第41話 壊された街
「随分遅かったな、セフィ?」
目の前に現れたセフィリアの姿を見て、リヴェルは声を掛ける。
「──馴れ馴れしくその名を呼ぶな」
セフィリアは忌々しげに睨みつける。
「いい表情だ。お前があんまり遅いから、もう守るのはやめにしたのかと思ったよ」
「私が来られないようにしていたのはお前だろう、よくもこんなことを」
「そうだったな」
リヴェルは愉快そうに笑う。
「そろそろ言うことを聞く気になったか。
こちらとしては、今すぐにでも女王様を城にお迎えする準備はできているが」
「悪いが、その予定はない。お前がどんな手を使おうと、私がお前たちの元へつくことはない。それを直接伝えにきた」
「そうか、残念だな。この街も、結構栄えていたみたいだけれど」
リヴェルは瓦礫と化した街をぐるりと見回す。
「ふざけるな、もうこんな真似はさせない。命に変えても」
セフィリアは声を荒げ、リヴェルを睨みつける。彼女の周りには風が吹き荒れ、白銀の刃となってリヴェルを切り付ける。
セフィリアの頭には、平和に暮らしていたハルシャの住人の笑顔が浮かんでいた。
今やその街は、見る影も無い。自分を慕ってくれていた街の住民たち。
揺らめくセフィリアの瞳を、リヴェルは動じることなく見つめる。
「この程度のことで、お前がそんなに声を荒げる意味がわからないな」
「街をひとつ、破壊しておいてこの程度だと?
この街にどれだけの人が暮らしていたと思っているんだ」
「だからなんだ? 俺には関係ない」
彼にとって、この街の崩壊も、セフィリアの反応も、ただの駆け引きに過ぎなかった。
彼はセフィリアの魔力を観察する。彼女の怒りの色はしかし、なおも見えなかった。
「──お前も本当は、怒ってなどいないのではないのか? 俺と同じで、もう何も感じないんだろう?」
「どういう意味だ?」
「怒るべき、と思っているだけで、本物の怒りなど感じていない。そうだろう? お前はそういう、薄情なやつだ」
「──無駄話はそのくらいにしろ」
セフィリアは彼の喉元に魔力の刃を突きつける。
「俺を、殺すって?」
リヴェルは顔色を変えずに話し続ける。
「お前に、そんなことができるか?」
「必要であれば、躊躇はしない。私はお前のように甘くはない」
「なら、なぜまだ殺さない?」
セフィリアは黙る。冷たい風が吹き抜ける。
「本当は殺したくないんだろう?
そうすれば国を守れるのにね、お前はそうやって、自分の感傷を優先するんだ。──まあ、俺も黙って殺されるつもりはないが」
リヴェルは防御魔法でセフィリアの刃を跳ね返す。
「なぜここまで、力を求める? ロゼルトのために戦う?」
リヴェルはそれには答えず、セフィリアのことを見やる。しばらく彼女の指先を見つめると、微笑んで目を上げた。
「お前が治癒している、生き残りの皆さんは見逃してやるよ。
それにしても、お前だけは、傷一つ負わず、全くいい女王様だ」
そういって眼下に広がる廃墟を見回す。
「次はちゃんと、守れるといいね」
セフィリアに近づきそう囁くと、風に溶けるように姿を消した。
***
セフィリアは街に降りると、傷ついた住人の手当てに走り回る。
瓦礫の中に、傷付いた住人が溢れている。
「私たちはずっと、助けを求めていたのに」
「なぜ、もっと早く来てくださらなかったのですか」
そんな声があちこちから上がる。
「あんたのために、この街がどれだけ犠牲になったと思っているんだ?」
「あなたのせいでこの街はこんな目にあったんでしょう?」
「今更、謝られたって」
その目には、セフィリアへの不信感が滲んでいた。
彼らの言葉が、視線が何度もセフィリアの胸に突き刺さり、刺すように傷んだ。
しかし、彼女はその痛みを押し殺し、冷静に応え続ける。
「すまない、本当に」
謝罪の言葉は、どれほど口にしても足りなかった。
治癒と補修のため街中に張り巡らせた魔力は、確実に彼女の体力を消耗していく。魔力が流れるたびに、身体がひどく重くなるのを感じる。
それでも、彼女は立ち止まることなく、住民の元を回り続ける。
足元がふらつきそうになるが、彼女はその感覚を無視し、背筋を伸ばして歩き続ける。
住民にこれ以上不安を与えるわけにはいかなかった。街中から、助けを求める声が聞こえる。彼らはセフィリアを待っていた。住民たちを救うことは、彼女の使命だ。そして彼女には、それができるだけの力があった。
広い街中に意識を張り巡らせることで、かなりの魔力を消費していたが、そのようなことは感じさせない態度で、住民一人一人の声に優しく耳を傾ける。
気づけば日は沈み、夜は更けていった。




