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婚約者がDV野郎だったのでフィジカルを鍛えてやり返しました  作者: 草野いずみ


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第1話 踏みつけられた刺繍のハンカチ



ロゼッタは婚約者のクリス・サーペント伯爵令息に剣術大会で剣術大会で身に着けてもらうハンカチを刺繍していた。


サーペント家の印である水龍を美しい青と銀で刺繍し、それは見事な出来栄えであった。


「できたわ。これを剣術大会の日に渡しましょう」


ロゼッタは青と銀の水龍をそっと撫でた。


クリスは喜んでくれるだろうか。


最近のクリスはロゼッタに対する扱いが酷くなってきていた。


これで、少し関係が改善するといいのだけれど。


そんなことを考えながら、彼女はハンカチを丁寧に畳んだ。


 ロゼッタ・フォン・ローゼンベルク公爵令嬢とサーペント家との婚約は、幼いころから決められていた。


彼女は淑女としての嗜みをいろいろと身につけてきた。刺繍もその一つだった。


コンコンコン


「どうぞ」


侍女のリリアンが扉を開けて入ってきた。




「ロゼッタお嬢様、クリス様がお見えになりましたがお約束されていませんのでお断りいたしますか?」




クリスに恋愛感情があるかと言えば正直特にない。


親が決めた婚約だから従うのだ。


でも、どうせなら幸せな結婚生活をしたいのだ。


「いえ、大丈夫よ。通してください」


「ええ、それでは呼んで参ります。」


_____バタン。


なんというガサツな・・・


ノックもなくクリスは扉を開ける。


「クリス様、今日はどうされました?」




クリスはこちらを苛立たしげに睨む。


「剣術大会あるだろ?その日はお前は来なくていい」


「え?婚約者が欠席するのは・・・」


「ああああ、だから!!マリエンヌに来てもらうんだよ!マリエンヌが来たほうがいいだろ。」


何がいいのかしら。


「マリエンヌ様…ですか?侯爵令嬢の?」


またもイライラしながらクリスはテーブルをバンっと叩く。


「そうだよ!ったく。マリエンヌなら俺に最高級品の剣を買ってくれるんだよ!」


侯爵家に買えるものを、公爵家が買えぬはずがありませんのに。





侯爵令嬢マリエンヌは、何かとロゼッタに張り合ってくる令嬢だった。


誰もが認める美貌の持ち主だが、自分より注目される相手を嫌っていた。


ロゼッタが注目を集めるたびに嫌がらせをしてくる、厄介な相手だった。


(……また、あの令嬢ですか。)




「ですが、婚約者のいる者は、相手から家紋を刺繍したハンカチを贈られ、勝利を祈願するのが慣例ですわ…… 」


バチィイイイン


え?頬を叩かれたの?


ロゼッタの左の頬が赤く腫れていく。


頬を押さえると、じんじんと熱を持っているのがわかった 。


(やはり……叩かれたのですね)




床には、叩かれた拍子に落ちた刺繍のハンカチがあった。


「ぐだぐだ うるせーんだよ!」


ロゼッタがハンカチに手を伸ばした瞬間、クリスはその手ごとハンカチを踏みつけた。




「痛いっ」


「誰がこんなハンカチなんかいるかよ!」


痛む手をかばいながら、ハンカチを拾い上げ、埃を払う。


「剣術大会に応援にはまいりませんわ」


クリスはなおも苛立った表情を浮かべていた。




「本当に可愛げのない女だな。普通は泣くところだろ。まぁいい。」


クリスは踵を返すと、来た時と同じく、乱暴に扉を開け、そのまま帰っていった。


扉を見つめたまま、ロゼッタは自然と涙をこぼした。




しばらくして、侍女がお茶を持って入ってきた。ロゼッタの顔と手を見るなり、大慌てで手当てを始めた。


その話は瞬く間に公爵家中の使用人たちへ広がった。

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