上級生に勝つためには?
50kg級の個人戦は、匠が順調に勝ち進み、もう一度護とあたることになった。試合結果は1ラウンド取ったもののポイント差での負け。匠は個人戦では二位となった。ただ、個人戦での匠は技を駆使する、今までの通りの戦い方を取り戻していたように見えた。
紀之も50kg級だったが、普通に全試合負けた。
そして55kg級の試合が始まる。
幸隆は悩んでいた。未だに上級生、二年生以上の相手に勝てたことがない。レスリングを始めて三ヶ月ほどしかたっていないのだから当たり前だとも言えるが、幸隆にとってそんなことは問題じゃない。
「どうにかして勝ちたい。ただそれだけの力はまだ俺にはないのか?」
いくらセンスがずば抜けているとは言ってもまだ一年生。一年以上長くレスリングを続けている先輩達に公式戦で勝てるほど甘いものではない。
だがどうしても勝ちたいのだ。理屈ではなく気持ちで。
そう考えていると海生が声をかけてきた。
「幸隆にしては珍しく自信なさげな顔に見えるよ?どうした?」
そんな顔をしていたことに自分では気づかなかった。人に指摘されてはじめて気づいたその事実に顔を下に向けてしまう。
「いや……上級生に勝てる方法はないかと考えていたんけど、思いつかなくてな」
自分の心情を吐露する幸隆。何故か思っていたことをすぐに打ち明けることが出来た。自分はこんなに素直な正確だっただろうか? 何故か海生には気兼ねなく話すことが出来た。
「わっ! 凄いねもう先輩方に勝つ事を考えてたんだ?」
素直に驚く海生。幸隆らしいといえば幸隆らしい話に凄いと感じながら、幸隆が考えていた問題の答えを自分なりに考えてみる。
「上級生全員に勝とうと思うと難しいかもしれないけどさ、ある特定の人に勝とうと思ったら可能性あると思わない?」
「ある特定の人?」
「うん。団体競技だとさ、大会であたるチームの事をビデオに撮ったりして相手のことを研究して弱点を探したりしなかった?」
幸隆も中学の時まではバスケットボール部で練習していたのでその経験はある。確かにビデオに撮って相手を分析したことはあった。
「レスリングの個人戦は総当り戦だし、特定の個人の試合を観察して、弱点を見つけることが出来ればそこを攻めてみるとか。まぁ試合順もあるからそう簡単に行くとは限らないけど」
なるほど。今回が初めての大会で、色々な別のことを考えていて頭がそこまで回らなかった。中学までやっていたことが頭から抜け落ちていた。軽量級は人数が多いので、試合を見ることが出来る回数は、必然的に多くなるはずだ。
海生のこのアドバイスは、完全に的を外しているわけでもないのかもしれない。
「ありがとう海生。ちょっと自分の試合が回ってくるまでの間、同じ階級の試合見てくるわ」
糸口を見つけた幸隆は自分の試合が始まるまでの間、他の試合を見ることに専念した。




