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裏切り

『どういうことだ!?どうなってる!?なぜコイツらが朧を追ってる!?まさかあの赤い光線の狙撃手の仲間か!?』



 時雨の蒼い瞳に映る、困ったように眉尻を下げて微笑む銀髪の少女の写真は、さらに時雨の思考を加速させる。



『いや、待て!落ち着け!そもそも誰かが朧を探すことは不自然じゃない!昨晩、朧の声は、空中で起きた小爆発の後、地上に降下し始めた!おそらくは、朧を乗せた航空移送手段が狙撃によって撃墜されたためだ!なら!』



 時雨の思考は、状況から1つ、結論を導く。

 つまり、



『朧を狙う対立した人物ないし組織が、2つある!』



 しかし、平静を装う顔を上げ、数枚の資料を捲る時雨にはその先がわからない。

 なぜなら、



『朧は、〔こんな連中に追われるような重要人物〕なのか!?』



 時雨の前には、驚異の戦闘力を持つ黒の少女が、クンクンと周囲の臭いを嗅ぐ姿。波崎の渡したハンカチで涙を拭う、屈強な東全獅がいた。

昨晩の狙撃と小爆発から、凛名がある程度以上に複雑な事情を抱えていることを察していた時雨だったが、まさか少女を誘拐した自分の下にその追跡者なり保護者なりが現れるとは思っていなかった。

 だが、時雨の思考はそこからさらに新たな事実を捉える。



『いや、この状況は不自然じゃない。波崎和馬と言えば、ヨロズに詳しいその道の人間なら、まず最初に上げる最高の探偵だ。なら逆に言えば、〔引っ越し前の波崎さんに無理を言ってでも捜索させる必要があるほど、東全獅と絶薙大和の側は切羽詰まっている〕ってことだ』



 そして、



『〔同じように、両親と仲間を探すために切羽詰まっている俺〕が、波崎さんのところにいた。ただそれだけのことで・・・』



 時雨は緊張に震えそうなる指をゆっくりとした深呼吸で沈め、



『この2人は、俺が朧を確保していることは知らない。少なくとも、俺は昨晩朧を連れ帰った時、細心の注意を払った、なら連中は、単なる必然でここにいるんだ』



 少年は、そう結論づける。まだ自分に落ち度はないことを確認し、呼吸を整える。

 そこへ、



「あれ?時雨くん?もしかして見覚えある?」



 時雨の図星を指す言葉が、隣で東全獅の頭を撫でていた波崎の口から放たれる。

 そして、時雨は、



「・・・」

「・・・時雨くん?」



 間を置いて、言った。



「いえ、すみません。思い違いです。さっきすれ違った銀髪は、瞳の色が緑でした」



 時雨は、こうしてアッサリと大恩ある波崎を裏切った。

 探偵の本分を考えるならば、ここで事実を隠蔽するメリットはない。

 しかし、



『これで、いい』



 時雨は、〔探偵になったから両親と仲間を探している〕のではない。〔両親と仲間を探すために、探偵となったのだ〕。

 だからこそ、



『ここで朧を渡すわけにはいかない。少なくとも、親父に関する情報を手に入れるまでは』



 時雨は、築いてきた実績や信頼すら犠牲にしてでも、この瞬間に賭ける。そのための3年だと、波崎に対する身を切るような罪悪感を、動揺を消した表情の下で押し殺す。

 だから、



「そう、かあ。まあまあ、そんな簡単なものではないからね」

「頼りにしてるよ、時雨くん」

「ええ!任せて下さい!」



 時雨は、微笑みの下に真意を隠して、波崎と持ち直した東全獅にそう応える。凛名に関する情報、引いては〔両親と仲間〕に関する情報を東達が持つ可能性が出て来たため、先程までなかったやる気を全面に押し出す。3人の男が、契約や捜索範囲などの打ち合わせ、停止していた波崎の捜索ネットワークの復旧について話はじめる。

 だから、



「おい・・・おい!」

「ん?どうした?大和?」

「まあまあ、どうされましたか?」

「・・・」



 時雨は、突然大声を出した少女、今までずっとクンクンやっていた大和を怪訝な横目で睨む。これからだという時に水を差された苛立ちが、時雨の三白眼に威圧感を与える。

 しかし、



「この部屋に、爆弾が仕掛けられている」



 大和の言葉は、灰色とオレンジと蒼の男達の動きを止めるに、十分な破壊力を持っていた。


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