03 ウイスキー街道廃醸造工場救出作戦05
「あ!ヘルニアのオッサンじゃねーか」
怪しくうごめく闇の中から少し聞きなれた声が聞こえた。
「その声・・・お前”テ”か?」
辰には覚えがあった、先に戦った右左市で奴らの会話から判明したゴリ・アン・テという名の極めて戦闘能力が高い阿熊。
この阿熊3人組は右左市の戦闘以前より何かと縁があり、事あるごとに鍔迫り合いをしている。
「え、なんでこんなとこいんの?てかラッキー。この前シバキそこなったからお前シバキな」
(やばい、顔見知りとなればなおさら状況が不利だ)
辰の身体はこわばり、張り詰めた空気の中息苦しさを隠しきれなかった。
テは肩をゴキゴキ鳴らせながらウォーミングアップし始めた。
手に持ったこん棒のようなものをブンブン振り回し素振りしている。
イルは阿熊に気づかれないよう少しずつ後ずさりをし、辰に肩を並べて小声で伝える。
「スモークグレネード、一発だけ残ってる。ピストルの弾はマガジン一本分だけ」
「焼け石に水だ、スモーク投げて全力疾走するか?」
そこに夏冬が突っ込みをかける
「あの、もしもし、お二人とも、阿熊の全速力何キロでるかわかってるんですか?」
「お前はこのまま足だけ撃って置いていっていいんだからな」
「ひぃぃ、ひぃぃ」
そこに工場一階の大きな搬入口から先ほどの四人組が出てきた。
「おい、テ、お前は黙ってろ。こいつらは柱に括り付けて皮をはいでやる」
威勢のいい阿熊は目を見開き、歯をむき出しにした。
「お前ら聞け、この人間どもはウイスキーぼうやを殺したんだ!」
そういうと、子供阿熊のウイスキーぼうやを抱いていた阿熊は天高く遺体を掲げた。
グォォオォォォォオオオオオ・・・・!
一斉に阿熊たちが雄たけびを上げる。その音の振動は辰たちの身体の芯まで伝わった。
「ひぃぃ、ひぃぃ」
”おい、オッサン。さっきのアイデアで行こう。この状況を乗り切るにはそれしかない”
状況を把握した大森が辰に賛同する。
「さっきのアイデアって夏冬の足撃って囮にして逃げるってか、いいなそれ。元より俺たちが目的だったんだからな」
それを聞いた夏冬が懇願する。
「そ、そんなぁ。私何も知らなかったんです。お願いです、お、置いていかないでぇ」
「チッ、ホンマ、ダボやねん」
イルが悪態をついた。
「ミサ、阿熊の人数が少ない場所は俺達から見てどの方角だ」
”建物側、ちょうどオッサンから7時から8時の方向”
「よし賭けよう、合図と同時に足元にグレネードに落とせ。一気に煙が広がったら7時に向かって全速疾走。
夏冬、死にたくなければついてこい。後は知らんからな」
そう言うと辰は夏冬にこっそりポケットナイフを渡した。
「はいぃ、ありがとうございます(ちょろい)」
「あ、やっぱそれ返して」
「ありがとうございますぅー」
そうもいっている間に数頭の阿熊が近づいてきた。
「ヤバい、イル!」
イルはピンに手をかけた、その時である、闇の中から一筋の閃光が飛んできた。
シュッ!カラーンッ・・・・カラカラカラカラ。
グレネードはピンが抜かれることもなく回転しながら遠くの地面に転がった。
本体には矢が刺さっており、煙が矢の間から噴き出している。
「同じ”弾”は食わねーよ」
「噓でしょ?!あれ・・・・」
矢が来た方角に目をやると、この作戦現場に到着と同時に口の中に見舞ったあの阿熊が再び矢を構えていた。
鬼のような形相である。
その刹那全員の身体から血の気が引く、唯一の希望が潰えたのである。
「全員、捕まえろ!」
阿熊たちは一斉に3人に飛び掛かった。
「いやああぁ!」
絶叫するイルは悲痛な叫びをあげ、即座にピストルを構えた。
その時である、空から無数の黒いボールのようなものが阿熊に向かって落ちてきた!
「伏せろ!」
辰は二人の肩に手をかけ地面に伏した。
バンバンバンッ
大きな炸裂音、闇を割く強烈な光。
「グオオオォォォォォォ、イテエェェェェェ!」
阿熊達は目を抑え悶え苦しんだ。
その直後、阿熊と辰たちの間に砂塵を巻き上げ間に割って入ってきたホバーバイクが二台。
「間に合ったか。急げ、早く後ろに乗れ」
辰は顔を上げ、バイクに乗った男と目が合った。
「甲斐さん?甲斐さんか!」
「甲斐さん、第二地方自治体連合の・・・なんでここに?」
イルはそう言うと恐怖と安堵で少し目に涙を浮かべていた。
「あなたたち急いで!直ぐに阿熊の視力が回復するわよ」
もう一台のバイクに乗った長身の女性がハッパをかける。
「急げ!」
三人は急いでバイクの後ろにまたがった。
夏冬はほとんど座る隙間が殆どなかったため、イルにしがみ付くように無理やりまたがった。
「おい、辰それは置いていけ、てかすげー根性だな!」
「やっぱだめか?」
「当たり前だ!」
辰はラーメン段ボールをどうしてもあきらめきれなかったが甲斐の迫力に負け
泣く泣く手放した。
「くそぉ、ダボガァ、まておらあぁぁぁ!」
阿熊の捨て台詞もむなしくバイクは天高く砂塵を巻き上げ、デカンショ街道へ消えていった。
ウイスキー街道を颯爽と駆け抜け、バリケードまで急ぎバイクを走らせる。
「じゃあ、ルイが本部に来た甲斐さんに今回の作戦を話したのか」
”感謝してくれよ、俺がたまたま甲斐さんに出くわさなかったらオッサンたちはマジでアウトだぜ”
ルイは恩着せがましいように辰に言った。
「でも本当に助かったよ甲斐さん。でも第二地方の自警団が何故本部に?」
辰が話している小柄で血気盛んな男は、甲斐 大河
第五地方自治体連合自警団第一小隊の人間である。
「大森さんから来てもらってた技術者を送迎に来たんだよ。彼ら貴重なロボティクス技師だからな」
第三小隊イエローサインは後方支援を中心に救護や運搬を行うため
隊員は電子義手等を扱うロボティクス技師や看護師がいる。
”もう戻ってきてるっス、サンキューっス甲斐さん。後、久しぶりっス辰のオッサン”
「根岸か、山南も一緒か?」
”モチここにいるっスよ、今大森隊長と一緒に簡易砲台の設営してるっス”
砲台の設営と聞いて辰は驚いた。
「砲台の設営?」
「いいか辰、時間がないから手短に話す。今222号線の熱線バリケード際で俺の第一小隊と
第三小隊イエローサイン、お前んとこのガンツアーズで取り急ぎ布陣を組ませた。
このまま阿熊をおびき寄せて迎撃する。後ろ見てみろ」
辰は後ろを振り返る。闇に包まれた森林のあちこちからこちらを見つめる阿熊、
みな武装し、姿を見るやこちらを四つ這いに走って追いかけてくる。
「後ろだけじゃない、隊のレーダーでもマークしたかなりの数がこっちに向かって集結しつつある。
まったく第一地方の自警団の思惑通りといったところか」
それを聞いた辰はショックを受けた。
「第一・・・自警団?」
「辰、あの夏冬とかいう女は野盗や実のところ大陸アジアのスパイじゃない、第一地方自治体自警団の人間だ。
先ほど裏が取れたと連絡が入った。
いま第一地方自治体自警団は籠城近くの阿熊の野営地を叩きのめしている真っ最中だ。
お前らは第一地区の自警団が敵の戦力を削ぐための撒き餌だったんだよ」
「そんな、まさか・・・裏切りなのか?」
辰だけでなく甲斐も落胆している様子だった。
「事情は本部に帰ってからあいつに尋問するとして、とにかく今は阿熊が先だ。
合流したらお前が砲台について迎撃の指揮も取るんだ。俺も基本的には指示に従うが
他にウチのバスに入ってやることが有る。イル、お前も良いな?着いたらすぐにバスに入って銃座に着くんだ」
イルは苛立ちを隠しえない。
「さっきまで生きるか死ぬかって時だったのに。そして迎え撃て?さらには後ろにしがみ付いてる女は裏切り者?
色々と冗談じゃないわよ。奥さん、人使いの粗い第一小隊の隊長に言ってやったらどうです?」
「ごめんなさいね、彼なんでもついでやっちゃう人だから」
イルが乗っているバイクの運転手は甲斐の妻でオペレータの美生だった。
「甲斐さん、隊長になったのか?親父さん、陽三さんはどうしたんだ」
辰のセリフに甲斐は何ら動じることもなく淡々と答えた。
「親父は死んだよ。前の撤退時にな、あの永遠のサッカー少年」
それを聞いた辰は何も答えずただ俯いた。
「気にすんなよ、俺らもそのうち同じように成りかねないんだ」
山々の間を縫うように走り、藪を抜け、いよいよ222号線が見えた。
視界には小さく数台のガンバスが確認できる。
「気合い入れて行くぞ!」
辰は自分に言い聞かせるように皆に伝えた。
甲斐はそんな色々大変だったであろうに気丈に振る舞う辰に少し苦笑いをするのだった。




