の戦争はない。
「私には何の利益もないのですが」
「何を言っている。おまえが勝てばドラゴンはおまえのものだ。十分お前の利益だろう」
自信満々な目の前の次期伯爵の少年を見ながらユートは面倒なことになった、と思っていた。
決闘のルールは特殊で、貴族同士の戦争の名残で10人対10人の魔法ありの団体戦だ。
チームのメンバーは決闘するものが自分の伝手を使って集める。メンバーは決闘の当事者を含めて最低1人、最大10人となっている。過去、S級冒険者1人を雇って2人で10人を相手して勝った記録がある。
目の前の少年は間違いなく金にものを言わせて強者を雇うだろう。
試合中に魔法で作ったものや召喚したものはメンバーに換算されないのでユートがゴーレムを召喚。物量で圧倒するれば間違いなく勝てる。しかし、間違いなく目立つ。それはユートの望むことではない。実力は隠して相手に侮ってもらうのがユートの基本方針だ。
ルーチェを渡したくないので決闘をすることになれば勝たなければならない。勝つためには周りに実力がバレる。だから、決闘は避けたい。
「いいではないか。決闘を認めよう。見届け人は私がやろう」
第一王子がにこやかに決闘を認めてしまった。
ユートは内心で盛大に舌打ちをした。第一王子が余計なことを言ったために決闘をすることが確定してしまった。
次期伯爵の少年はニヤニヤと笑っている。
決闘は10日後の昼に決まってしまった。
「はぁ」
ユートは自室の寮の部屋でため息をついた。
「どうしたの? ユート君。なんか元気がないけど」
男子寮のユートの部屋に来てルーチェと遊んでいたアルマが心配そうな顔で近寄った。
「実は決闘をすることになったんだ」
「ええっ! 決闘するの?」
アルマは大きく目を見開いて驚く。
「うん。ルーチェを賭けて決闘することになってしまったんだ」
「ルーチェを賭けるって、なんで?」
「次期伯爵殿に目をつけられてしまったよ。団体戦だから人を集めなきゃいけないんだけれど、どうしようかな」
思案顔だったアルマがそうだ、と両手をパチンと合わせる。
「ねえねえ。メンバーって何か制限あるの?」
「いやないよ」
「じゃあさ、警備隊の人に手伝ってもらったら?」
ユートはその手があったか、と思った。
「アルマ」
「何?」
「最高!」
ユートはぎゅっとアルマを抱きしめる。アルマは突然のことにあわあわと慌て、顔は真っ赤になった。
「そうと決まれば早速手紙を出そう」
ユートは父アランに次期伯爵と決闘をすることになったこと、その決闘で警備隊を数人貸して欲しい旨を書いてゴーレムの鳥を作り、手紙を足にくくりつけて送り出した。
振り返ってアルマを見ると顔を真っ赤にしたまま俯いて椅子に座っていた。
翌日、登校途中に学園の中なのに何故か暴走してきた馬車がユート達に突っ込んできた。いち早く気がついたユートがアルマをお姫様抱っこして回避して被害はなかった。
アルマはユートの腕の中で真っ赤になった。
その翌日。魔法の実践授業中にユートに魔法が飛んできた。教師が防御魔法を張ったためユートに当たることはなかったが、その生徒は教師に厳重注意を受けた。
さらにその翌日。ユートの頭上に特大の花瓶が降ってきた。幸いユートに当たることはなかったが、大きさが明らかにおかしい花瓶を落とした犯人は不明だ。
その日の夕方父アランからの手紙が届いた。
その手紙には「今日送り出したので決闘の前日には着くだろう。すまない」と書かれていた。
ユートは最後の「すまない」に言い知れぬ不安を覚えたが気のせいだと思うことにした。
そして、遂に決闘前日の日になった。今日まで謎の事故は続いていて、ユートは次期伯爵の少年の仕業だと考えているが証拠がないので放っておくことにした。
焦れた相手がアルマを拐うことも考えられたので、そこだけは注意した。
ユートは午前の授業中に学園長室に呼び出しを受けた。
「失礼します」
ユートはしっかりした作りの木製の学園長室の扉を開く。
中では学園長のロズワフ・アルゲムが窓の外を眺めていた。
「よく来てくれた。立ち話で悪いが早速本題に入ろう」
と言われてもユートには心当たりがない。
「王都の門の方でローレンス領の警備隊だという2人組の男がいるのですがなにかご存知かな?
男のうち片方は片目に眼帯をした山賊風の男。もう片方はメガネをかけた筋肉?ということだ」
門からの伝書だと思われる不審者の風体を書かれただろう紙を読み上げる学園長。
ユートはその書かれた内容に心当たりがありすぎた。
「・・・直接確認しなければなりませんが、ほぼ我が領の臣下でしょう。迎えに行っても良いでしょうか」
「うむ。是非行って欲しい。正直、その、門番の方も扱いに困っているようじゃ」
眉を八の字にして困った顔の学園長にユートはわかりますと、深く頷き門へと向かった。
ユートが門にたどり着くと2つの筋肉の塊が見えた。
1つはどんな極悪人でも素足で逃げ出すような凶悪な顔をした固めが眼帯の男。警備隊長のロベルト。
もう1つはメガネをかけた美丈夫、顔はこの世の女の子の理想を体現した首から下は筋肉の男。警備隊副隊長のアーロン。
2人の周りだけ空白地帯が生まれ、心なしか気温が高いような気がする。
「やっぱりあなた達でしたか」
「おう、なんか面白そうなことやるって聞いたので来ちまいました」
「おひしぶりですユート様。私は隊長のお目付役をアラン様から命じられました」
はっはっは!と朗らかに笑うロベルトを横目にアーロンを見ると「困った隊長です」と目が訴えていた。ユートは肩をすくめて「お疲れ様です」と伝える。
ユートは父に今度アーロンの給料を上げるよう頼もうと思った。
その後、門番にユートが2人の身元を証明したので学園に戻ることにしたのだが。
「ひいいぃ!」
「山賊?何で王都の中に?門番は何してるんだ?」
「騎士様。こっちです」
ロベルトが山賊に間違われて一悶着あり。
「ああ、なんてイケメン! $%)('0')??」
「素敵。・・・・・・ふぅ」
「ぶふぁ!」
アーロンの顔を見てうっとりしていた女の子達が首から下を見て発狂したり気絶したりした。
まあ、それについては仕方がない。ローレンス領の警備隊なのだから。
手紙の「すまない」とはこういうことか、とユートは半ば現実逃避するが歩くだけで王都の住人に被害が出る。
もはや彼らは歩く災害と言っていいだろう。
学院に入るときにもひと騒動あった。
「こ、これ以上先には通さない!」
「ここは任せろ。お前は連絡を頼む」
「くっ、お前らの犠牲は無駄にしない」
悲壮な覚悟を決めた学園の門番にユートは心配ないと説得するが信じてもらえない。
むしろ、ユートを保護しようとしてくれた。立派な門番である。
結局、学園長が来て解決するまで信じてもらうことはできなかった。
こそこそと誰にも見つからないように学園長室まで来たユート達一行はこれからのことを話し合う。
「とりあえず、彼ら2人は隔離じゃ」
開口一番学園長がそう言ったのは当然だろう。
ロベルトとアーロンを見てしまった学園生徒達にどんな被害が出るか。考えるだけでも恐ろしい。
ユートは学園長の意見に賛成する。
しかし、アーロンは必要ないと言う。
「我々ほどの筋肉があれば気配を消すことなど造作もありません」
謎の筋肉万能説を持ち出したアーロンはそう言った直後、目の前から忽然と姿を消す。続いてロベルトの姿も消える。
どこに行ったのかとキョロキョロするユートと学園長。
すると、先ほどまで二人が立っていた場所から声が聞こえた。
「ユート様、我々はここにいます。これなら問題ないでしょう」
確かにこれなら問題ないと引きつった顔の学園長が許可を出す。
何故ここに来るまでにそれをしなかったのかとユートは尋ねる。そうすれば被害はなかっただろうと。
「このまま王都に入り、学園に入ったのならば不法侵入です。隊長はやろうとしましたが犯罪なので止めました」
正論である。ユートは何も言うことができなかった。
そして、警備隊の筋肉の謎がまた一つ増えた。
「あ、ユート君おかえり」
自分の部屋に戻ったユートはアルマに出迎えられた。しかし今はまずい。見えないが彼らがいるのだ。
「おう、アルマの嬢ちゃんか。久しぶりだな!」
「アルマさん。お久しぶりです」
突如として室内の気温が上昇すると同時になんとも言えない息苦しさを感じる。
やってしまった。
このときユートはひどく後悔した。先に部屋を確認するべきだったと。
「あ、はい。お久しぶりです」
「はえ?」
ユートの口から間抜けな声が漏れた。
アルマは明るい緑目をキラキラさせて2人を見つめている。ユートは目をゴシゴシとこするが見間違いではないようだ。
「あ、あのさ、アルマ?大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、その、気絶しないの?」
キョトンとしていたアルマもユートが何を言いたいのかわかったようだ。
「小さい頃からお父さんと一緒に警備隊に薬を届けに行っていたから慣れたよ。
・・・最初はその、気絶したりしたけど、今は平気」
「はっはっは!懐かしいなぁ。嬢ちゃん、最初のときなんか漏・・・」
「それ以上は言わせませんよ」
何かを言いかけたロベルトはアーロンの顎へのパンチによって首から上が天井に埋まった。
天井から生える筋肉の塊は唯ひたすら不気味だった。
「さて、隊長のことは放っておいて良いでしょう。脳筋ですからね。作戦会議をしましょう」
ユートとアルマはアーロンも十分脳筋だと言いたかった。
しかし、キリッとした表情のアーロンがクイッと持ち上げたメガネが無駄にキラリと光るのを見て2人揃ってツッコミの代わりにため息を吐いた。




