タワーディフェンス10
「ポラリスよりフォボス1了解した。これよりサックチームが突入する。バックアップ各隊は、別命あるまで現場を維持せよ」
どうやらこれで安全が確保できたようだ。ポラリスとの通信直後、唸るようなエンジン音と共に、一糸乱れぬ編隊飛行がソリッドクラウド領域へと侵入を開始。時折トルーパーと思しき射撃が、その新たな侵入者を遠ざけようと打ち上げられるが、四発の大型機とはいえ高速で飛行するそれを捕捉するのは容易ではない。
そして大概、一度のバースト射撃の後、二射目が行われることはない。本人たちは空中への射撃を行っているつもりだろうが、既に抵抗拠点を潰している“侵略者”からすれば、わざわざ己の位置を知らせる空包を撃っているのと変わらない。
「今のうちだ。各自リロードと残弾及び機体状況の確認を行え」
小隊長の指示に従って、残り少なくなったマガジンを交換。
その間も、こちらへと攻撃を試みる敵も、上空を通過したシームルグを狙う敵も現れない。先程後退した二機は、どうやらそのまま撤退したようだ。
「ガニメデ1よりポラリス。ガニメデ全機降着。全機異常なし。これよりルーラーへ向かう」
「エウロパ1よりポラリス。こちらも全機異常なし。ガニメデ隊に合流してルーラーへ向かう」
一斉に反転して去っていくシームルグたちの姿が見えて、それからすぐにそこから放られたサックチームの声。事前情報通りなら、今俺たちがいる崖の頂上から更に進んだ先、すり鉢状になっている中心部分に奴が潜んでいるはずだ。
「……来たか」
サックチーム降下から三分後、不意に遠雷のようなものがコックピット内に届き、それが俺の空耳ではないことを小隊長の声が証明した。
「ルーラーの音ですね」
「そうだ。全機、いつでも動けるようにしておけ」
軍曹の言葉に応えながら次の指示。今回はHGVに余裕がない。サックチームによるシュトゥルムヤークトが失敗した場合、俺たちもルーラー攻撃に加勢する必要が出てくる。
――それはつまり、トルーパーやフラックよりも大型で、強大な装甲に覆われたルーラーを相手に、数を頼みに押し包めという事。
そういう作戦において、余程完璧に虚をつくか、士気や練度に圧倒的な差がない限り犠牲はつきものだ。
「こちらラプターリーダー、作戦空域に到着した。いつでも攻撃可能だ」
その貴重な極超音速弾を装備した部隊が到着。タイミングとしてはベストだろう。
そしてその通信が聞こえている訳ではないだろうが、一際大きな遠雷が轟き、向こうに見えていた積乱雲のような雲の山の中から、金属的な光沢を纏ったダークグレーの機影が姿を見せた。
「あれが……ッ」
思わず声が漏れる。
ブリーフィングで見た通り、大型飛行艇のような姿をしたその機影は、飛行艇にして四発機というそれぞれの言葉から想像するような鈍重なそれとはまったく異なる機動で、サックチームをフライパスしていく。
「逃げるのか!?」
思わず発した疑問は、音声を拾っていた軍曹が答えてくれた。
「いや……隙を生み出そうとしている」
それがどういう意味なのかは、当の本人――というか本機が実演した。
俺たちのよく知るシームルグのそれよりも甲高いエンジン音というか駆動音を放ちながらサックチームをフライパスしたその巨体は、すぐさますり鉢状の地形の反対側にある別の雲の山へと飛び込んでいく。
ソリッドクラウドといっても、ルーラーには例外が適用されるようだ。
それがどういう原理かは未だに解明されていないそうだが、連中はソリッドクラウドと通常の雲を区別せずに飛び込んで移動することを可能としている。
といっても、それで自在に雲の中を泳ぎ回れる訳でもないらしいのだが、時々ブースターで跳躍する以外は二本の足で歩くしかない我々からすればそれだけでも十分な強みだ。
「ポラリスよりフォボス隊、貴小隊がサックチームに一番近い。そのまま前進し、サックチームに合流、これを援護せよ」
「フォボス1了解。これよりサックチーム援護に向かう」
次のお仕事は決まったようだ。
「フォボス各機、聞いたな。連中に手を貸すぞ」
その返事の代わりに、聞き覚えのない声が入る。
「ヤタガラスより管制塔、低軌道ステーションへの着陸アプローチに入りたい。空域はクリーンか」
「管制塔よりヤタガラス。現在HLPS対処中、安全が確認できるまで現在の高度を維持せよ」
ここからは見ることが出来ないが、どうやら俺たちのすぐ近くにヤタガラスが飛んでいるようだ。
「ポラリス、ヤタガラスと混線している」
「了解した。対処する」
報告を終えた小隊長が、今度は部隊内通信で続ける。
「どうやら人を待たせているらしい。行くぞ」
そう言うと、率先垂範という言葉の例のように先頭に立って、遠くに見えるすり鉢状の中心部に向かい斜面を駆け下りていく。
――この人には恐怖心がないのか?などという失礼な、しかし無視できない疑問を抱えながら、上官が範を示した以上兵卒が従わない訳にもいかない。
「よし……」
覚悟を決める。どうせ終わらせなければ帰れないのだ。
「シャッ」
一度肚を決めれば後は体が動く――これまでの訓練の賜物。
OSの機体制御能力をフル活用して前を行く上官たちの後を追う。
どうやら中心部に向かって標高が高くなっていたのか、反対側から登る時よりも下り坂の方が短く、坂と呼べるぐらい傾斜もなだらかだ。
その麓と呼ぶべき場所には、前回も見つけたシーツをくしゃくしゃにしたような連続する襞が並ぶ。
その向こうには、俺たちと同じ――ただし立場は正反対の――考えだろうトルーパーの一隊が結集しつつあった。
「前方にトルーパー多数。ツーマンセルで散開し対処!」
恐らく、向こうにも隊長に相当する存在がいるのだろう。
こちらの隊長が指示し、俺たちが従ったのと同様に、連中もいくつかの集団に分かれてこちらに振り向き、散開を始める。ルーラーへの増援よりも、自分たちの背後にいる敵の増援を合流前に叩くことを選んだようだ。
「おおおっ!」
坂を駆け下りながら、そのうちの一機にライフルを向け、射程に入ったのと同時に引き金を引く。
連中の判断は多分正しい。だが、それならその思惑を砕くまでだ。
(つづく)
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続きは明日に




