第2話・コンプリケーション少年編
その日の授業や自分のしたことは全くと言っていいほど覚えていない。
今、目の前で広がっているこの光景がどんなものであろうと自分は何も知らないしやっていない。
そんな思いを脳裏にめぐらせている少年の目の前にはあの彼女の死に体があった。
カレンダーを確認してもその日は普通に平日で長期休みでもない期間。
外はすでに日が昇り始め、光が外を覆い尽くそうとしている。
古びた廃ビルの何階かに少年は口元を鮮血の紅に染め、そこからは鉄分の独特な臭いと味がする。
手は染まっておらずなぜか口元だけが紅に染まっていた。
彼女の死に体はところどころ不自然な所があった。
まず、なぜか眼球が片方だけ無いこと。次にバラバラではないがなぜか人の歯型がついていた事。そして、その歯形がある近くの体の部位は必ず喰い焦られていた事。そこの部分の血管やら肉がなく骨だけがゴミを捨てるかのようにすこし離れたところにあった。
そんな状況の彼女を目の前に少年は足がすくむどころかなぜかうごかなくなっていた。
あの日、あの場所で彼女から問われ答えた自分のあの解答はなんだったのか。アレはまだ人の死について何も経験がなく客観的にしか見れない自分が恥ずかしくも格好をつけ世間体を気にした自分に酔っていた答え。
そして、少年は全てを思い出すかのように記憶があの日の……彼女と初めて会話をしたあの時までさかのぼって行く。
それは数日前のことだった。
「ねぇ、君は人の死について興味あるかしら?」
彼女は突然少年にそう問うてきた。
突然のことだったので思わず「はっ?」と目を少し見開き聞き返してしまう少年。
「そうね。その反応はあってるわ。けど私が今、聞きたいのはあなたのそんな言葉じゃなくてちゃんとした私の今の問いに対する解答よ」
彼女は座っている少年の隣で体育座りをしてこちらを顔を半分隠しながら見つめながら問いてきた。
これが何ら変わり映えのない普通な会話の内容だったら、彼女の見た目からして少年は簡単にときめいただろうし、恋心を覚えていたかもしれない。
しかし今のこの会話内容と何とも言えない行動と言うより挙動がそんなときめきさえも忘れさせてくれるかのように酷く脆い現実を押し付けてくる。
「……そんな急に言われてもな。人の死について興味があるないかと言われたって、そんなのわかんねぇよ」
「あら? そうなのね。私はてっきり興味がまったくもって皆無だと思っていたわ。今回のこの件についても何の動揺も見られなかったし」
「動揺も何も、ただ周りにいた人が1人、2人死のうが一緒だろ? けど流石にあいつが死んだって聞いた時は少しは驚いた気がするから、完全に興味がないっていったらウソになる」
「そうね。少しでも何か心を動かしたってことになるわね。けど、そこまでではない。だからわからない」
「そうだな」
彼女の少し茶色がかった長い髪の毛がゆらりと風に乗るかのようになびく。
今日初めて話した彼女相手に少年はなぜこんなにも自分の心境を話せるのか? なぜ、こんなにも自分の気持ちに簡単に嘘をつけるのか? 不思議で仕方がなかった。
「あ、私とってもいいこと思いついたわ」
彼女がその場ですくっと立ち上がる。
「今夜、あなたが本当は人の死についてどう思っているか検証するの。どうかしら?」
「どうかしらって……まぁ、別にいいけど」
「なら、決定ね。今夜、あの廃ビルでまた会いましょう」
彼女は校舎の屋上から南東の方角を指さした。
そこにはバブル期に建てられたであろう高層ビルらしきものがそびえたっていた。
それは地元でも有名な廃ビルだった。
「わかった。あの廃ビルだな」
少年は立ち上がりそのまま屋上を出て行った。
その後を追いかけるかのように彼女も屋上を出ていく。その時、彼女がなぜか口元を少しひきあげ笑っているように見えた。
そして彼女が屋上を出ると扉が勝手にしまった。




