幸隆がいない間
次の週になり、紀之が補習を終え返ってきた。半べそを掻きながら。
「戻って来れないかと思った……」
大袈裟だなぁと笑い飛ばす海生に、
「いやもう量が半端ないの。終わらないかと思ったんだよ」
と呟いていた。
入部した帆億と鏡也に軽く挨拶をして練習に合流する紀之。久しぶりの練習で張り切っているようだ。
そして練習が終わり、顧問の上地が部員全員を集めてミーティングを始めた。
「来週から九州大会で熊本に行くことになる。団体戦に出ていたメンバーと、各階級で一位になった者は準備をしておくように」
幸隆と二三年生は来週から九州大会で沖縄を離れることになり、練習はほぼ一年生だけで自主練になる。唯一残る上級生はというと。
「うん! 実は俺だけ残るんだよね」
三年生の120㎏級、武光だけは団体戦にも出ておらず、一位にもなれなかったため残ることになる。
「あっでも君達の練習のために実はある人を呼んであるんだ」
上地が思い出したように告げる。誰なのか見当もつかなかった。
「比嘉則夫さんて言うんだけどね。通天高校のOBなんだ」
「え?」
海生は聞き覚えのある名前に目を白黒させる。上地は海生の方を見て頷いた。
「そうだね。海生の伯父さんだね」
来週から海生の叔父さんが通天高校にやってくる。
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「海生久しぶり!」
「伯父さぁーん!」
翌週になり道場にやってきた則夫。髪型はオールバックで、小太りの則夫。入口から入ってきた則夫に駆け寄りハグの姿勢に入る海生。
そしてそのまま則夫の顔にエルボーを喰らわせた。
あがっと妙な声をあげる則夫。
「ぬーそーが海生」
※なにするんだ海生の意
「いや勝手にレスリング部に入ることにされてたからさ! 今度あったらぶっ飛ばそうって決めてたんだ!」
久しぶりの再会をエルボーで果たした海生。納得行かないというような顔をする則夫。エルボーを決められた時に発した言葉は沖縄の方言だ。
「でもレスリング部入ってよかっただろ?」
「それとこれとは話が別」
笑顔で返す海生にやれやれという顔で受け入れる則夫。そして他の部員に挨拶をする。
「これから数日間だけ君たちの練習を見る比嘉則夫だ! 海生のに伯父あたるけど、そこんとこは気にせず何でも聞いてくれ」
そういう則夫にさっそく海生が質問をする。
「伯父さんこんな時間から練習見に来るって仕事どうしたの?」
はっはっはと豪快に笑った後則夫は笑顔で言い放った。
「いや会社倒産しちまってな?」
「レスリングしてる場合じゃないだろあんたっ!」
海生は今まで練習でさえ出したことのない大声を上げた。




