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03 ウイスキー街道廃醸造工場救出作戦03

ウイスキー街道。ひた走るEV車、わずかな走行音だけが静かな森に響き渡るのだが、それでも辰はモノを言う。

「第二地方かぁー丹波第二地方って言ったら黒豆だよなぁ、黒豆食いてーなぁ。ビールと一緒に売ってないかなぁ」

シルバーのサングラスのような暗視ゴーグルを付けた辰はハンドルを握りながら呟いた。

「どうせ阿熊や野犬がたらふく食ってんでしょ、てかなんで地面の毒はなんで”人間のみ”有害なの?

阿熊は耐性かなんかもってんのかなぁ」

イルはグレネードピンを見つめながら言う。

「どうやろな、役人やら偉い連中ならなんか知ってるかもしれんが、どのみちこの世は”人間のみ”悲惨だよ」

辰ははぁーと大きくため息、この緊張感の無さでは作戦どころかまるで夜中のドライブデートである。

「それか毒入りなら黒豆売ってんじゃないの?このまま中心街まで行ってみる?」

「やめてくれよ、第一地方の自警団撃ち殺されるのが関の山だ」

辰の答えにイルは戸惑った。イルには予想外の話が返ってきたからである。

「ええっ、第一地方の自警団って阿熊の大襲撃でボロボロになって撤退後に第二地方の連合に吸収されたんじゃないの?」

「いや、小隊の2、3部隊が城跡周辺に生き残った住民と一緒に逃げずに阿熊に囲まれて籠城してるよ。

生まれ育った地に残りたいんやと。地域愛よやなぁ、泣けるぜ」

辰はシミジミ言った。

「だがまぁもう難しいかもな、あの辺りは」

「自衛隊は?第二地方の自警団は助けないの?」

イルは心配そうに辰に言った。

「あの阿熊の数では難しいだろう。多分阿熊はゲリラの如く立ち回っての持久戦だからな」

「そうか・・・」

落胆するイルを尻目に辰は前をただ視線を前に向けていた。

無言になる二人。

しばらく走ったのち、いきなり林から垣間見える大きな工場が街道横から出てきた。

「あれだな、よし。そこに農道があるからそこの藪に車を停めるぞ、ったく昔の田舎連中はスゲーことするよな。

なんでこんな不便そうなところに巨大なモン作るかね」

辰は呆れていた。

「はいはい、データ座標も一致。そういえば追跡は大丈夫かなぁ」

イルは最初に出くわした阿熊の事を思い出し心配した。

「あのグレネードには攪乱剤を混ぜてるから大丈夫だ、一週間は鼻がひん曲がっているはず」

「だといいけど」

ちょうど街道と工場の間に脇にそれる農道があり、そこに車を駐車する。

「いくぞ」

小声でイルに伝える。二人は素早く荷物のリュックを背負い一気に工場横の高台へ目指し駆け出した。

高台に着くとちょうど工場を一望できた。

「工場内第二醸造棟3F・・・あれよ」

片手で望遠鏡見ながらをイルの指さすほうには丸みを帯び、無数のパイプが建物に食い込んだところに第二という

かすれた文字が見えた。

「せめて、見取り図のデータでもあればよかったんだがな。しょうがない、ここから見える裏口からいくか。

阿熊の連中もここから見る限りいないようだ」

「目標は、3階の品質管理室だね」

高台を駆け降りる二人。

「というか酒はまだ残ってんのかなぁ、腐ってる?いや熟成されてるか?今日一番の期待なんだが」

「オッサン!」

イルは辰に突っ込んだ。

”見つけたら絶対に報告しろよ。モニターしてるからな”

「ああ、しまった。忘れていた」

辰は大森の存在をすっかり忘れていた。二人の会話は作戦に携わる者すべてにモニターされ筒抜けなのである。


(ああ、なんてこと、なんてこと・・・)

ここは醸造棟内、建物中央は吹き抜けとなっており至る所に腐食したタンクやパイプ、ガラス片などが散乱していた。

その3階の壁が半分ガラス張りになった品質管理室内から中央吹き抜けを見渡す、女が一人。

暑さも相まって冷や汗タラタラ流しながら見下ろす先には、

馬鹿デカい阿熊が鼻をクンクン鳴らしながら辺りを見回していた。

「うーん、匂うなぁ。この辺りなんだけどなぁ、おーい、いるんだろぉークソ人間、勝手に俺の城に入ってきやがって」

(ここには阿熊はいないって話じゃなかったの?!しかも、連絡した自警団なんか全然来ないし)

ウロウロしながら阿熊はあちこちの残骸を漁っていた。何と片手には大きなウイスキー瓶を握っている。

「あー上かぁ?」

(やばっ)

サッと即座に身を伏せる。いま彼女の頭は後悔の念で一杯であった。

(なんでこんなことに、私はそもそも銃は撃てないし、阿熊は迫ってくるし、こ、こんな仕事引き受けるんじゃなかったっ。

あーそう、いつもそう。何かやるときはきまって頭の中は成功した自分の姿で頭がいっぱい、失敗や不測の事態なんか

何も考えない、もーこんのぉ超ド間抜け!)

そのまま彼女は壁際にへたり込んだ。

息を殺し、身を潜め、この闇の中で脅威が過ぎ去るのをただただ祈るしかなかった。

暫くして、ふと辺りが騒がしかった先ほどと違い妙な静寂に包まれている。

「あれっ?」

妙な胸騒ぎを覚え、顔を上げるとガラス越しに阿熊の顔面があった。

涎をダラダラ垂れ流している、酔っぱらっているのだろうか?

「おうおうおう、はーーろーー」

「え、え、えっと、ハーロー」

見つめ合う一人と一匹。だが美しい女(?)と野獣という訳にはいかずに。

「ぎぃいいいやぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」

女は感電したかのように身を震わせ、瞬く間に座ったまま後退りをした。背が勢いよく向かいの壁に着く。

「アーイミーちゅー!」

言いながら阿熊は大きく腕を振りかぶり窓ガラスをたたき割った、だがその刹那。

ふわり。

白いシーツのようなものが阿熊に被さった。

「おぽう、おうおうおう?」

突然のことに阿熊は頭が混乱した。酔っていたので何事かもわからず呆然と立ち尽くしている。

その両脇に二人の影が勢いよく飛び込んだ。

辰とイルである。

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!

声も上げず二人は熊の脇辺りを目掛け、銃を押し付けて一斉に連射した。

「ぐぁががぁぁぁっぁぁ!」

弾を撃ち尽くし、ガツンと銃のスライドロックがかかる。

「次!」

そのまま、二人は阿熊にタックルを仕掛けいつの間にか後ろに仕込んでいた台車に押し倒した。

「おっしゃっ、そのまま押せ!」

台車を使い身体ごと押しこみ、そのまま腐食して柵の崩れた吹き抜けに向かって落とし込んだ。

ズドーー-ン!と凄まじい音が工場内に響き渡る。

「やったぁ!」

「どうだかな、安心せんほうが良い」

あっという間の出来事を呆然と見つめる女、やがて二人の肩に見える自警団ワッペンから救助と理解した。

夏冬は立ち上がり、挨拶した。

「あ、あの自警団の人ですねっ!私、夏冬ですっ、無線で連絡したっ!あ、ありがとうございます、嬉しいっ!」

それを背中越しに聞いた二人は振り向きざまに目にも止まらぬ速さでマガジンチェンジし、山野に向けて構えた。

「へっ」

「黙れ女、とりあえず両手を上げろ」

イルは鋭い目つきで山野を睨んだ。


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