セシリア・ウィンスター
閑話です。
気が付くと、白い天井が見えます。寝かされたのは簡易ベッドのようですが、清潔なシーツと布団が使われています。
一瞬自分がどこにいるのか分からなくてパニックになりますが、意識を失う前の記憶がじわりじわりと思い出されてきました。
そうです。私はクラウス様のお怒りによって発された威圧に、耐えることが出来ずに気を失って……。
「不甲斐ないです」
悔しさのあまり、目から涙が溢れてきます。それさえも悔しくて、自然と出てくるしゃっくりを抑えたいけれど、苦しくて、辛くて。
「う、ひっく、うぇ……」
クラウス様、クラウス様、クラウス様……。
叶わぬ想いなのは分かっています。だからお側にいるだけでもと、そう思っていたのに……。
「それさえも、ひっく、叶わないのですね……」
ここにいるのは私だけということは、ギュンター様、オルフェウス様はもちろん、マイコちゃんもついて行けたということです。
なぜ、とは言いません。だって私はマイコちゃんの頑張りを知っていますから。
右も左も分からない所で、ただクラウス様のためだけに頑張ってきたマイコちゃん。
それに比べて私は、高位の司祭であるお父様が側にいてくれていたにも関わらず、神聖魔法を高める修行を始めたのは最近です。クラウス様に出会ったのは何年も前なのに、です。
『セシリア、君には神聖魔法を極めて欲しい。回復に特化した存在がいるのといないとでは戦力的に大きく違う』
以前クラウス様が仰ったことを思い出します。その時は分かっていたつもりでした。
ですが、私が今この状態であるということは、クラウス様のお言葉を「本当の意味で」分かっていなかったということでしょう。
どんどん落ち込む私でしたが、不意に強い存在を感じ取りました。
「入らせてもらうが、良いかの?」
力ある声が聞こえ、私は慌てて「大丈夫です!」と返すと、入ってきたのは竜族の長様でした。
長様に対して失礼かと、私は起き上がろうとしましたが、起き上がれません。
「良い。そのままで居れ」
「は、はい」
どうやら何か力を使われたのでしょう。修行不足の私には上手く感じ取れず、尚更落ち込みます。
「ふむ。お主はどうやら落ち込んでいるようじゃが、なぜじゃ?」
「え? ええとそれは、自分の努力不足を痛感しておりまして……」
「努力が不足、のう。では、その努力がどれくらいあれば良かったのじゃ?」
「そうですね。せめて先ほどのクラウス様の威圧で気を失わない程度には……」
「なるほどのう。ではその威圧はどれくらいの努力で退けられるのじゃ?」
「それは……」
長様の問いに、私は答えられません。先ほどのクラウス様はたいそう怒ってらっしゃいました。温厚なクラウス様ですから、あれほどのお怒りを今後出されるのでしょうか……。
「あれをどうにかしようなぞ、神官見習いであるお主には到底無理な話じゃ」
「そんな! オルフェウス様はともかく、ギュンター様やマイコちゃんは大丈夫でしたのに!」
「あの水色の男子を精霊が守っていたし、女子は影に入り込んだしのう」
「ええ!? ギュンター様もマイコちゃんずるい!!」
「ほほ、そのずるさで危険を回避出来るのであれば、それはそれで良いのではないか?」
私はハッとしました。そうです。長様の言う通りです。
どんな方法でも、生き残る手段があるなら使うべきです。神聖魔法を極めるようにと言われて、ただ闇雲に神聖魔法をだけを高めようとしていましたが、クラウス様について行きたいのならそれだけではダメだった……。
「そういうことですか」
「ふむ。良い顔になったのう」
「長様、ありがとうございます。私は確かに努力不足でした」
「我は何もしておらぬよ。励むが良い」
「はい!!」
長様が出ていかれた後、私は再び考えます。
今の私がクラウス様について行っても、きっと足手まといになります。
お父様に言われたとはいえ、私がクラウス様に仕えているのは、あの方の憂いを断つためです。あの方の一助になるためです。
その私が憂いとなっては元も子もありません。
「まずは、クラウス様がご無事に戻られるのを待ちましょう」
心に一つの決意をした私は手を組み、そこから長い時間神々に祈りを捧げるのでした。
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