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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第3章|王は、ここに在る

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第41話 壊された街

「随分遅かったな、セフィ?」 


 目の前に現れたセフィリアの姿を見て、リヴェルは声を掛ける。


「──馴れ馴れしくその名を呼ぶな」


 セフィリアは忌々しげに睨みつける。


「いい表情だ。お前があんまり遅いから、もう守るのはやめにしたのかと思ったよ」


「私が来られないようにしていたのはお前だろう、よくもこんなことを」


「そうだったな」

 リヴェルは愉快そうに笑う。


「そろそろ言うことを聞く気になったか。

こちらとしては、今すぐにでも女王様を城にお迎えする準備はできているが」


「悪いが、その予定はない。お前がどんな手を使おうと、私がお前たちの元へつくことはない。それを直接伝えにきた」


「そうか、残念だな。この街も、結構栄えていたみたいだけれど」


 リヴェルは瓦礫と化した街をぐるりと見回す。


「ふざけるな、もうこんな真似はさせない。命に変えても」


 セフィリアは声を荒げ、リヴェルを睨みつける。彼女の周りには風が吹き荒れ、白銀の刃となってリヴェルを切り付ける。


 セフィリアの頭には、平和に暮らしていたハルシャの住人の笑顔が浮かんでいた。

 今やその街は、見る影も無い。自分を慕ってくれていた街の住民たち。


 揺らめくセフィリアの瞳を、リヴェルは動じることなく見つめる。


「この程度のことで、お前がそんなに声を荒げる意味がわからないな」


「街をひとつ、破壊しておいてこの程度だと?

この街にどれだけの人が暮らしていたと思っているんだ」


「だからなんだ? 俺には関係ない」


 彼にとって、この街の崩壊も、セフィリアの反応も、ただの駆け引きに過ぎなかった。

 彼はセフィリアの魔力を観察する。彼女の怒りの色はしかし、なおも見えなかった。


「──お前も本当は、怒ってなどいないのではないのか? 俺と同じで、もう何も感じないんだろう?」


「どういう意味だ?」


「怒るべき、と思っているだけで、本物の怒りなど感じていない。そうだろう? お前はそういう、薄情なやつだ」


「──無駄話はそのくらいにしろ」


 セフィリアは彼の喉元に魔力の刃を突きつける。


「俺を、殺すって?」


 リヴェルは顔色を変えずに話し続ける。


「お前に、そんなことができるか?」


「必要であれば、躊躇はしない。私はお前のように甘くはない」


「なら、なぜまだ殺さない?」


 セフィリアは黙る。冷たい風が吹き抜ける。


「本当は殺したくないんだろう?

そうすれば国を守れるのにね、お前はそうやって、自分の感傷を優先するんだ。──まあ、俺も黙って殺されるつもりはないが」


 リヴェルは防御魔法でセフィリアの刃を跳ね返す。


「なぜここまで、力を求める? ロゼルトのために戦う?」


 リヴェルはそれには答えず、セフィリアのことを見やる。しばらく彼女の指先を見つめると、微笑んで目を上げた。


「お前が治癒している、生き残りの皆さんは見逃してやるよ。

それにしても、お前だけは、傷一つ負わず、全くいい女王様だ」


 そういって眼下に広がる廃墟を見回す。


「次はちゃんと、守れるといいね」


 セフィリアに近づきそう囁くと、風に溶けるように姿を消した。


***


 セフィリアは街に降りると、傷ついた住人の手当てに走り回る。

 瓦礫の中に、傷付いた住人が溢れている。


「私たちはずっと、助けを求めていたのに」

「なぜ、もっと早く来てくださらなかったのですか」


 そんな声があちこちから上がる。


「あんたのために、この街がどれだけ犠牲になったと思っているんだ?」

「あなたのせいでこの街はこんな目にあったんでしょう?」

「今更、謝られたって」


 その目には、セフィリアへの不信感が滲んでいた。


 彼らの言葉が、視線が何度もセフィリアの胸に突き刺さり、刺すように傷んだ。

 しかし、彼女はその痛みを押し殺し、冷静に応え続ける。


「すまない、本当に」


 謝罪の言葉は、どれほど口にしても足りなかった。

 治癒と補修のため街中に張り巡らせた魔力は、確実に彼女の体力を消耗していく。魔力が流れるたびに、身体がひどく重くなるのを感じる。


 それでも、彼女は立ち止まることなく、住民の元を回り続ける。

 足元がふらつきそうになるが、彼女はその感覚を無視し、背筋を伸ばして歩き続ける。


 住民にこれ以上不安を与えるわけにはいかなかった。街中から、助けを求める声が聞こえる。彼らはセフィリアを待っていた。住民たちを救うことは、彼女の使命だ。そして彼女には、それができるだけの力があった。


 広い街中に意識を張り巡らせることで、かなりの魔力を消費していたが、そのようなことは感じさせない態度で、住民一人一人の声に優しく耳を傾ける。

 気づけば日は沈み、夜は更けていった。


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