9.とある女子生徒の決意
この学園には、女子の人気を二分する存在がいる。
レイモンド・ベキャモント様
キース・サバティーニ様
レイモンド様は、氷の貴公子と呼ばれる美形で、輝くプラチナブロンドが、月の光のよう。
かたや、キース様は、艶やかな黒髪は、光を弾いて、紫の色をするみせる。まるで黒豹のように野性的な魅力溢れる方。
入学当時から、同級生はもとより、先輩達にも注目されているお二人。
ベキャモントとサバティーニと言えば、この国で名門中の名門。
サバティーニは一時期傾きかけたとの噂もあったけど、現在は順風満帆。
女子の注目が集まるのは当然だ。
レイモンド様は、夜会では、穏やかな笑みを浮かべる、白薔薇の令息なのに、学園内では、ニコリともされない、氷のような方。
1目でいいから、夜会での笑顔が見てみたいと、何人の令嬢がチャレンジして、散っていったか。
その夜会すら、ほとんど参加が無いと言うのに。
それでもふとした拍子に上を見上げ、前髪をかきあげて、唇に笑みを浮かべる姿を見てしまった令嬢は、彼の下僕となるしかない。
キース様は、レイモンド様ほど冷たく凍った感じでは、ないが、私たちに対する無関心さでは、レイモンド様に勝るとも劣らない。
男子生徒と、休み時間に興じている姿は、まるで少年のような初々しさがあり、私達の胸はその笑顔に高鳴るばかり。
それなのに、女子生徒には、つれなくて、やはり何人もが玉砕した。彼の返事はいつも同じ。
好きな人がいるから。
婚約もしていない彼が好きな人は誰なんだろう?
そして、進級を前にしたある日、私は見てしまった。
水色の鳥を肩に乗せたキース様に、誘われるように近寄るレイモンド様。
そして、二人の距離が近づき、レイモンド様の手が伸びて、キース様の肩へ。
するりとかわすキース様、追うレイモンド様。
ついには、両手で鳥ごとキース様を抱きしめるその姿。
ああ、そういう事だったんだと、目の前の素晴らしいお姿に感動した。
私達が入り込めない世界を、お二人は共有されていたのだ。私はこの姿を心に留め、お二人を応援しよう。
それだけが私達に許される全てなのだから。
*****
お兄様とキースの姿が見たい私は、図書室で見つけた、マナで作り出す鳥を必死に練習した。
それが鳥の形を取るまでに2週間。
やっと羽ばたき、空を飛べるようになるのに1ヶ月を要した。
そして、鳥の目を通して、映像を私に届けるには、更に2ヶ月。
ついに、ついに鳥が完成した。
私は、その水色の鳥を離れた学園に飛ばし、ベッドに横になって、鳥と視界を共有する。
大空を飛び、上から見下ろす、初めて見る景色は素晴らしかった。
大きな木の上に羽を休め、キョロキョロと見回す。
あ、お兄様。
すぐそばの気の下に腰を下ろし、本を読むお兄様。
私の視線に気づいたのかしら。前髪をかきあげながら、鳥を見上げて、笑みを浮かべられた。
これは、絶対にバレてるわね。
お兄様ったら、鋭すぎます。
でも、気づいて貰えたのは嬉しい。もっと練習しよう。
お兄様達が2年に進級する時が近づいた。
あとまだ一年、同じ学園に通う事ができない。
でも、私の鳥は画期的な進化を遂げた。なんと、喋ることができるようになった。
これで、見ているだけでなく、寂しくなったら、お話もできる。なんて素敵なんでしょう。
キースの元に飛ばした鳥を、彼の肩にとまらせた。
「キース、レイラよ。」
「姉さん、見るだけじゃなくて、話せるようになったの?」
「やっぱり見てるの、気づいてたのね。」
「もちろん。」
「レイラの声がする。」
いつの間にか、お兄様がキースの側に来ていた。
「レイラ、どうして、私じゃないの?」
そう言いながら、手を伸ばす。
「触るなレイモンド。今日の姉さんは、俺のもの。」
するりと逃げて、お兄様の手をかわす。
「レイラの全ては私のもの。初めての会話なのに酷いじゃないか。」
キースが逃げるので、結局、捕まえられて、私の鳥は、お兄様の手の中へ。
奪われまいとするキースとの攻防がおかしくて、私はベッドの中で、一人大笑いをしてしまった。
「今度から、キースの所に行く前に、私の所に来ること。約束してね。レイラ。」
お兄様のおねだりに私は笑いながら頷いた。