第2話
「さてと」
小学生の少女が“コロシヤ”に訪れた日から翌日
少女との約束の日の午前
雑貨ビルの屋上で珍しく洗濯物を干していた
「この白いシーツっていったい何に使ったんだ?」
少年が両手で持ち思いっきりシーツを広げる
「そのシーツはソファーの前のテーブルの上に敷いてるやつじゃん」
「そう言えば敷いてたな」
少年と少年の隣にいる女性は何気ない会話をしている
本当に何気ない会話
誰でも生きているうちに一度はしそうな何一つ特徴のない
平凡で普通で有象無象のような会話
しかし今はそんな会話が愛おしい
なんと言っても
今日の午後に小学生の女の子の自殺を始めるのだから
「そう言えば珍しいね」
「何が?」
「洗濯手伝ってくれるの」
「人として当たり前のことだろ」
「今までその当たり前ができてなかったのはどこの誰だっけ?」
「下の階の人じゃない?」
「もー。ごまかさないの」
少年はわざとらしく空をみる
そんな空は雲がまばらにあり鳥たちが自由に見えるように飛んでいる
一見自由に見える鳥だが空にある様々な人工障害や敵を避けて飛ばなければならない
常に命がけなのだ
そんな鳥たちを見て少年は思う
「なぁ。見せかけの自由ってさあると思うか?」
「急にどうしたの?」
「いや。何となく」
少年は白いシーツを物干しざおに干してその場に座る
となりにいた女性も少年と同じように座る
「たまにはこうやって空をゆっくり眺めるのもいいね」
「確かにな。忘れられないようなことでさえも一瞬だけだけど忘れさせてくれる」
「まさかまだ迷ってるの?」
「何が?」
「今回の依頼」
「そんなわけないだろ。それにもう受けた依頼だ。迷っていたとしても断るわけにはいかんしな」
「さっすが。できる人は違うな~」
「褒めても苦悩しか出ないよ」
少年が自嘲気味に笑う
どうやらまだ依頼を受けてよかったのかどうか悩んでいるようだ
少年の小さな体には大きな悩み過ぎる問題だ
「やっぱり悩んでるんだ」
「あれ?気付いたの」
「苦悩しか出ないとか言っている時点で気付かない方がおかしいよ」
「言われてみれば」
少年はさらに自嘲じみた笑いをする
それが今の少年にとっての精一杯の笑顔
「悩んでる時は私にちゃんと言いなさい。他にも商人と運び屋とかがいるけどすぐに悩みを聞いてあげられるのは私だけなんだからさ」
「じゃ、遠慮なく」
「どーんとこい!」
「実はさ、いまだに悩んでるんだよね。女の子を自殺させていいかどうか」
少年はなぜか下を向き時折苦虫を食いつぶしたかの様な表情で涙を浮かべる
「今回、流石に最初は驚いたけどなんか感覚が麻痺しちゃっているようで徐々に慣れちゃったんだよね。けど今になって考えてみると本当によかったんじゃないかとかこれが女の子の運命だったら悲劇過ぎるとか。そんなことばっかり考えるんだ」
「ふーん」
「え?何その反応」
「いやさ今運命とか言っちゃったよね」
「言ったな」
「何か勘違いしてるんじゃないのかな?」
「え?」
少年は驚いて女性を見る
女性は少年の方を向いて物凄い真剣に少年を見ている
「運命とかそんなのないから。出会いとか別れとか喜びとか悲しみとか皆が皆すべて運命だったらそんなのつまんないし生きている意味なんてなくない」
「そうか?」
「だって決めつけられてたら嫌でしょ。今までのことも今現在のことも。こうやって青空の下で悩みを暴露してたり私がそれに答えてたり。それが全部必然的におこったことだったら嫌でしょ」
「嫌だな」
「だからこう考えるの。運命が自分のことを決めるんじゃなくて自分が運命を決めるんだって」
「ちょっとよくわからない」
「まぁ。そこら辺は深く突っ込まないでよ。私だってそんなにわかってるわけじゃないからさ」
「マジかよ」
「マジだよ」
少年は少し自嘲気味に笑うがさっきとまではどこか違い少しすっきりした笑い顔になっていた
「あれ?そう言えばさ」
「うん?」
「今の話からどうくみ取って女の子の悩みを解決させればいいの?」
「あ・・・」
「忘れてたろ。なぜか運命について熱弁してたからな」
「ごめん」
「ま、いっか。なんか気分晴れたし」
「いいの!?」
「なんかどうでもよくなってきたわ」
少年は完全と言えないが笑い顔が少しずつ自嘲さが抜けてきているような気がしなくもない
「じゃ。俺先に下に言ってるわ」
「はーい」
少年は立ち上がり階段を下って行く
女性は立ち上がらずに一人空を眺めていた
「はぁ。今回の依頼で悩んでいるのは私もなんだよね:
誰にも聞こえない声で女性はつぶやく
「あの時ちゃんとしていればな」
女性には今年にちょうど依頼人の女の子と同い年ぐらいの子供がいるはずだった
しかしそれはまた別のお話
また今度時間が取れたらゆっくりと
「私も下に行くか」
そう言って女性は立ち上がり“コロシヤ”に戻って行った




