4話 『デザルト・シィナイパー』.84
「やっと動ける」
「おお、治ったか」
「治ったか、じゃねぇよ。ポーションかければよかっただろ」
「そんなところに使うと無駄になるだろ」
「はぁ、まあいいわ。で、あとどんぐらいだ?」
「わからないな。そもそも、行ってる人が多くない。今までなかった場所だしな。辺境伯が情報を持ってるのがおかしいんだよ」
ゴゴゴゴゴゴ
それはそうだ。今まで情報がなかった場所⋯⋯いや、あるにはあったか。開示されてないだけで。そりゃあそうだよな。文献が残っていてもおかしくはない。なら、問題なのはどこからその文献を手に入れたのかだ。やはり⋯⋯
「おい、あれじゃないか?」
アルクスが前方を指差す。その先を見てみれば、地平線に重なって、石造の建物のようなものが見える。
ゴゴゴゴゴ
「おい」
「多分そうだな」
「飛ばす「後ろ!」か⋯⋯へ?」
俺の声に重なったノーシュの声に反応して、思わず後ろを見てみればくそデカい蠍が⋯⋯蠍?!
うわ、これあれだわ。こいつもあの森から来たやつだわ。作りがスパイピオンに似てるんだもん。
「逃げろ逃げろ」
「これ、多分無理だぞ」
「戦うか?」
「デザルト・シィナイパー。レベルは⋯⋯58か。高くも低くもって感じだがッ」
アルクスとノーシュを狙って、デザルト・シィナイパーがハサミを振り下ろす。
デザルト・シィナイパー⋯⋯なげぇな。デザシィとかでいいか。そのデザシィだがデカいんだよな。大きさ的にはアレーナウィルムス、しかも俺たちが会ったクソデカいバージョンじゃないやつよりも小さくはあるが、それにしてもでかいな。小型トラックよりちょい大きいくらいか。
「戦うしかなくね、今も襲われてるし」
俺もギリギリだし───
ビリ
───は?
直後、俺の体が砂の海に投げ飛ばされる。
「ディグニ!」
アルクスが叫ぶ声が聞こえる。
そんなことより、ヴァルヴァイス装備は?
あの音的に破れたのか。そう言えば耐久値確認してなかったな。そこそこ使い古したし。いや、ほぼエフメリアさんのせいなんだが。武器を試すときヴァルヴァイス装備だったし。ボコボコにされたし。
って、そんなこと考えてる暇ねぇ。
真隣で砂が舞い上がる音が聞こえる。数メタルずれてたら当たっていただろう。
体を捻り、デザシィへと振り向きながら起き上がる。
すでにデザシィのハサミは振り上げられている。アルクスが援護しようとしているが、間に合わないだろう。視線をタブレットに移すこともできない。手動で装備を変えられない。ガード自体はフェルサタンでできるが、それだけじゃあダメージを受けきれないだろう。
なら⋯⋯
左中指につけている指輪を口元へと持ってくる。
「凝着」
直後、ウルフが溶けて高速で動き出し。俺の体へとまとわりつく。
それと同時に下されたデザシィのハサミをフェルサタンで受け止める。
「アルクス」
「目を狙うぞ」
言った通りに、アルクスの放った矢がデザシィのに左目を貫く。
それにより奇声を上げるデザシィの右懐、死角になっている部分に入りこみ、右脚を斬る。
体制を崩したデザシィを追撃するように、馬から飛び出したノーシュが関節部を次々と斬っていく。
それにより、デザシィの体が完全に地面へと倒れ込む。
「ノーシュ、上へ道を」
「了解」
ノーシュが上へと道を作っていく。
これがアルクスだったらなぁ。もう少しすんなり登れたんだろうけど、できないものはできない。まぁ、別にノーシュが作る道が進みにくいわけじゃないがな。ノーシュのはただ美味い料理で、アルクスのはお母さんが作る所謂お袋の味みたいな感じだ。
そんなことを考えつつ、いい感じの高さまで登ったところで飛び降りる。と、同時に〈鋼灰塔盾〉を真下へと出現させる。
感触から、外殻は斬撃が通る硬さではない。ダメージを通すなら打撃の方がいいだろう。が、俺が持っている打撃武器は〈鉄拳萬壊〉くらいだが、ありゃ対人用であってモンスター用じゃあない。第一、俺の膂力じゃ破壊なんて無理だしな。
だから、〈鋼灰塔盾〉をぶち落とす。
重力により加速した〈鋼灰塔盾〉が、デザシィの脳天にぶち当たる。それは外殻を破壊するには十分な威力であるが、脳天にまでは届かない。しかし、そうなり得ることは想定済みだ。
すでに足装備を〈爆鱗樏〉に変えている。
「【酷使無双】」
落ちている体を横にし、爆発の勢いを使って回転しながら〈鋼灰塔盾〉を思いっきり蹴る。
【酷使無双】により、大幅に上がったステータスで蹴られた〈鋼灰塔盾〉がデザシィの脳天を貫く。デザシィはポリゴンへと変わる。
『討伐 デザルト・シィナイパー Lv58』
『〈称号 虫殺し〉』
うわ、久しぶりに見たな称号。あとで見ておくか。




