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03 ウイスキー街道廃醸造工場救出作戦01

2210時、高度約200mあまり、朽果てた国道222号沿い(ニーサン)を北上する

いくつものプロペラが魔法陣のように装着された大型輸送ドローン。

そのドローンに玉掛けられた迷彩色に痛々しくカラーリングされた軽EV車の車内には辰とイルの姿があった。

「空はいいよな~、俺、昔若いころにさ、陸自の輸送ヘリに乗せてもらったことが有るんだけど」

辺りを眺めながら辰は嬉々として一方的にイルに話しかけていた。

「やっぱいいよなぁ~、この空と大地に挟まれた感じ。夜なのが残念だが、もうちょっと高度が高ければなぁ」

「フンッ、知らんがなそんなおっさんの昔話っ」

辰とは別に景色を眺めるイルはとてもご機嫌斜めだった。

「はぁー何が悲しくておっさんと二人で空に揺られなくちゃならないの?しかもアルミ板一枚しかないような装甲の車で」

「しょうがないだろ、第三小隊は出兵要請で大森の大将と喜美江ちゃんだけやし」

「ルイはバスの修理に駆り出されるし、ミサはとてもじゃないが”外回り”はできないからバックアップに回るしかない」

辰はそう言って運転席のリクライニングを倒すと腕を組んで目を瞑った。

「だからって、たったおっさんと二人で行けっての?阿熊の巣窟みたいなところに」

「まぁ動くEV車回してくれただけありがたいと思おうぜ、音の出るガソリン車ならまぁ・・・処刑みたいなもんだ」

「それにこれ・・・」

そういうと脇から拳銃を取り出した。まだ幼さの残る彼女の手には余る、なかなかの大きさをした拳銃だ。

イルは歯をむき出し、しかめっ面をしながら拳銃を睨みつけた。

「こんな豆鉄砲ピストルで阿熊と戦えっての?絶対無理っ」

それを聞くとやれやれといった感じで辰が言った。

「あはは、イル、阿熊相手にそんなん足止め程度にしかならんだろう。そりゃ自決用だよ」

「ちょっ、マジか」

それを聞いてぎょっとするイル。

「冗談だ。でもまぁ、間違っても”それで”阿熊とやろうと思うんじゃないぞ、サイレンサーだってついてないんだ。

銃声聞いた途端、群れで出迎えにくるぜ」

「はぁーマジ本部の連中最悪、宗田のやつ帰ったらぶっ飛ばしてやろうかな」

”じゃ、そん時は俺も手伝うよ”

胸に着けたデジタル無線から大森の声が聞こえた。

状況を知らせるため、相互音声は常にオンラインである。

”イルちゃーん、そっちは大丈夫?おっさんに変な事されてない?”

「おいおい超失敬な奴だな、イル、ミサがあんなんになったんはお前のせいだぜ」

「おっさんのせいだろっ、このゴミッ」

「部隊のリーダーをゴミ呼ばわりとは・・・」

辰は唖然とした。もしかして自分はかなり舐められているんじゃないかと内心ちょっと不安に感じた。

”あっはっはっ二人とも仲いいな、まぁあんまり車を揺らすなよ。遠隔操作するこっちが大変やからなぁ”

大森達第三小隊とミサは国道222号の防衛線ぎりぎりのところに停車している第三小隊の改造バスと

無数の鎖で繋がれた改造トラックの中で二人をサポートしていた。

今ドローンを操作しているのは仮想コクピットでVRゴーグルを付けた喜美江である。

”辰隊長、イル隊員、そろそろ焼土地域に入ります。念のため計器関係のチェックを”

喜美江がコクピットでパネルを操作し、様々なディスプレイ計器を宙に浮かべた。

イルは腕に着けたタブレットをなぞり、計器を呼び出しながらサイドウィンドウ越しに下を眺めた。

「いつ見てもなれないもんなんだよな」

辰は細い目をして呟いた。

「すごいよね」

彼らの真下はマグマが凝固したような濃い灰色の粘土質の地面や、そこに埋まるドス黒い無数の砲台や朽ちたミサイル、

鉄と化した対空戦車や装甲車両などいわゆる”大戦の傷跡”が無数に広がっていた。

「ここらへんにも”あれ”落ちたの?」

”ああ、だが都会に比べたら遥かにマシなレベルだけどな・・・こっちは田舎だし”

イルの問いに大森もそうつぶやくとドローンから伝わる映像を静かに眺めていた。

「戦争か、昔子供のころ学校で歴史の戦争教わったときはまさに他人事だったけど」

勢いよくリクライニングを起こし、辰はイルに言った。

「金持ち・権力者達の起こす地獄以外の何でもないよ、俺ら貧乏人にとってはな」

”私たちは大戦が膠着化した後から生まれたからわかんないけどねっ”

無線からミサが不貞腐れながら言った。

”知らんほうがええわ、あんなもんはなぁ”

大森はなんだか少しあきれた様子だった、第五小隊はいつもこんな調子なのかと。


作戦開始より40分余り、いよいよドローンは降下地点目前まで迫っていた。

大森は緊張した面持ちで伝える。

”いいか第五小隊。作戦要綱を再確認する、カネシ、伝えろ。”

第三小隊の配備されているAI・カネシが答えた。

”第五地方自治体連合自警団 第三・第五小隊0911救出作戦 

作戦指揮及び代表・大森次郎 作戦後見人ケツモチは縄文寺弥生本部長

両隊は2200作戦行動開始。

第三小隊サポートによる、大型輸送ドローン運搬にて救出担当・第五小隊はデカンショ街道近郊まで移動。

降下ポイントで”潜入用EV車両を切り離しウイスキー街道を通り廃醸造酒工場へ接近。

工場で籠城する連絡者”夏冬かとう めぐみ”と接見後、救出可能と判断した場合救出。

その後、可能な限りの情報収集後、回収地点まで移動。

2350、回収地点にて再びドローンにて離脱、撤収にて作戦を終了とする”

カネシが作戦要綱を述べると辰がふと気が付いたように大森に言った。

「なぁ大森さん。この”救出可能と判断した場合救出”ってどういう事だ」

”まぁ、阿熊に襲われず生き残っていたらってことなんだろうが―――”

一呼吸入れると大森は

”これは、あくまで俺の推測だが、もしかしたらそいつ大戦前からいる山賊の生き残りの可能性もある”

「はぁ?!山賊ってどういうことオッサン!」

イルは突然の山賊と言う言葉に驚きを隠せなかった。

「大戦前ぐらいのことだ。住宅が密集せずに点在する田舎の住宅、特にじいさんやばあさんがもう一人しか住んでないような家を

付け狙いコロシや強盗によく押し入っていたんだ、そんな奴らが急増してからメディアがそいつらを山賊呼ばわりした。

しかもそれがロクに解決できずに大戦に入ってしまってる。まぁ、俺も大体そんなことだろうと思ったよ。でなきゃ俺らに頼まんし」

辰はそう言いながら持ってきたホバーボードをチェックした。

「噓でしょ?!そんなヤバいとこ行くの」

焦りだすイル。

「まぁ、実際そいつに会ってみてヤバかったら撃ち殺した後、死んでましたやら山賊でしたやら適当に報告してればオーケーだ」

”今のセリフやばいよオッサン、縄文寺本部長も聞いてるんだよっ”

いきなり辰がとんでもないこと言いだすのでミサが慌てだす。

「あほか冗談だよっ。この身が朽ち果てようともっ、作戦に邁進する所存でござーい」

「このオッサンがっ」

イルが辰を肘で小突いた、すると。

バチンッ!!ガタンッ!

「えぇ?」

破裂音のような音共に大きく前に傾く車体。

二人の目の前には車から外れたブラブラと磁力ワイヤーが一本二本垂れ下がっていた。

視点が切り替わり、目前に迫りくる地面に圧倒される二人。

”ふたりとも車体を揺らすなとお伝えしたはずですが”

喜美江が氷のような冷たい声で二人を恫喝した。

そんな馬鹿なと焦りだす二人、高度はまだ数十メートルある。

車体が途端にグラグラと嫌な感じに揺れだした。

”しょうがない、どのみち降下ポイント以外はほどんど藪でおおわれているんだ。

藪に入る前にここで降ろすぞ、ドローンまで落ちたらシャレにならん”

”了解、緊急降下開始”

「マジか大森さん、ウイスキー街道までまだ少し距離がー--」

「おっさん、下見て、下ッ!」

辰は傾いた前のフロントガラスに顔を上げる、

するとちょうど目を丸くしてこちらを見つめる阿熊と目が合った。

「あーあーもうどうするよっ着く前に死んじまうぞ」

そう吐き捨てると辰は軽EV車のエンジンボタンを押した。

「ミサ、スモークグレネード持ってきてるだろっ着地と同時に阿熊のほうに投げろ!」

「畜生っ!」

ミサは素早く腰に付けたグレネードを取り出した。

”切り離しまで5秒前、4,3,2・・・”

”頑張れよお二人さん。ここからが本番だっ!”

喜美江がカウントを開始し、大森がハッパをかける。

”磁力解除、パージ開始”

ワイヤー先端の磁力が解除され、まだ数メートル浮いているであろうところから車は切り離された。

ガコン!ガコン!と数メートルとはいえ地面へ落された衝撃はひどかった。

車のクッションにより車内が激しくシェイクされる、二人は舌をかんだり首が折れないよう身を屈め、しがみ付いた。

タイヤ4輪が無事地面に着くと辰はアクセルを目一杯踏み込んだ。

すかさずイルは横の窓を叩き割り、安全ピンを抜くと阿熊に向かってグレネードを投げつけた。

阿熊が雄たけびを上げるその直前。

「ぐぉぉっ、ぼふっ!」

グレネードは一直線にかつ、正確に、唖然とする阿熊のあんぐりとした口にジャストフィットし、爆発した。

広がる煙を背に、車はヘッドライトを着けることもなくウイスキー街道の森林へと入っていくのであった。


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