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R-side 04

/R-Side.



 俺の日常は変わらない。

 朝起きて、母さんと朝食を取って、学校に行く。

 何も変わらない。

 でも、その日々に何か物足りなさを感じる俺もいた。

 何か大切なピースの欠けたパズルの様な、そんな毎日。

 おかしな夢もずっと見ている。何もない『荒野の夢』。それ以上は何も思い出せない不思議な夢。あの夢はいつから見ているだろうか? ずっと見ている様にも感じるし、そうじゃない気もする。ただ、確かなのは、今は何よりその夢が何なのか、それが一番気になっていた。

「ねぇ、ほのか、あの噂知ってる?」

「『あの』と言われも、どの噂?」

「ほら、ここ最近ネットで話題の『願いの叶うサイト』って奴!」

「……いや、さも私も知ってるみたいな言い方だけど、私は聞いた事ないけど?」

「なんだそれ?」

「え? 灰兎君興味あるの?」

「いや、別に?」

 目の前で不思議な会話が繰り広げられていたので、思わず言葉を挟んでしまったが、女子ども(名前は残念ながら分からない)に随分と驚かれてしまった。いや、そんなに驚く事か?

「なんかね、話題になってるんだよ。誰もそのサイトにアクセス出来ないんだけど、アクセス出来れば願いが叶うんだって!」

「いや、アクセス出来ないなら、何で願いが叶うって分かるんだ?」

 良くあるオカルト系の噂の様だが、根底が間違っている様だったので思わずツッコんでしまった。『アクセス不可』なら、『誰の願いも叶わない』筈だ。『願いが叶う』のなら、それは『アクセス可能』という事にならないか?

「あ……」

「なんか、ガセネタッぽいわね……」

「えぇ~っ!! ほのかまでそんな事言わないでぇ~っ!!」

「だって、月夜野の言う通りなんだもん」

「えぇ~」

 別に俺は『そんなサイトないだろ』とまでは言ってないんだが。可能性としては、『ありはするがアクセスが非常に困難だ』と言う場合や、女子の片割れが言うように『元々存在せず噂だけ』と言う場合が考えられるかな? とか考えながら、なんだか、『ある』『ない』でもめるクラスメイトを眺めていたら、今度は後ろの席の奴に声をかけられる。

「お前がクラスの女子と話すなんて珍しいよな?」

「そうか?」

 なんともリアクションに困る言葉を頂いた。俺ってそこまでクラスメイトとのコミュニケーション少なかっただろうか? 思い返してみるが、確かに普段から女子とのふれあいは少なかったな。まぁ、俺みたいな重度のマザコン(一応自覚はあるのだ。人に言われるのはムカつくので嫌だが)、女子も気味悪がって話なんてしたくないだろうが。

「灰兎アレから少し変わったよな?」

「アレから?」

「うん、ほら、前に入院したろ? アレから少し変わったよなって話」

「ああ」

 それはつい最近とも言えない事はない出来事。最近と言えば最近だし、それなりに前と言えばそれなりに前だ。

 依然俺は結構大きな病院に入院した事がある。確か半年ほど前だ。コイツはそれ以降とそれ以前では俺が変わったと言う。つまりはそう言う話だ。

 暫くの間の入院中、きっと暇で仕方なかった俺は色々考えたのだろう。下らない事も大事な事も、その期間で俺に何らかの変化があったとしても、別段おかしくは無いとは思う。

「変わったか?」

「うん、変わった」

「そか」

 周囲に『変化』と捉えられる様なら、それは変化したという事なのだろう。俺自身は変わったつもりは無いのだが、周囲にそう見えるのなら、俺自身の気付かない所で些細な変化をしているのかも知れない。それは俺には分からない変化かも知れないが。

「月夜野先生も変わったよな?」

「母さんが?」

「お前また叩かれるぞ?」

「いや、それも母さんなりの愛情表現だろうよ」

「歪みないな」

「歪んでねぇなら問題ないだろ?」

「いや、歪んでるなって意味」

「何だそれ?」

 日本語は正しく使って欲しい。いや、母さんに言わせると『言語と言うのは時代と共に変化していくものですから、正しい日本語と言うものは存在しないかも知れません』という事になるらしい。

 しかし、母さんが変わったとはどういう事か? 俺の目から見て、母さんに変化があるようには感じていない。母さんに関しては、俺は誰よりも見ている自信があるのに。周囲が気付くような変化に、俺が気付けない訳が無い筈だ。

「かあさ、いや、月夜野先生の何処が変わったのさ?」

「えーと、そうだなぁ……お前じゃ気付けないのかも知れないけど、事故以降さ、お前に対するベタベタっぷりが増した様に見えるってもっぱらの評判だぜ?」

「ベタベタっぷり?」

「ああ」

 確かに母さんの愛情表現は元々過剰ではあるが、それに拍車がかかったと? そう言う様な認識は俺には全く無いのだが……

周囲の目から見て解るほどの変化なら俺も気付いてもいいものなのに……

うーむ、何だか良く解らない。それこそ、俺的には最近の母さんからのスキンシップに物足りなさすら感じているのに。おっと、これは失言か? 言葉としては出力してないけど。

「そうかなぁ?」

「そうだよ。前ならお前が『好きだ』とか言っても、ツーンとそ知らぬ顔だったのに、最近はお前がそう言う事を言おうものなら、顔真っ赤にしてデレデレになるじゃんか? もう、何だよお前ら、新婚カップルかよって感じ?」

「新婚て、お前なぁ……」

 何かが、

「……あれ?」

「ん? どうした?」

 引っかかった気がした。

「今、俺は何が気になったんだ?」

「いや、俺に聞かれても……」

「それじゃあ授業を始めるぞ」

「やべ、先生だ」

「………何が気になったんだ?」

 担任が教室に入って来て、その話はお開きになったが、俺の頭にはうすもやがかかった様に、ぼんやりとした何かが横たわっている様だった。

 母さんと俺の変化?

 そう言えばあの入院の時、いやその前かもしれない、俺は何かを誰かと約束した気がする。

 一体誰と、どんな約束をしたのだろうか?

 それもどうしても思い出せなかった。



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