指導方法
則夫が指導する練習日の最終日、ここ数日走り込みから始まる練習が毎日だった。則夫が来る前から走り込みはしていたものの、アップ程度の軽いものだった。
「上地先生は優しいからなぁ。一年生にはまず慣れさせることから始めたかったんだろうなぁ」
練習を見ながら呟く則夫。確かに上地の指導は丁寧で、まずはレスリングの楽しさを知ってもらおうとゆうような教え方のようだ。
それも間違ってはいないと則夫は考えている。レスリングに触れたことがない少年達にレスリングを教える際、その楽しさを知ってもらう。競技人口が少ないレスリングを広めたいという気持ちの表れだろう。だからこそ技を早い段階で教えるのだ。
ただその技を扱う土台、体を作り体力をつけさせることでその技の成功率を上げ、技を連続でしかけても試合の最後まで持たせるスタミナをつけさせることも大事だ。
地味できつく、時間がかかるこの作業をおろそかにすると地力の差で負けてしまうことになる。だから早い段階でこういった練習を始めなければならない。だがこの練習で心が折れてしまい、部活を辞めてしまう者もいる。
「だけど今年の一年生は、なかなか良いの揃ってるじゃないか。大丈夫でしょ」
入部してまだ日が浅い鏡也、帆億も過去の部活で基礎練習を乗り越えてきた。もちろん海生もだ。
紀之は帰宅部だったらしいがなんとかついて来れている。
基礎練習を、おそらく全員乗り越えることが出来るのではないかと則夫は思った。
「もう俺無理です。死にそうです」
三年生の武光だけは大丈夫そうではなかったが、もう三年生だしいっかと割と投げやりに考えている則夫だった。
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則夫が来てからの練習で、海生は飛行機投げが決まるようになってきていた。
とはいえ練習相手は一年生と則夫だけなので、二、三年生や幸隆が大会から帰ってきたら相手をしてもらい検証したい。ちなみに武光とは階級が違い過ぎてスパーリングはあまり練習にならないためやっていない。
「帰ってきたらいっぱい練習相手になってもらおうっと」
幸隆が帰って来たあとのことを考えながら、最後のスパーリングを終えると、ダウンで軽くマット内を走り、ストレッチをして練習を終えた。
「はい! では数日間ですがありがとうございました! 今後の練習も基礎練習を怠ることなく続けてね!」
うぇーという落胆の声も聞こえるが、気にせずハイテンションで話し続ける則夫。
「基礎錬は地味だしきついし、やりたくない練習だろうけど、君達がこれから勝つうえで最後に支えになってくれる大事な練習だ! だから嫌だと思うけど頑張れ!」
言っていることはもっともだと皆わかっているので、則夫に反論するものはいない。
「ありがとうございましたっ」
部員全員で最後に挨拶をして則夫を送り出す。海生も則夫に感謝の気持ちを込めて別れの挨拶をし、飛びついてエルボーを喰らわせた。
「なんで!?」
練習の初日のように何か理由があるわけではないエルボーに、則夫は海生に驚きの眼差しを向ける。
「いやぁやっぱりこういうのがしっくり来るなぁと思って」
取っ組み合いの絡み合いをしながら則夫が指導する最後の練習は終わった。




