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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割
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第六十八話 広がる異変




 朝を迎えて、クルセイダースは活動を始める。

 ここ数日は昂による混乱もなく平時が続いている。だからこそ、何が起きてもいいように島全体の把握を進めている。


「あれ?」

「どうかしたの?」


 違和感に気付いたオペレーターが首を傾げる。


「少しだけ、大気中の魔力散布量が多いのよ」

「どれどれ? ……うーん、でもこのくらいなら誤差の範囲じゃない?」

「そうだよね。戦闘も起こってないし、永遠桜に異常も起きてないし」


 隣の席のオペレーターと話合い、異常なしと判断する。

 何も起きないのはいいことだ。出来ることなら、このまま平和がずっと続けば良いのに。


「おはよう。問題は起きてる?」

「おはようございますユリア様! 異常ありません!」


 打ち合わせを終えたユリアが本部に戻ってくると状況を確認する。

 机の上には報告書が山のように積み重ねられている。三つはある書類の山に目を通し、必要書類に捺印しているだけで彼女の午前中は潰れてしまうほどだ。


 オペレーターたちも先ほどの観測結果を印刷し、ユリアに提出していく。

 ユリアの処理速度は早い。慣れた手つきで書類を手に取り速読する。


「……あら?」


 違和感。それは先ほどオペレーターが抱いた違和感と同じモノだ。

 星華島は世界中の龍脈が集う場所で、他の場所よりも魔力が濃い。

 この数値が誤差の範囲内と言われれば、納得も出来る。


 けれどユリアにはどうしても、この魔力量が誤差の範囲だとは思えなかった。


「…………帝王襲撃に近い魔力量。でも《ゲート》の反応もない。戦闘もない。篠茅昂が潜んでいる為、必然的に島で行使される魔法が普段よりも多くなる。だから誤差、と断言することは出来る。でも違う。何でかしら。酷く嫌な予感がする」


 ユリアの慧眼は的確なものだった。

 確かな言葉に出来なくとも、その違和感を見逃すような性格ではなかった。


「《ゲート》……。《ゲート》から何かしらの反応はある?」

「《ゲート》ですか? 完全に沈黙してます!」

「《ゲート》は沈黙。じゃあ《侵略者》が来るわけではない。……じゃあ、何? この違和感は……」


 肩を叩かれたような、気がした。

 振り向いてもそこには誰もいない。けれど、確かにそこに誰かがいたような気がした。

 気のせい。そう、気のせいだ。

 だってそこには誰もいない。魔力反応も何もないのだから、そこに人がいるわけがない。


 ユリアが不意に思い出したのは、闇帝インウィディアの憎らしい笑顔だ。

 自由自在に《ゲート》を繋げ、本部に直接乗り込んで来た帝王。


「……っ。大気中の魔力濃度が高いポイントを算出して! 誤差の範囲で、とにかく高い地点をピックアップ!」

「え、は、はい!」


 ユリアの突発的な指示にオペレーターたちも対応する。即座に行動出来るのは長い月日を共に戦ってきたからか、算出されたデータが次々とユリアのパソコンに送られてくる。


「解析へ繋いで。今から送るデータを元に、観測の平均値から溢れた魔力量がどれほどあるか、そして魔力濃度が高いポイントを起点として何か起こっているかリアルタイムで観測を!」

「了解です!」


 本部がせわしなく稼働する。ユリアの指示に従い、大型モニターに集められたデータが表示される。

 星華島の全体図と、点在する魔力の濃い地点。


「現地に異常はないとのことです!」

「ちょっと待って。この場所は……」


 魔力濃度が高い場所は、全部で七箇所。

 星華学園校庭に二つ。東海岸及び西岸壁に二つ。

 そして以前のクルセイダース本部があった場所。


 それらの場所には、共通点が存在する。


「帝王との交戦場所……偶然じゃない。何かがある。何かが――」


 ユリアは思考を巡らせる。《侵略者》の襲来でないとすれば、何が起こるのか。

 篠茅昂。けれど彼は《ゲート》を使用して襲来してきたが、以降ゲートを使用した形跡は見られない。

 別の《侵略者》でないとするのなら、つまり、『内側』から。


「昨日の見回り組は!」

「水原さんと斉藤さんです。監視は石動さんです!」

「彼らと連絡は!」


 すぐに指名された三人へ向け連絡が送られる。


「石動さんからは異常無しとの連絡が!」

「っ……水原さん、斉藤さんは繋がりません。石動さんへ再度連絡を!」

「石動さんから『一瞬寝ちゃったみたいだけど二人ともなんともなかった』とのことです!」

「具体的な時間を報告させて!」

「多分十五分も寝ていないと!」

「充分過ぎるわよ減給処分!!!」


 ユリアが机を叩き、緊急用の端末を取り出した。それはクルセイダースへ繋がる端末ではなく、リベリオンを呼び出す為の専用端末だ。


「黒兎、起きてるわね。リベリオンを緊急出動させて。黒兎、春秋、仁、奏で。今から送るデータのポイントに調査に向かって! それとシオンやオリフィナに水原祈、斉藤拓哉の捜索をさせて。篠茅昂が動いた、と言えばわかるでしょ!?」


 通話先の黒兎からすぐに『了解した』と返事を貰うとユリアは次いで指示を飛ばしていく。

 最優先事項は二人の確保だ。そして、こういう時こそ篠茅昂が行動するのはわかっている。


「水原祈、斉藤拓哉、篠茅昂の捜索を最優先にして! 目的がわからない以上、発見してもリベリオン到着までは監視だけに止まって!」


 焦った顔つきでユリアが椅子に座る。戦えない自分だからこそ、冷静になって考えなければならない。

 現場での対応は黒兎と春秋に任せれば問題ない。

 自分は自分に出来ることをするだけだ。


 ――戦えない自分に歯がゆさを感じたことはいくらでもある。

 それでも、頼れる仲間がいる。彼らを死地に送る覚悟はいつも重い。

 信じるしかないのだ。信じられるほどに、彼らは強い。


「水原祈……篠茅昂に唆されたとして、あの子は何を考えて何を求めるの? 考えなさい神薙ユリア。考えることこそ私の戦場よ……!」


 クルセイダースの隊員たちのプロフィールは全て頭に叩き込んでいる。

 彼らの思想は島を守ることだが、細かい部分で違う。

 どんな思いで戦うことを決意したのか。


 シオンは憧れた黒兎と春秋に自分を認めさせる為に戦うことを選んだ。

 じゃあ、水原祈は?


「戦うことを望んでいるようではない。……彼女の目的は、《ゲート》? 《ゲート》は私たちではまだ使うことの出来ないオーパーツ。わかっていることは、如何なる世界にも移動することの出来る……」


 ユリアの中で出てきた選択肢は二つ。

 水原祈が《ゲート》を使う、という前提で導き出した推測だ。

 この魔力濃度とポイントからして、《ゲート》以外の目的は敢えて切り捨てる。


 一つは異世界への旅路。

 春秋と同じように、何かを求めて世界を旅する。


「違う。彼女は島を守ることを誓った身。たとえ篠茅昂に唆されたとしても、島を捨てることは違う気がする」


 じゃあ、もう一つは?


「あり得るとしたら……いえ、違う。春秋。そう、春秋なら!」


 ユリアは自分が導き出した推論に肉付けする為に春秋へ連絡を取る。

 春秋はすでに目的地である星華学園校庭に到着し、周囲を警戒していた。

 ユリアは端的に、知りたいことだけを尋ねる。


「春秋。《ゲート》は死者の世界に行けたりもするの?」


 春秋の返答は、ユリアの推測を確信にさせるものだった。

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