第10話 苺、大好き
苺王国。ストロベリーキングダム。
「アナスタシア姫様」
苺騎士トム・デザートが、アナスタシア姫様の足元にヒザをつく。
「ワタクシ、あの殿方のことが忘れられないの」
「あの男ですか」
「ええ」
アナスタシア姫様は、ボリュームたっぷりの赤毛のツインテールを、風になびかせる。
「これが、“恋”なのね…」
ほのかに香る、イチゴ香水の香り。
スマートな体つき。優しい声。美しい顔立ち。
あの男の人は何故あんなに優しい瞳をしていたのか。
愛されてみたい。愛を捧げて欲しい。
思わず、願ってしまう。
「もう一度、会いたい…」
「アナスタシア姫様」
「あの街へ」
「姫様」
「あの街へ、ワタクシを連れて行ってちょうだい」
恋するアナスタシア姫様の瞳は輝く。
ストロベリアの街で、運命の出会いをした。
あの男の人に、再び、会いたい。
第10話 苺、大好き
ストロベリアの街。農林大臣邸。
「と、いうことで、姫様と結婚してくれ」
農林大臣グランドリーは、頭を下げた。
「無理。待って。無理だから」
ラズは、どん引きしている。
「ラズさま。私との婚約は、どうなるんですか」
コアンは、詰め寄る。
結婚前提の婚約をしたばかりだ。
このカッコいい人は、誰にも渡したくない。
「いや、ちょっと待って」
「ラズさまは、女性に好かれる自覚はないんですか」
「あるよ。大丈夫。断わるから」
ラズは、大臣に向かい、丁重にお断わりをした。
「ラズくん。わかっているよ。しかしな。姫様が来る可能性がある」
「大変だ」
あわてるのをやめて、真面目に考える。
大変だが、コアンの嫉妬を見るのも楽しい。
「まあ、正直に他に婚約者がいるって言えばいいよね」
単純な話では、ある。
ウワサだけで、アナスタシア姫様は、来なかった。
王様に、誘拐事件があった街に行くのを完全否定されたことが大きかったようだ。
すでに婚約者がいると伝えたのも大きかっただろう。
白い洋館。
「おかえりなさいませ。ラズさま。コアンさん」
サッとサッと。
トーマスと白魔法のホウキが出迎えた。
「駄目だね。トーマス。コアンにも“さま”付けだよ。僕の婚約者だから」
「ああ、はい。ラズさま。コアンさま」
言い直させる。
広間。
「さあ、休もうか」
ソファに座ったラズ。
コアンに手を差し伸べる。イチゴ香水の香りがする。
その手を取ったコアンは、導かれるまま、その腕に抱きしめられた。
だきっ。
顔が熱くなる。うれしい瞬間だ。
この男の人は、女の娘に喜びをくれる。
「あの、聞いていいですか」
「何だい。コアン」
ラズは、優しく、コアンの頭をなでている。
「何で、ラズさまは、イチゴの香水をつけているんですか」
「ああ、それね」
それは、イチゴ好きな人々が集まる苺王国で、上手くやっていくためだという。
「お仕事のためだったんですか?」
いつも、魅了されるイチゴ香水の香り。
「恋愛にも、有効だったのかい」
「有効ですよ。私、ラズさまの香りが好きです」
「僕もキミが好きだよ」
ぎゅ。
抱きしめる力を強くする。
「ラズさん。コアンさん。イチゴ食べなーい」
「俺は、白リッチ食べたい」
「採れたてダゾ」
サッとサッとサッと。
ミーズ、トーマス、ガリ、白魔法のホウキ。
広間に、採れたてのイチゴを持ってくる。
「美味しそうだね」
「美味しそうです」
ラズとコアンは、見つめ合う。
イチゴを皆んなで食べる。
それは、苺王国の至福の時間なのだ。
苺王国。ストロベリアの街。
ここには、イチゴを愛する人々が住んでいる。
イチゴ商人のラズと、その婚約者のコアンと、使用人たちはイチゴを売る、買う、食べる。
イチゴ色の毎日は、いつもきっと上手くいく。




