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03 ウイスキー街道廃醸造工場救出作戦04

「えと、どういうことですかこれ」

夏冬は目をパチパチさせ、事態を飲め込めない様子だった、助けに来たのではないのかと。

辰はオドオドする夏冬に片手で銃を向けたまま鋭い目つきで吐き捨てる。

「作戦要綱を見た。自分は第二地方の生き残りで日課の非常食料等の調達で辺りの廃墟を捜索中、阿熊に遭遇。

逃げ込んだ工場にてたまたま無線機を発見。そんでわざわざうちの自警団に救助要請?

お前はアホか、どう考えても怪しすぎやろ!」

「でも、本当なんですぅ、信じてください(ばぁーか)」

「おいお前、今小さく”ばぁーか”って言っただろう!?」

辰は腹は決まっていた。こいつは俺らの敵で間違いない、出なければ”自分”が作戦を担当するはずがないと。

夏冬の態度にイライラを募らせていたイルが急ぎ問いかけた。

「もういいからっ。とりあえずは手は縛って身柄拘束するから。で、ほかに仲間はいるでしょ、どこ?」

イルは素早く両手を掴んで縛り上げた。

「うう痛い~じ、実はもう私だけなんですぅ、連れの人はさっきの阿熊に襲われてしまって・・・」

「はぁ?いかにも弱そうな女のあなた一人だけですって?クッソふざけんなよ」

イルは驚いて、確認するように辰の顔を見た。小さくうなずく。

「ああもう、確実だな。大森さん聞いてるだろ?縄文寺に伝えてくれ、要救助者は”黒”だと。まあ、海外山賊の生き残りだろう」

”まあ、とりあえずは裏が取れるまでは疑惑の黒な”

大森も無線越しに納得したようだった。

「えぇ?!そ、そんなぁちがいますぅ」

へなへなとへたり込む夏冬にイルは素早く近づき縛られた腕を掴んで引っ張り上げた。

「ちょっと、座んないでよ!さっきの銃声でもう阿熊が来てるかもしれないのに、もう時間がないの」

「兎に角こいつの仲間どこかにいるかもしれない。急いで車まで戻るぞ」

「せ、せっかくゲットした食料が」

そういえば夏冬の後ろには少し真新しいミカン箱の段ボールがひとつあった、辰が警戒しながら恐る恐る中を確認してみる。

「ん、ちょっとまて。こいつは、おおおおおおおおお、おい、すごいぞ!!」

”どうした辰?”

映像までモニターできない大森が無線越しに問いかけた。

「おい嘘だろっ、ラーメンだ・・・ラーメンがある!賞味期限は8年前だが痛み一つない、保存状態最高、うおおおおお!」

「信じられない、私ちっちゃいころにしか食べたことない。それが六つも八つもいろんな”フレーバー”がっ」

辰は巨万の富でも見つけたかのように両腕を上げた。イルも驚きを隠しきれない。

今、辰たちの生きるこの時代、食べるものが殆ど無くなったこの世では何物にも代えられないほど価値がある、

それがもはや現在では作られることが無くなったインスタントラーメンである。

”よし辰、3日、いや1週間分の栄養豆と交換しよう、どうだ?

ほかにも希望があれば検討するぞ、お前と俺との付き合いだろ”

「わかってるって大森さん、そこは帰って相談な。

喜美江ちゃん、このやり取りだけ縄文寺に聞かれないように切ってくれ」

”了解”

「そうと決まればとっとと脱出だ、こいつの仲間が辺りに潜んでいるかもしれん。早くこいつ連れて逃げるぞ」

辰はさもこれは自分のだといわんばかりに段ボールを抱え込んだ、盗人猛々しい。

「あの・・・そういえばほかの隊員の方が見当たらないのですが?」

夏冬は狼狽しながら辺りを見回して言った。

「はぁ?いる訳ないでしょ。あ、いや、そりゃ2つも小隊だして来てるわよ、無線で伝えた通りちゃんとね。

・・・まあウチの”代表”だけど」

「・・・・・・・(まずい)」

「おいこいつ、小声でまずいとか言わなかったか?」

夏冬の顔がみるみる青ざめていくのがわかる。少し様子がおかしい。

”イル、オッサン、静かにして。建物周辺に複数の音声発生源キャッチ、急速に近づいている”

先ほどまで沈黙していたミサが無線で伝えた。ミサは音による索敵装置をモニターしていたのである。

グオオオォォォォォォ!

一階から激しい雄叫びと振動が響いてきた。

「ヤバいな、長居しすぎたか。ミサ、何匹ぐらいいる?」

”今、衛星で熱源の確認取れているだけでも4体は確実、すでに中にいるよ”

「イル、そこの窓があるだろう?近くの柱にロープを付けてここからリぺリングでいこう。夏冬、お前も引っ張っていくからな」

夏冬はプルプル身体を抱え震えていた。

辰はここまで来てなぜ恐怖すると思って見ていたがそんな疑問よりも阿熊の対処が最優先である。

イルも取り急ぎロープの準備をした。

辰は阿熊の様子を伺うべく吹き抜けに近づきそっと覗き込む。

「オロローン、オロローン。ウイスキーぼうやがぁ、死んじまったよぉ、ひでぇよぉ」

「かわいそうになぁ」

辰が確認すると4匹ほどの阿熊が一階にいた。いずれも巨漢である。

「”親子”そろって死んでるとはなぁ、ホンマ世も末だぜ」

(親子・・・?)

辰は親子というセリフに疑問を抱き、おでこの暗視ゴーグルをおろして辺りをグルグル見回した。

何度見まわしても中央にはウイスキーを持った阿熊の遺体だけ。

しかし、ふと隅の方にいた阿熊が何かを抱えて撫でているのが目に入った。

それはボロボロになった阿熊の子供であった。

(どうなってんだ・・・?)

「畜生、子どもにヒデーことしやがって。クソ人間ドモ、皆殺しにしたんねん!」

ひときわ気性の荒そうな阿熊が叫んだ。

(親子、ウイスキーぼうや・・・それにあの阿熊、暗がりでわかりずらいが少し武装してる?)

辰は思念を巡らせている最中、イルが小声で合図する

「オッサン準備完了、早く行くよ。夏冬は私の背中にピッタリくっついて、ハーネスで縛るから。

少しでも妙な真似したらハーネスのロックすぐ解除するからね」

「ひぃぃ、ひぃぃ」

半泣きになりながらイルにピッタリとくっついた。イルが小柄なゆえに長身に見えた。

「そうだな、善は急げだ。とりあえず早く行こう」

イルを暫く先に行かせ、後から辰も段ボール忘れずがっちりと掴み、

ロープを腕に巻き付けゆっくりと窓の外に出た。


壁を蹴り、少しずつテンポよく降下してゆく。

二人とも消防隊ほどの訓練を受けたわけではなかったがその動きには確実性があった。

皮肉にも夜空の星が美しく輝き、頬を撫でる夜風はとても心地よかった。

最高の夜である、危険極まりない仕事中を除けば。

その時、イヤホンから大森が連絡が入った。

”おい、辰。今しがたガンツアーのバスに乗ってルイが来たぞ!どうなってる?”

「マジか。ガンバスは待機命令のはずだ」

イヤホン越しに騒がしいのがわかる。ルイが大森達のところにやってきたようだった。

”オッサン、俺だ。いいか聞いてくれ、その夏冬ってやつは山賊じゃない”

「ルイか?何言ってんだ、山賊じゃなかったら本気で乞食の民間人とかいう気か?」

”ちがうっちゅーに、いいから聞けよ。そいつ、レイが言うにはこっちの戦力偵察の大陸アジアから来たスパイの可能性が高いらしい、

だから一応念のため他の・・・”

ルイは息を荒げながら矢継ぎ早に辰にしゃべりかける。

「大陸アジアの関係者だと?そんなまさか、ありえんやろ。ここまでどうやって来た?」

と、そこにミサが話に割り込んできた。

”ちょっと待ってルイ、これ・・・なに、喜美江ちゃん、これわかる!?”

”それちょっとまずいかも、ミサちゃん類似したデータ持ったはず、急いで”

「どうした、なにかあったのか」

”オッサン、これ、前の時と同じ・・・”

「前の時と同じ?」

やり取りをしているうちにいつの間にか地上に到着した。

しかしそこでなぜかイルが目の前に立ち尽くし、夏冬は震えていた。

ハーネスのロックを無言で解除し、その勢いで夏冬は前のめりに倒れこんだ。

「おぶっ!」

「ねぇどうしようオッサン、まずいよ、これっ・・・」

珍しく、強がりのイルが声を震わせ弱々しく伝えた。

「どうしようって、なっ?!」

イルの目線の先に目を向けると、つい先ほどまで闇に覆われていた森林がいつの間にか阿熊で埋め尽くされていた。

数は目で視認できるだけでも20匹以上はくだらない、しかも全員武装している。

これは1小隊のガンバスがフル武装しても対応が難しいレベルである。

「おい、これはなんの冗談だよ」

辰は地面にひれ伏している夏冬に問いかけた。

「だ、だって、こいつらの敵対応能力を調べるだけだから

おびき寄せればいいだけだってっ、馬鹿が多いからラーメンで足止めしてればいいって。

でもまさか武装バスで来ないなんてっ(許さん)」

そう言うと夏冬は隠し持っていた無線機能の付いたビデオカメラを落として嗚咽を漏らしだした。

呆然をするイルと辰。

「・・・そうか、あの阿熊の親子、ウイスキーぼうや。あれはお前が用意した撒き餌か」

辰は悟った。つまるところ俺達自身が目的だったと。

「またハメられた、たまにはこっちがハメたいもんだ・・・」

「馬鹿じゃないのオッサン・・・」

闇夜に散りばめられた無数の眼光に、3人はただ絶望した。


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