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小さな椅子  作者: 珉砥
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  11月も半ばを過ぎた頃、夜の会合の終わりは10時過ぎは当たり前となっていた。仕事の時もあるが、大抵は女性教諭達の無駄話で終わった。

  1組担任の古橋は妊婦で間もなく産休に入る。棚端は何かにつけてこの古橋を頼りにしていた。自分より10歳上で少し顔も良かったので話をする気になれた。

  3組の赤坂は太めで27歳とまだ若いのかどうなのか、眼鏡の奥の細い目と出っ歯が特徴。この赤坂がよく話をする。ほぼ1人で喋っていると言っても過言ではない。

  4組の成宮はあまり話をしない女性でやはり20代後半と思われた。この成宮女史はなかなか問題のある人で、まず衝撃なのが教員免許を持っていないという噂がある。そんなことが可能なのかどうなのか棚端には分からないが、こんな陸の孤島だから成せるわざなのかもしれない。

  事実ならどういう法律違反なのかは分からないが、もしかしたらと思わせる事件もあった。10月の初めに行われた知能指数の検定テストの際に4組の生徒だけ送られてきた結果が良過ぎるので、学年主任である古橋が棚端と赤坂を呼んでその事実を見せた。棚端も歴然と他のクラスと差が見える結果に驚いた。当事者の成宮を呼んで話を聞いてみたところ、テストに制限時間があるにもかかわらず、児童がすべて解き終えるまで時間を伸ばしたことが判明した。仕方なく2学年はもう一度別のテストで検定する羽目となった。

  「どうやら長谷川先生と白石ちゃんラブラブみたい」

  赤坂の歯は喋るとより出て見える。

  「ハンサムと美人さんだからお似合いね」

  古橋が意外に微笑みながら応えた。真面目そうに見えてもゴシップに興味あるのかと棚端は驚いた。成宮は反応すらしない。棚端も右に同じだ。

  「でも白石先生の方がお姉さんじゃない?」

  と古橋。

  「そうなのよ。2歳年上なの!なんか憧れるわ」

  赤坂も年下狙いなのかと棚端は考えたくも、知りたくもないことを仄めかされてうんざりした。

  「あのカップルもお盛んみたいですよ」

  赤坂は鼻でも鳴らしそうな勢いで言った。

  「谷口先生と奥田先生?」

  すぐに古橋が反応した。本当に好きなんだな、ゴシップ。と棚端は呆れた。

  「あっちも姉さんかしら?」

  赤坂が眉間に人差し指を当てた。メガネが当たって少し下にずれた。

  「いや、確か同い年のはずです」

  「よくやるわね」

  古橋が言い捨てた。黙ってはいたが、棚端は古橋の反応に驚いた。と同時に谷口、奥田両人に何があるのかが気になってしまった。

  「棚端さん何も知らないわよね」

  赤坂が、お前のことなどどうでも良いが教えてやってもよかろうとでも言いたげな顔つきで棚端を見た。棚端は仕方なく小さく頷いて見せた。

  「あのね・・・」

  そう口火を切ると赤坂は得意げに長々と谷口の話を始めた。時折古橋も相槌や補足入れたが、ほぼ1人で30分ほど熱弁した。むろん棚端と成宮は無言を貫いた。

  要約するとこうだ。谷口はサッカー部の顧問をしている渋い感じの男で四国の高知県から、2年前に関東のこの地まではるばるやって来たらしいが、その理由は若い女性教諭との不倫がバレて地元に居られなくなったから。20代の女性教諭も一緒にこの陸の孤島へ来たらしく、この地で結婚もしたという。谷口はどう見ても50近い。もの好きな女もいるもんだと棚端は感心した。

  そんな谷口が懲りずに奥田女史とこれまた不倫関係にあるとの疑惑が浮上している。奥田は棚端から見れば完全におばさんで、魅力も感じない容姿だったので大変驚いた。また、奥田は独身とのことだった。さもありなんと棚端は思った。そして、本当にどうでもよい話を長々と聞かされてうんざりした。

  「凄いわよね!」

  ダメ出しのように赤坂が興奮を隠さず言い放った。ただひたすら帰りたい棚端ではあったが、帰る先は徒歩1分の3畳半一間のボロ教員住宅である。帰りたいわけでもなかった。正確に表現すれば、この場から立ち去りたかった。

  「ねえ、味の民芸行きません?」

  調子に乗った赤坂がそう提案した。棚端には味の民芸がわからなかった。

  「ちょっとならね」

  何故か古橋が賛同した。

  「おうどん美味しいものね」

  古橋の言葉からうどんを食うところなのか、と棚端は悟った。

  「わたしはちょっと」

  成宮の声を久々に聞いた。黙した状態を破った第一声が拒否とは、さすが成宮だと棚端は感心した。

  「棚端さんは行くでしょ」

  赤坂に決めつけられて、棚端は渋々頷いた。とは言え、給食以外まともな食事もしていないので、たまには外食も悪くないかとは思った。

  「その店どこにあるんですか?」

  棚端は近所を探索する趣味もないので、そのような店舗を見かけたことがなかった。

  「街道沿い。車で5分くらいよ」

  赤坂は当たり前のように言ったが、棚端は驚いた。

  「車?」

  「古橋先生の軽よ。知らないの?」

  「棚端さんは家がすぐだからわからなかったのよ」

  古橋が赤坂にそう言うのを聞いて、棚端は自分に呆れた。夜遅くまで残っていたとはいえ、いかに素早く帰路についていていて、他の先生の帰宅に関していかに無関心だったかを思い知った。

  それにしても、

  「大丈夫なんですか?おなか」

  棚端は本気で心配した。

  「うん。シートベルトしないし」

  古橋はあっけらかんと言い放った。

  「うーん」

  やはり呆れる棚橋であった。

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