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11.居住権


 事務所では澤井が唸っていた。どうでもいいがうるさい。


「うるさい」


 客観的事実を示して止めようとした。


「相談者がいるにはいるんですけど、どうしたものか困ってるんですよお」


「あんたからの相談は業務外だ」


「まあいっか。これお願いします」


 自己解決して手紙を渡してくる。読むと、騒音の苦情であった。


 夜に家鳴りがして困る。障子に人影が映る。確認したが家人のしわざでないから、家鳴りが住み着いてしまっている。追い出したい。


「住み着いているのはいいんですが、住み着いているものが問題と言えば問題ですね」


「何だ」


 澤井にしてははっきりしない。


「人間ですよ」


 この街に踏み入る人間は少ない。斉木は自ら踏み込んで街の主の紹介を受けるという正式な手順を踏んでいるが、たまにそうでない人間もいる。


「住み着くだけなら害はないので、基本は放っておいてるんですよ」


 街には妖怪だの物の怪だのが行き交っている。踏み込んだはいいものの、それらに行き会って気が触れるものもいる。主はそのような人間は無事なうちに還すようにしている、慣れて住み着くものはそのままにする、と説明した。


「今回の人間の方は、住み着いてまあまあ長い方の方でしてね。自分で家を探して住みだしたらしいのですが、その家には妖怪の先住がいまして。お互い知らずに家に同居してたみたいですね」


「どうしてかち合っちまったんだ。どうあれ、道理としては後から来た方が譲るべきだろうな」


「話し合いをしようにも、人間の方は妖怪が見えない性質で話し合いにならないんですよ」



 斉木が通訳として出向くことになった。

 赤子を背負って屋敷を訪ねる。インターフォンを鳴らす。庭園のある大きな家だ。

 家人が中へ案内してくれる。これはどちらのほうだろうか。一見しただけでは妖怪か人間か見分けがつかない。


 座敷に通される。すでに男がいた。眠そうに目をしばたいている。ずっしりとした存在感がある。家人をよく見ると、うすぼんやりとした印象を持つ。眠そうな男が人間だと検討をつけた。


 果たして当たりであった。


 眠そうな男は悪気なくこの家に住んだという。すみかを探していた時に見つけた。人が住んでいるとは思わなかった。無人とはいえ母屋はさすがに忍びなく、倉庫を借りて寝泊りしていた。風呂やトイレは使わせてもらっていたから、大変申し訳ない。このような言い分であった。家人はいまひとつ反応が薄く、確認すると人間の男の姿も声も分からないという。斉木は人間の男の主張と家人の妖怪の苦情を双方に伝えた。知らずに送っていた二重生活にお互いに驚く。どうも、日中に活動する家人と夜勤の人間では生活リズムが全く合っていない。しかも姿はお互いに見えないものだから、お互いをポルターガイストだと感じていたらしい。


 結局、男がしきりに謝ったため不法侵入や迷惑については問わないことになった。

 斉木は、出ていく手間賃として澤井から預かった金子を男に渡し希望を問う。


「元の家に帰れるものなら帰りたいです」


 とのことだった。電話で澤井に顛末を伝える。


「帰り道を用意しましょう。タクシーを呼ぶので行先を伝えてください」


 男は事務所からタクシーに乗った。行先は街の中の住所では無かった。

 タクシーは去り、男は街を出ていった。




 澤井の机には相談の手紙が届く。澤井はそれを読んでいくつかの箱により分ける。

 不採用、の箱に入っている手紙の送り主は、あの屋敷の家人であった。内容を見る。管理人として、手紙を確認するのは自由だった。


 人間が出ていった後、屋敷が荒れて困る。庭の手入れや家の掃除のために男を戻してほしい。


 このような主張だった。


「そりゃあ、無人の屋敷に天井舐めの妖怪が住めばそうもなりましょう。同居の人間は綺麗好きだったようですね」


 澤井はきっぱりと断じた。付き合いきれない。

 家人にとっての座敷童はもう街にはいないのだから。





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