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空想のリベリオン  作者: Abel
第二章 英雄の真実 背負わされた役割

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第六十七話 混沌を広める者




「違う、やめろっ。私は、そんなことを考えていないっ!!」


 クルセイダースに所属する少女、水原祈が悲痛な叫び声を上げる。

 けれど祈の声は誰にも届かない。

 夜遅い見回りの時間を狙われた。


 本来であれば、夜半の見回りは二人一組で行う。

 さらにもう一人、見回りの二人を見守るように監視の人間が配置されている。

 それは篠茅昂の危険性を考慮し、発生した異常にすぐに対処する為だ。


 けれどそれらの対策は無意味となってしまった。


 祈の相棒となる少年は拘束され、身動きが取れない。

 二人を監視する隊員は離れた場所で意識を失っていた。


「やめるんだ篠茅昂、こんなことをしてもすぐにリベリオンの、黒兎先輩が――」

「二つ、神薙ユリアは誤解している。俺を見くびっている訳ではない。確かに計三人の配置なら俺の襲撃に対応出来ただろう。だがな、こればっかりは俺も用心してる。何しろ俺の計画の要だからな。プライドを捨てて万全を期す必要がある」


 少年の声を無視して昂が祈に視線を送る。

 昂よって自らの『本音(あくい)』と向き合わされた祈は必死に自分自身の言葉を否定する。


「水原祈。お前は何も間違ったことを考えていない。お前はまだ幼い子供なんだ、そんなお前が両親を求めるのは当然だろう? 大人を失い、大人として生きなければならなかったクルセイダースのお前たちは、それでもまだまだ子供なんだ」

「会いたい。違う、だって、お父さんはもう死んじゃって、お母さんも……!」

「死んだからどうした? 死別程度でその思いを捨てるのか? |死んだ人間に会える方法・・・・・・・・・・・を教えてやるよ」

「違うっ! お前の言葉は毒だ、私を狂わせる毒だ! 死んだ人に会えるわけがないし、私を裏切らせようとしているだけだ!」

「そうだな、毒だよ。でもよく考えて欲しい。死者でもいいから会いたいだなんて、常識を捨てなきゃ叶うわけがない」

「やめろ、やめろ、やめて……!」


 口元を歪ませた昂がナノ・セリューヌを操作する。造り上げるのは漆黒のリング。

 シオンに装着させ、彼女の思想を歪ませた首輪と同じモノ。

 それを見た隊員が叫ぶ。拘束されてもなお、昂へ向けて懸命に手を伸ばす。


「水原っ! 俺たちは明日を守る為に大人になることを望んだんだ。俺たちの選択は、何も間違っちゃいない。死んだ父さんたちに、情けない姿は見せられないっ!!!」


 隊員の言葉は祈へ差し出された救いの手だ。その手を掴むことが出来れば、きっと祈は過ちを犯さなくて済む。

 けれど現実として、隊員の手は祈に届かない。


「お前の望みを肯定しよう。想いのままに、成すべきことを成せ」


 そして祈の手を掴んだのは昂だった 

 戸惑いよろける祈の手を取り、祈と見つめ合う。


 瞬間、祈は見た。昂の物憂げな表情を。悲しげに伏せられた目を。


 何で、何で、何で。

 頭に浮かんだ疑問の答えも見つからず、漆黒のリングが左手首に装着させられた。


「――――!」


 思考が歪む。自分の選択は間違ってないと信じ込む。

 目の前の昂は敵ではなく、自分の望みを手伝ってくれる同士なのだと理解させられる。

 声が出ない。けれど、


 "まだ自分は幼い子供なのだ。責任を背負える訳でもない。島を守るしか選べなかった"


 "自分はもっと、もっと、もっと――家族と一緒に過ごしたかった"


 "お父さんと、お母さん。会いたいよ。会って、謝りたいの"


 そして祈の迷いが晴れる。スッキリした表情で、祈は手を掴んでいた昂に握手を求める。

 昂は嗤いながら握手に応える。


「それで、どうすればお父さんに会えるの?」

「簡単だよ。《ゲート》だ。《ゲート》はあらゆる異界と繋がっている。それは死者の世界も例外ではない」

「それじゃあ、《ゲート》を起動出来れば!」

「そうだよ。死者が向かう世界――天獄。そこに迎える」


 昂から提示された方法に目を輝かせる。

 どうして思い付かなかったのかと毒づき、楽しげに笑った。


「《ゲート》の起動方法も教えてやる。だからお前は、天獄の門を開き家族と再会しろ」

「ありがとう、篠茅さん。私、私……!」

「いいんだよ。失ってしまった人に会いたい気持ちは俺にだってわかるから」


 感極まって昂の手を抱きしめる。瞳から大粒の涙を零し、何度も感謝の言葉を昂に告げる。


「《ゲート》の起動には入念な下準備がいる。お前の目的を達成するまで、俺は島に危害を加えないことを約束しよう。俺の目的の一つは、お前の願いを叶えることなんだ。俺を信じて、俺の教えた通りに動いて欲しい」

「ええ、わかったわ」


 希望(狂気)に満ちた瞳で祈は夜空を見上げる。


「さて、待たせたな」


 昂の視線が隊員に向けられる。

 びく、と身体を震わせる隊員だが、それでも必死に昂を睨んでいる。

 隊員と視線を合わすように昂はしゃがみ込んだ。

 暗がりで怪しく光るオッドアイは、まるで全てを飲み込んでしまいそうなほどの闇の瞳。


「お、俺を殺したらすぐに異変に気付いたリベリオンが動く! だ、だから――」

「違うよ。俺はお前と会話がしたいんだ。お前が心の底で思っていることを、俺に話して欲しい」


 昂の言葉は毒だ。人を狂わせる言葉こそ、クルセイダースにとって脅威となる。

 隊員は心を強く持つ。水原祈の二の舞にはならないと、鋼の決意を心に刻む。


「何を! 俺は島を守る為に命すら捧げるのみ! 島を裏切るなんてこと、絶対にしない!!!」

「そうか。じゃあ焦らす必要もないか」

「え? がっ――――」


 問答無用で、昂はリングを装着させた。不意を突かれた隊員は咳き込むながらリングを掴んで壊そうとする。


「この"ギア"には使い方が二つある。『欲望の増幅』がメインの機能だが」


 ちらり、と祈に視線を送る。手首に装着されたリングを撫でながら微笑む祈は、もうクルセイダースを裏切ってしまった隊員だ。


「一つは欲望の後押し。時守シオンや水原祈といった、心の願いを引き出した上で後押しする機能。そしてもう一つは」

「な、んだよこれ。違う、俺は、俺はこんなこと考えていない――……!」

「心の奥底に眠る欲望を、こじ開ける。……まあ、精神的にキツイからあんまし使いたくなかったんだけどな。悪いな、死にはしないから我慢してくれ」

「あ、あ、ああああああああ!!!」

「大丈夫よ、あなたも自分の心に素直になるの。私たちで彼に協力しましょう? そうしたら、私たちは願いを叶えられる」


 祈の言葉が毒となる。

 ギアによって封じ込めていた思いが引きずり出され、間違いを選択させられる。


 昂の毒と、祈の毒。そして、ギアによる欲望の解放。

 三つの呪いが隊員を蝕む。抗うことの出来ない感情の暴走に、隊員は遂に屈してしまう。


「俺は、俺は俺は……!」

「俺は、お前たちが見回り組になるのを待っていたんだ。お前たち二人の願いこそ、俺の計画を叶えるのに適しているからな」


 隊員の拘束を解く。彼はもう敵ではない。

 祈以上に、強制的にクルセイダース裏切させられた。


 二人の協力者を手に入れた昂は、満天の夜空を見上げて嗤う。


「さあ、もっと"大人"に頼ろうじゃないか。お前たちは被害者で、救いを求める子供なんだから!」


 狂気と混沌が、再び星華島に満ちようとしている。




 ――――――――そして、三人を見つめる存在が一人。


 銀の髪。碧の瞳。月夜にて輝きを失わない可憐な少女が一人。

 冷たい瞳で祈を、隊員を、昂を見つめ。

 胸に抱いていた本を開き、状況を記載していく。


「篠茅昂により、クルセイダースと思われる隊員二名の離反を確認。目的は不明。けれどこれは……」


 腰に差していた三本のクナイに手を伸ばす。


「今なら、間に合う。今なら、油断している今なら、彼らの命を奪うことが出来る。けれどそれは指示にない。ワタシの仕事ではない。けど」


 少女は唇を噛み、歯がゆい思いを内に秘める。

 冷めた瞳で、感情のこもらぬ表情で、けれど少女は確かに胸の内に激情を抱いていた。


「全ては、マリア様の為に」


 祈るように少女が呟く。

 願うように少女が呟く。

 呪うように少女が呟く。


「ユリア様を守る為に。マリア様の願いの為に。我らはシャンハイズ。神薙の為に、命を捧げる」


 少女は闇夜へ姿を消す。その存在は、誰に気付かれることもなかった。

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