九州大会と練習
九州大会~熊本~
団体戦、通天高校は勝ち進んでいた。現在二回戦の勝利を収めている。ただ勝ち進んではいたものの、団体戦メンバーで唯一の一年生である幸隆。一人だけこの大会で一度も勝つことは出来ていなかった。
「くそっ」
先輩方は勝てているのに自分だけ勝てない悔しさに、唇を噛みしめる幸隆。まだレスリングを始めて四カ月。県予選を突破してきた上級生が蔓延るこの大会で、勝てないのは当然のことなのだが、幸隆自体はどうは思ってはいない。そんな中悔しそうな幸隆に二年生の康太が声をかけた。
「幸隆、正直この大会でお前は一勝も出来ないと思うよ?」
その言葉に過敏に反応し、康太を睨みつける幸隆。相手が先輩であっても、その姿勢は変わらない。
「別に嫌味で言ってるわけじゃなくて、実力差がありすぎるんだ。この大会で戦っててわかっただろ? お前には経験も技術もまだ足りてない」
もっともな言葉に反論できない。いくらセンスがあると言ってもそれだけで一年以上の経験の差を埋められるほどレスリングは甘くない。個人競技のレスリングは、チームの仲間の力を借る事が出来るというバスケットボールや団体競技とは違うのだ。
「だけど、力の差があるって事は吸収できることも沢山あるってことだ。俺らが勝ち続ける限り団体戦は続く。お前はその中で、盗めるだけ相手から技や技術を盗め」
それが強くなるための近道だと康太は言った。その話を聞いて幸隆の目の色が変わった。勝つためではなく強くなるための糧として、この大会を考える。この大会で吸収出来るものをすべて吸収して持ち帰る。そう考えると心が軽くなった。
「ありがとうございます康太先輩。でも一つだけ言わせてもらいます」
表情が柔らかくなり、康太に感謝の気持ちを伝えながら、闘志をむき出しにする幸隆。
「出来るなら、勝ってしまっても良いんでしょう?」
笑顔でそう言った。
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一方沖縄では基礎練習、筋トレがメインの練習が続いていた。
筋トレは筋肉が回復するときにもう一度筋繊維を壊すことで、通常よりも多く筋肉がつく超回復を使うために、一日ずつ日をあけて行う。
「腹筋、背筋、腕立て、懸垂一セット終わったら続けて二セット目いくよー はいそこ休まない! 使っている筋肉は違うはずだから休まずに出来るはずだよー」
筋肉を使う箇所が違うため、休まずに続けられるというのが則夫の言い分だが、息が上がっている部員達はなかなかペースがあがらない。
「海生、お前の伯父さんの練習きっついんだけど」
「教えてもらうのは初めてだから俺も知らなかった。練習終わった後にぶっ飛ばそう」
教えてもらっている立場の海生がそんなことを言うのは駄目な気がするが、則夫との仲が良い証拠でもある。ただ、練習が終わった後に本当にぶっ飛ばす気力が残っているとは限らない。




